「温泉はロマンだよな」

「あぁ、ロマンだぜ」

「ロマンやんなぁ…」


浴衣を脇に抱えタオルを肩に乗せる馬鹿三人をエリザと二人でマイナス10度には達するような冷たい目線を送った。


「何がロマンよ。馬鹿じゃないの?特にそこの赤い目のうさぎみたいなやつ。明日の昼まで寝てなさいよ」

「エリザ、それは可哀想だよ。そこにいる髭の人も一緒に明日の昼まで寝てれば良いと思う」

「そうね」

「え、ちょっ、酷くないかお嬢さんたち?」

「俺は寝てなくてもええん?」

「トニーさんはいいの。お風呂上がったら一緒に牛乳飲もうねー」

「じゃあ私も一緒に!」

「なんやこれ、楽園みたいやん…」

「なんでトニーは良いんだよ!?」

「だってトニーさんは純粋だからさぁ」

「いやいや、そいつが一番腹ん中真っ黒だからね!!名前ちゃん騙されてるから!!」


着替えの準備をして部屋の外に出れば待ち構えていたかのように現れた三人に小さいく溜息がもれた。


「やぁ名前!!君達も今からお風呂かい?」

「アルフレッド君。皆も今からお風呂?」

「まぁな」

「ヴぇー。皆でお風呂って楽しいよね〜!!俺こんなに大勢と一緒に入るの初めてだよ〜」

「俺もだ」

「名前は一緒じゃないの?」

「いや、私は女風呂だからね」

「なっなっなっ、何を言っているんだバカ!!」

「ヴぇー…だって日本の温泉って混浴なんじゃないの?俺楽しみにしてたのになー…」

「あー、それ俺もずっと思ってたよ。初めて真相を知った時は絶望したさ!」

「我が弟ながら恥ずかしい…」

「お下品な話しはやめなさい。ゆっくり湯船に浸かる…日本の素晴らしい文化ではありませんか」


男性陣は人数多いからむさ苦しそうだなぁ…。女で良かった。
チラッと隣に視線を移すとエリザがギルに「ローデリヒさんの写真撮ってきなさいよ」と壁に追い詰めて今にも殴りかかりそうな勢いだった。
ギル涙目だし。
見なかった事にしよう。


「むさ苦しいおっさん共とお風呂なんて嫌なのですよ」

「まぁまぁ。お風呂上りにフルーツ牛乳飲もうね!」

「んだない」

「なんならピーター君は私達と一緒に風呂入る?」

「あら、いいわね。三人だと楽しそう!」

「な、なんですってぇええええええええ!?」

「おおおおおおおお!!!??」

「いきなり大声あげないでくださいよ本田さん!!ついでにアーサー、全力で開眼してこっちに詰め寄らないで本当に怖い」

「名前。僕はこれでもちゃんとした男なのですよ。だから女風呂に入るなんてできませんよ」

「そっかぁ…残念だなぁ。背中流しっこしたかったのに」

「でも名前がどうしてもって言うなら一緒に入ってやらない事もないのですよ!」

「ツンデレですか!!いやはや、アーサーさんだけではなく弟さんにまでツンデレ期が来てしまうとは…。素敵なご兄弟です。あ、ピーター君。これで写真撮ってきてくださいね」

「ちょっともう一度雪山に戻ってくれませんか本田さん。できれば全裸で」

「名前さんのお望みとあらば。ですが私はMではないのでそれしきでは感じませんよ」

「そうですか」


本当に最悪だこの爺。
ピーター君を連れて女風呂に入ろうとすると、数名の男共に全力で止められてしまった。
挙句の果てには「俺も一緒が良かったんだぞぉおお!!」と泣きはじめるアルフレッド君と「小さくなればそっちに入れるんだよねー。俺ちょっと黒ずくめのおっちゃん達に薬もらってくるよ〜」と走っていこうとするフェリシアーノ君をルート君とマシュー君が全力で抑えた。


