「最近天候が変わりやすいですよねぇ」

「そーですね」

「今日なんて暑すぎると思われませんか?やっぱり温暖化が進んでいるんでしょうねぇ」

「そーですね」

「って、名前さん。さっきからなんなんですかその返事は。私はタモさんじゃないですからね」

「そーですね」

「私はそんな娘に育てた覚えはありませんよ!まったく、いい年をした娘が休みだからと言ってぐーたらとしていて良いと思ってるんですか?」

「いいとも〜」


まだ4月だというのにこの暑さ。
温暖化って怖いよね〜。なんというか、中途半端に暑くて何もやる気が起こらない。
こんな時期からエアコン付けてると電気代が馬鹿にならないしな〜
その場しのぎにクローゼットからもってきた団扇でなんとか風を送ってみるものの、いっこうに涼しくならない。
っていうか本田さん。着物なんて着てて暑くないんですか。


「本田さんの服装って何時見ても暑そうですよね」

「そうですか?夏は甚平などを着る事もあるのでそうでもないですよ」

「そうですかー」


聞いてみたけど別にどうでもいい事だった。
そういえば何で本田さんは私の家に居るんだっけ…
あー…そういえばネタが何かとか言ってたなぁ


「本田さんの連載漫画の人気はどうなんです?」

「始まったばかりなのでなんとも言えませんが出だしは良好ですよ。やはりモデルが居るとペンの進みが速いですし以前のように締め切りギリギリに書くという事は無くなっています」

「へぇー…」

「はぁー…。…まったく、年頃の女性がそんな格好をしてだらだらとするもんじゃありませんよ」


ギルのソファーに寝転がって本田さんの顔を見上げると大きくため息をつかれた。
あれ、そういえばさっきからギルが居ないような…


「ギルー?」

「なんだよ」

「って、あんた冷蔵庫で何してんの?」

「涼んでる」

「ってうぉおおおおおい!!!!電気代の無駄だろうがエコしろよエコォオオオ!!」

「暑いんだよこの部屋!!っつーかこれ外の方が涼しいんじゃねぇ!?」

「だったら外行けやぁあああああ!!」


猛ダッシュで駆け寄り冷蔵庫の扉を閉める。
不満そうに私を見上げたギルの頭を殴ると「ドメスティックバイオレンス」と呟かれた。
何処でそんな言葉を覚えてくるんだ、この子は


「三人で散歩にでもでかけませんか?」

「そのネタ昨日やりましたからー。ヘラクレスさんとこ行きましたからー」

「ネタとか言うんじゃありません。だったら名前さんが前に言っていたカフェに連れて行ってください。巨乳の女性も気になりますし」

「ちょ、本田さんが巨乳とか言わないでくださいよ!!」

「それじゃあボイn「本田菊のイメージをぶち壊すなぁあああああ!!!」




―――




「そういうわけでやって来ました」

「よく分からないけど来てくれて嬉しいわ、名前!いつも違う人を連れてくるのよねー名前って。ふふふ。流石私の名前。モテるのよね〜」

「え、私のって何!?違うからね!!皆普通の友達だから!!」

「この女に寄り付く男が居ると思ってんのかよ」

「あら、今何か聞こえた気がするけど空耳よね。だってここには名前とそちらの素敵な方しかいませんもの」

「ありがとうございます」

「…」

「手が空いたら後で来てねー。本田さんを紹介したいから」

「本田さん…。ええ、分かったわ!」


花のような笑顔で笑うエリザ。
周りのお客さんも見とれてるよ〜
やっぱり美人だよなぁ…


「確かに大きなお胸をされていますね」

「そこか。顔見ろ、顔」

「男なんてそんなもんですよ名前さん」


嫌だ。本田さんのそんな部分見たくない。


「そう言えば彼女とギルベルトさんは幼馴染でしたよね?なんて美味しい設定なんですか。詳しく聞かせてください。お互いの窓から行き来したりなんてお約束な事はなかったんですか?」

