「ギル。私ちょっと出かけるけど一緒に行かない?」

「どこまで行くんだよ」

「ちょっと御散歩程度にぶらぶらするだけだよ。ねー、一緒に行こうよー」

「ったく、そんなに俺様と一緒に行きたいいっつーならしょうがねぇよな」

「わー素敵な勘違い」


ったくいつも偉そうなんだからなぁ〜。


「ちょっと行きたい場所があるから付き合ってね」

「はぁ?どこだよ」

「ついてくれば分かるよ〜」


―――



「ヘラクレスさーん」

「…名前」

「こんにちは〜。さっそく猫ちゃんに会いに来ちゃいました!いきなりでごめんなさい」

「いらっしゃい。今日は暇だったし、大丈夫」


猫を抱いて玄関先に居たヘラクレスさん。
この間は少ししかお話できなかったし、もっと色々喋ってみたかったんだよね〜。
それに猫にも会いたかったし


「あ、このふてぶてしい連れはギルベルトって言います」

「なんだよふてぶてしいって…」

「ギル、こっちはサディクさんと同じアパートに住んでらっしゃるヘラクレスさん。アルフレッド君達の通ってる大学で教授やってるんだって!凄いよねー」

「上がって。だけど今こいつを治療しなきゃいけないから部屋で待ってて」

「治療って…。あ、その子猫足怪我してる…」

「餌の時間に怪我して帰って来た。多分どこかで喧嘩したんだと、思う」


ヘラクレスさんの腕に抱かれた子猫の前足に、何かにつつかれたような傷があった。
傷が深そうだ
カラスにでもやられたのかなぁ。
プルプルと震えてるし、大丈夫だろうか…


「弱ってんじゃねーか。大丈夫かよ?」

「どうだろう…」

「病院とか連れて行ったほうがいいんじゃないですか?」

「うん…。その方がいいかもしれない」

「確か近くに動物病院があったよね。休みじゃなきゃいいけど」


子猫の顔を覗いてみると、ぎゅっと目を瞑って震え続けていた。
なんだか本当に心配になってきた…
まさか、これぐらいで死んじゃったりはしないよね…?


「ヘラクレス、とか言ったよな。お前この猫タオルで包んでやれ。衝撃与えないようにな」

「うん」

「あと出来る事は無いよな…。早く病院行った方が良さそうだし」

「え、何その手際の良さ…!!ギルじゃない!!」

「どういう意味だコラ!!昔よく生き物拾ってたから慣れんだよ…」

「へぇ…」


確かに。捨て猫とか野良犬とか拾ってそうだもんなぁギルは。
今では自分が拾われてる身だけどね


「準備できた。行こう」

「うん!」



―――





「良かったよね。あの子猫大したことなくって」

「やっぱりカラスにつつかれたみたいだったしな。怖くて震えてたんだろ」


太陽が沈み始めた夕暮れ。
ヘラクレスさんと動物病院で子猫を診てもらったところ、怪我は深いが安静にしていれば大丈夫との事だった。
ヘラクレスさんの腕に抱かれて安心したのか、子猫も落ち着きを取り戻して少しずつ元気を取り戻したようで本当に良かったなぁ。
ヘラクレスさんも「また二人で遊びに来てくれ」って言ってくれたし、今度もギルと一緒に遊びに行かせてもらおう。
その時はあの子猫も元気になってるといいなぁ〜


「それにしてもギルがあんなにテキパキしてるとこ初めてみたなぁー。家事もあれぐらいの調子でやってくれるといいのに」

「俺はめんどくせー事が嫌いなんだよ。できることなら掃除も洗濯もせずに楽に生きたいぜー」

「充分楽に生きてると思うんだけどねぇ」


一日中ごろごろしてるプー太郎がよく言うよ。

頬をつねってやろうかとギルに手を伸ばすと、私達の前に出来た影が繋がる。


「繋がった」

「はぁ?何が」

「影」

「影…?」

「昔お婆ちゃんと買い物に行った帰り道に手繋いで帰っててさぁー。私の影とお婆ちゃんの影がぴったりくっついてるのを見てすっごく嬉しかったんだよね。それをじっと見ながら歩いてたもんだからよくつまずいて転びそうになってたよ」


笑い混じりにギルの顔を見上げ、視線を影に戻した。
ギルの細長い影と、少し短い私の影。


「影と言えば影分身だよな」

「何それ。また漫画〜?」

「まーな」

「オタク」

「何とでも言いやがれ」


ふと、また影が繋がった
ギルの手が私に伸びて頭の上にポンと乗る。


「なんすかギルベルトさん」

「…べっつにー。小せぇなーと思っただけだぜ」

「うっぜぇ〜。平均だよ、平均」

「わしゃわしゃにしてやる!」

「ちょっ!!やめぇええ!!なんなのこの子!?」

「ガハハハ!ぼさぼさじゃねーか!おもしれー」

「あぁん?テメェ自分でやっといて何ぬかしてんだコラ。帰ったら風呂掃除と夕飯の手伝いさせるからね」

「マジかよ!?お前がやれ!」

「テメェは休みの日ぐらい私を休ませてあげようという気はないのか。てかこのぼさぼさどうにかしろよ」

「違和感ないから大丈夫じゃね?むしろそっちのほうが似合ってるぜ」

「はーい今のプチンって来ちゃったよ〜私の心を痛めつけたよー。皿洗いも追加ね」

「はぁああ!?」


隣で喚くギルの言葉を受け流し、影を見つめる。
さっきより距離が近づいた為か、私とギルの影が動きに合わせてくっついたり離れたりしている。
なんだか、いいもんだなぁ


「って、うぉおおお!!」

「おおお!?何やってんだよあぶねっ!!」

「ギリギリセーフ…影ばっか見てたからまたつまずいた…」

「俺が引っ張らなかったら危うくずっこけてんぞ、お前」


成長しないなぁ、私。
でもまぁ、ギルが助けてくれてよかった。

仕方ない、今のに免じて皿洗いはやめにしておいてあげよう。


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