「ったくあの人達は…。温泉だからってうかれすぎなんだよ」

「あら。私だって楽しいわよ?名前と初めてのお泊り旅行ですもの!」

「シー君も楽しいのですよ!」

「それは良かった。あ、ピーター君の着替えは私と同じロッカーに入れておこうねー」

「分かりましたよ」


脱衣所で服を脱ぎ、本当ならここで体にタオルを巻きたいところだけど浴場のマナーとして湯船にタオルは入れちゃいけないもんね。
あぁ、エリザのしなやかな体のラインと出るとこが出ているボディーが眩しいです。


「どうしたんですか名前」

「ピーター君…。ううん、なんでもないよ」

「おっぱい小さいのが嫌なんですか?」

「ちょっ、なにこの子エスパー!?」

「大丈夫なのですよ!名前もこれから大きくなるのですよ!!」

「いや、私成長もう止まってるからね!!」

「そういえばアーサーがクローゼットの奥にぺちゃぱいなんとかって言うえっちな本隠してたのですよ…」

「ぎゃぁああああ!!見ちゃだめ!!見ちゃダメだからねピーター君!!」

「興味ないのですよー」

「二人とも何やってるの〜?早く入りましょうよ!」

「…うん」


やっぱり温泉が目玉なだけあって浴場も広いなぁ…。
外には露天風呂もあるし。
そういえば会社の社員旅行に行った時露天風呂でデンさんに覗かれたんだっけ…。
うわぁ、嫌な思い出がよみがえった。