「そんなに家も近づいてねーし幼馴染って言っても親同士の付き合いだけだからな」


親同士の付き合いか〜。そういえばエリザは昔男みたいに育てられたから喧嘩も強かったんだよね。
かっこいいなぁ〜


「おや、名前じゃありませんか」

「ローデリヒさん」

「今日はもう一人のお馬鹿さんも一緒なんですね」

「もう一人って何ですか、ギルはともかく私はお馬鹿じゃありませんよ!」

「やっぱり気にくわねぇぜこの坊ちゃん!!」

「こらギル。お座り」

「名前さん!!さっきのイイです…!!録画をするのでもう一度お願いします!!」


デジカメを私に向ける本田さんを睨みつけると「その顔もいただきです」とシャッターをきられた。


「そちらのお方はどなたですか?」

「私のマンションのご近所に住んでいて仲良くさせていただいている本田菊さんです」

「始めまして、本田菊と申します。名前さんのほうからかねがね伺っております。なんでもとっても素敵な演奏をされるとかで…」

「おや…この方本当に貴方の知り合いの方ですか?」

「どういう意味だコラ」

「私はローデリヒと言います。これから演奏を始めるので聴いてらしてくださいね」


上品に微笑んだローデリヒさんは「それでは」とお辞儀をしてピアノの方に向かった。


「素敵なお方ですね…。なんと言うか、ストイックむんむん?」

「その表現はどうかと思いますが素敵な方ですよ。お馬鹿扱いされるのが気に食わないですけど」

「あの気取った所が腹立つんだよな…」

「ああ言った委員長のキャラは欠かせない要素ですよ、ギルベルトさん」

「ギルに変なこと教えないでください本田さん」


ただでさえ最近オタク化が進んでるっつーのに…
ギルが「絶対領域萌えるー」とか言い出したら本田さんに責任とってもらうからな。


「お待たせ、名前」

「忙しいのにごめんねー」

「大丈夫よ、ちょうど休憩の時間だし。それに名前とそちらの方と三人でお話したかったから」

「テメェわざと俺はカウントしてねーだろ!?」

「あら、今何か聞こえた?空耳よねぇ」


どうやらエリザ姐さんはギルの存在を無視することにしたらしい。
不憫だな、ギルベルトよ


「私はエリザベータと言います。日本に憧れてハンガリーから来ました。だいたい毎日ここで働いているので何時でも会いに来てくださいね」


うっわー…。ここに来るお客さんはこれで落とされるんだろうなぁ〜。
会いに来てくださいね、なんて言われちゃったら毎日でも通いたくなるよこれは…!!


「ありがとうございます。名前さんにこんな素敵なお友達がいただなんて驚きましたよ」

「そうでしょう?私の自慢の親友ですから!」

「名前!!とっても嬉しいわ!私だって名前のこと大好きだし愛してるし色々悪戯してやりたいと常日頃から思っているのよ」

「え…?」


なんか今不穏な言葉が入り混じっていたような…
うん、気のせいだ。気のせい気のせい


「私は名前さんのご近所に住む本田菊と申します。宜しくお願いしますね、エリザベータさん」

「え…」

「どうしたのエリザ」

「本田、菊って…!!」

「私がどうかしましたか?」

「あの、失礼ですがご職業は…」


立ち上がって身を乗り出し本田さんを見つめるエリザ。
どうしたんだ…?こんなエリザはじめて見た。


「お恥ずかしながら漫画家をやっています。ペンネームを使わず本名でやってるのですが、もしかしてご存知ですか?」

「し、知ってます勿論…!!あのっ、私大ファンなんです貴方の作品んんんんん!!」

「エリザー!?」

「マジかよ…」


フルフルと震えた手で本田さんの手を握り締めたエリザの瞳にうっすら涙が浮かんでいる。
え、ちょっと待って?本田さんのファンって…確か本田さんの漫画は男性向けのはずじゃ…


「うそっ!!どうしよう!どうしよう名前!!」

「気持ちは分かるけど落ち着こうか。えっと、エリザは本田さんの漫画のファンなの?」

「漫画どころかイラストだって素敵だし色遣いも繊細でとっても綺麗で…!!やだ、嬉しすぎてどうしよう!?」

「分かんないよ私にも!!」

「嬉しいです、こんな所でファンの方に会えるだなんて」

「でも本田さんの漫画って男性向けじゃなかったでしたっけ?確か萌え〜、みたいな…」

「名前さん。萌えに男も女も関係ありませんよ」

「そうよ名前!!萌えも恋愛も男も女も関係ないのよ!!むしろ同姓恋愛萌えよ!!」

「エリザベータさんはそちらの方なのですね…。私も男ですが薔薇もいただけますしもちろん百合も美味しくペロリといただいていますよ!!」

「キャァアア!!!流石は本田先生ですね!!尊敬します!!」

「菊で構いませんよ。同族としてこれからももっと交流を深めましょう。レッツオタク。むしろ自重って美味しいの?ですよ!」

「そうですね、周りの目なんて気にしてたら生きていけませんからね。あぁもう本当に菊さん素敵だわ…!!」


ダメだ、全然話についていけない…
ってゆーかさっきエリザ同姓恋愛萌えとか言ってなかった…?
え、ちょっと、もしかしてエリザってそっちの方ですか…?


「そういえば名前さん学生時代も友人の方がBL好きだったって言ってましたよね」

「そうなの!?もう、早く言ってくれればいいのに。今度からは二人でそっちの方面のお話もしましょうね」

「嫌ぁああああ!!やめてーー!!私の中のエリザのイメージがぁああ!!!」

「だったら名前さんもこちら側へいらっしゃ〜い」

「いつでも歓迎してるわよ〜」

「嫌ぁあああ!!」


嘘だよこんなの、嘘だと言ってぇええええええーーーーー!!!


「おい名前」

「何んだよもう!!」

「百合とか薔薇って花の事だろ?全く話が理解できねぇ…」

「お前は知らなくてもいいんだよばかぁぁああああああ!!!!!」

「おまっ、何泣いてんだよ!?」

「なんで私の周りっていつもこうなの…」

「そういう運命なんじゃないですか?これも使えそうなのでネタにいただいちゃいますね」

「菊さんの新連載ってやっぱり名前がモデルだったんですか!?なんとなく主人公が名前っぽくて萌えだと思ってたんです」

「その通りですよ。エリザさんのようなキャラクターを出すのも良いですねぇ…」

「あら…。その時は色々とご協力させていくださいね。ふふふふ」

「アハハハ」

「ギル、帰ろう。これ以上居たらギルが汚れちゃう」

「だから何のことだよ!?」

「ギルベルトさんは知らないほうがよろしいかと…」

「それじゃあエリザ、本田さん。また今度」

「またね、名前」

「またネタを頂戴しに伺いますので」

「テメェはもう来んな」

「いやぁ、本当に蔑むような目や表情が上手くなりましたねぇ名前さん」

「流石私達の名前ね」

「なぜ”達”をつける、エリザ」


ギルの腕を引っ張ってカフェを出、大きくため息をつく。
まぁエリザがあんなにはしゃいでるのって初めて見たし…これで良かったのかな。
あんまり友達が居ないって寂しがってたし本田さんみたいに趣味の合う人が居てくれると心強いよね。ああ見えて頼りになる人だし。
それにしてもエリザがあんなに腐じょ…オタクだったとはなぁ〜
そういえば前に本田さんが「ハンガリーはゲイビデオのメッカですよ」とか言ってたような…
うん、あんまり深く考えないようにしよう…

帰り道の最中、ギルがずっと「なんのことなんだよ、あれ」だとか「説明しろよ!」だとか喚いていたけど気にしない。
しかし家に帰ってまでしつこく聞いてくるので、「知ったらあんた取り返しのつかないことになるよ?」と冷たく言ったら「
う…」と唸り静かになった。

青年よ、純粋であれ。


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