「露天風呂も素敵ね」

「だよねー。はぁー癒される」

「あら名前、疲れてるの?」

「肩凝っちゃってね〜。久しぶりにスキーしたから体も痛いし」

「なら私が肩揉んであげるわ。後向いて?」

「ええー?なんだか悪いなぁ」

「いいからいいから」


エリザに肩を揉んでもらえば体の力がお湯に溶けていくような感覚がした。
あー、癒されるよねー…。


「名前、この向こうでギルベルトの声が聞こえますよ!!」

「その向こうは男湯だからねー。皆で騒いでるんでしょ」


楽しそうだなぁ男性陣は。
耳を済ませると一枚壁を隔てた向こうで話し声がかすかに聞えた。


「いや、だから体格的にもベールが土台になって、その次にデンが乗って最後に俺様が上に乗ればいいんじゃねえ?」

「アホ!それやったらお前だけしか見れへんやろ!!」

「俺はんな事しね…」

「HAHAHA!!ほんと君達はバカだなぁ〜。覗きたいなら正面から体当たりしてこの塀を壊せばいいんじゃないのかい?」

「何をバカな事を言っているんだ!!通報されても知らないぞ!!」


…バカだ。完全にバカじゃん。
そこまでして覗きたいのか、女湯。


「エリザ、ピーター君。そろそろ上がろうか」

「そうね」

「喉かわきましたよ」

「フルーツ牛乳飲みたいねー」


お風呂から上がり、休憩所でジュースを飲んでいると実に残念そうな顔をした一部の男性陣がやってきた。
どうやら覗きは失敗に終わったらしい。


「ローデリヒさんやルート君は?」

「まだもうすこし入っておくってさ。あーあーもう、温泉まできてなんのフラグも立たないなんてさぁ…。ここは普通イヤンな方向に行くでしょうが…」

「フランシスさん、何かのゲームのしすぎじゃないんですか」

「熱い〜!!アーサー、俺にもフルーツ牛乳買ってくれよー」

「しょうがねーなぁ…」

「あら名前、ちょっと浴衣肌蹴てるわ。直してあげるからじっとしててね」

「え、うん。ありがとう」

「うんうん。イヤンなフラグはだめだったけど浴衣ってのもいいよなぁハァハァ」

「男のロマンやんなぁ…」


うん。もうこの人達の話は聞かないことにしよう。

そのまま皆で指定された宴会場へ向かえば、ずらりと並んだ豪華な料理に思わず歓声が上がった。
って、あれ?確か予定ではもう少しランクの低い夕飯だったような…。


「ふふふ。なんだかね、お店の人の好意で豪華にしてくれたんだって!」

「イヴァン…」

「ここの旅館顔の利くところだったからさ。やっぱり食べるなら美味しい方がいいもんね」

「だから満員だったのに部屋も空けてもらえたのか〜。流石イヴァン!」


各自適当に席に座り、全員が揃ったのを確認した本田さんが遠慮がちに立ち上がり「それではどなたか乾杯の音頭を」と言った。


「ここは名前ちゃんにやってもらわんとなぁ〜」

「だな」

「えええ!?私!?私こういうの向いてないから…ギル頼んだ」

「ったくお前は俺様がいねーと何にもできねーもんなぁ!!ケッセセセ!!それじゃあ行くぜ!!かんぱーい!!」

「「「かんぱーい!!」」」


さぁ!!食べるぞ〜!!
蟹まで用意されてるよ…。うーん、どれから食べようか迷うなぁ…。


「名前、蟹の身取ってくれよ」

「えー?ったくしょうがないなぁ」


自分の分の蟹を私に差し出すギル。
自分で剥こうって気はないのかね…。


「アーサー!!俺の分も身を取ってくれよ!!面倒くさいから一気に食べたいんだぞ!!」

「お前なぁ…蟹ってもんはこう、剥きながら食べるから美味いんだろ」

「私もアーサーと同意見」


各自それぞれ料理を堪能し、お酒もどんどん進んでいっているように見えた。
とりあえずアーサーが飲みすぎないように注意しておかないとね。


「名前!!こっち来て酌すんべ!!」

「えー…まだ私蟹食べてないんですけど…」

「上司命令」

「プライベートですからここ!!ったく…」


腰を上げて熱燗の瓶を片手にデンさんの隣に座る。
ったく、面倒くさいなぁ。


「名前ちゃん、お兄さんにもお酌してほしいなぁ〜」

「はいはい。どうぞー」

「うーん、可愛い子を見ながら飲むお酒は最高。これがワインで名前ちゃんと二人っきりな状況だったらもっと良かったのに」

「その髭むしり取りますよ」

「ほんと毒舌だよなぁ名前ちゃんって…」


「ん」とお猪口を差し出してくるデンさんに何度かお酌をし、「次は焼酎にすっぺ!」と言った所で席を立った。
あまり居すぎると絡まれるしね。


「お疲れ、名前」

「ルート君…!!ああもう、ルート君に癒されるよぉお!!」

「そうなのか…?」

「お酒飲んでる?ビールも沢山あるよー」

「今イヴァンとフェリシアーノが飲み比べをしている所だ。フェリシアーノが倒れたら次は俺が挑む」

「頼もしいねー」


少し頬を赤くしたルート君。
既にちょっと飲んでるみたいだよね。


「さーて、私は蟹をって……あぁああ!!ここにあった私の蟹がない!!」

「あぁ、あれ食べるつもりだったのかい?放置してあるから全部食べちゃったんだぞDDD!!!」

「イヤァアアア!!出せ!!私の蟹ぃいいい!!」

「こんなものいくらでも食べさせてあげるさ!!今度うちに来ないかい?」

「何誘ってんだよ、ぶぁーか!!!」

「え、何、アーサー?」

「名前〜名前〜」

「ひぃいいい!!酔ってるし!!」

「す、すみません名前さん…。ちょっと僕がお酌をしていたらこんな事に…」

「ティノ君…」


背中にずっしりと乗ってくるアーサー。「アハアハ」と笑って時折聞き取れない英語でブツブツと文句を言っている。
あーあ、やっちゃったなぁ…。

服を脱ぎ始めるアーサーを全力で止め、ノリで自分も脱ぎ始めようとしていたデンさんとフランシスさんとギルもなんとかなだめる事に成功した。
まったく、想像した通りになっちゃったよね…メンバーがメンバーだし。
でもまぁ、これも楽しい一つの思い出という事で。

さーて、私も飲んでくるかー!


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