「君…」

「あ、はい…」

「……私の馬鹿息子たちの事を頼むよ…」

「……え…」

「酷い事をしてすまなかった。言葉で詫びても足りないぐらいの事をした事は理解している。気が治まらないと言うのならこのネタを報道に売るなり自由にしてもらっても構わない」

「あの、それって……二人を自由にしてくれるって事ととらえてもいいんですか…?」

「……あぁ」


これでまた、ギルと一緒に…?



「名前…」

「…ぎ、る…」

「名前…」



手を広げるギルに、一歩、二歩、三歩と距離を縮める。



「ギル…っ」

「名前…俺も愛しt「散々心配かけさせやがってこのかっこつけ野郎のプー太郎がぁああああ!!!!」ごふぁっ…!!!」


鳩尾に、一発。後に立っていたアーサーが小さく「K.O…」と呟いた。



「な、にすんだよペチャパイ女!!」

「あぁん?かっこつけて『俺の事は忘れろ』とか出て行ったのは誰?散々皆に迷惑をかけたのは誰?こんなにも私を泣かせたのは誰でしたでしょうかギルベルト君」

「……俺です…」

「一発ぐらい殴らなきゃ気がすまないもん」

「けどいきなり殴らなくてもいいだろ!?つーか眉毛に殴られて頬すっげえ腫れてるし!いてえ!」

「誰が眉毛だ誰が…」

「お父さん、この馬鹿もらって行きますね。幸せにしますから」

「あぁ…君に任せるよ…」


最初の冷たい彼とは別人のように、優しく笑ったギルの父親に私も自然と笑顔になった。

壁に飾ってある写真の人物とギルのお父さんの笑い方がよく似ている事から察して、あの写真の人がギルの言うフリッツ親父さんなんだろう。


「ルートヴィッヒ」

「…なんだ…」

「次の休みに、帰ってこい」

「……いいの、か…?」

「あぁ…。休みの間私の仕事をよく見ておく事だ」

「それって……」

「お前たちに関心の無かった私でも、お前とギルベルトのどちらが弁護士に向いているかぐらい分かるからな。お前がこの家を継ぎたくないというのなら別だが…その気があるのなら、今度の休みにドイツに帰って来い」

「……あぁ…!」



良かったね、ルート君…本当に…良かったね…



「あれ…?もしかしてもう終わっちゃったのかなぁ…」

「イヴァン…!?今までどこに行ってたの!」

「ギルベルト君のお父さんがどうしてもギルベルト君を名前の所に返さないって言った時のために色々準備してたんだけど……この様子を見るとその必要はなかったみたいだね」

「準備ってなんだよ…!?」

「ふふふ。ナイショ」

「イヴァン…イヴァン・ブラギンスキか…!?」

「うん。僕の事知ってるの?」

「どうしてお前のようなやつが…っ!!」

「友達のために、とだけ言ったおこうかな。僕も君と同じでつい最近…捨てたと思っていた感情を取り戻したばかりだから…」

「……」


え、何この状況。イヴァンとギルのお父さんって知り合いなの…?


「イヴァンって有名人なの…?」

「そんな事ないよ〜!それより早く日本に帰ろうよ。皆、待ってるよ」

「だな。俺も帰って仕事しなきゃなんないし…」

「そういえば、君はいったい…」

「アーサー君の事はジョーンズ家の息子って言えば分かるんじゃないのかな?」

「ジョーンズ……!?」

「言いふらすんじゃねーよお前…!!」

「どうしてこんな二人が…この場所に…」


信じられないと言ったような表情でぽかんと口を開けるギルの父親に、にやりと笑うギルのいつもの笑顔。


「こいつには変な奴を引き寄せる力があるって事だろ」

「え、なに私の事…?自分が一番変な奴だって事分かって言ってんの…?」

「一番かっこいいの間違いだろ」

「いっぺん死ねよお前」

「僕もそうした方がいいと思うなー」

「そうしなくとも、日本に帰ったら兄さんが命の危機に直面する事は免れないだろうな」

「え…マジで…?」

「あ、本田さんからの伝言」

「本田…!?」

「『私の可愛い名前さんをまた泣かせる事があれば筋肉バスターとカメハメ波をお見舞いします』だってさ」

「…えー…ちょっ、マジかよ…。なんか日本に帰るの嫌になってきたぜ…」


だらんとうな垂れるギルにしょうがないなぁと溜め息が漏れる。



「そんな事言っても、絶対に日本に連れて帰るからね」

「……また一緒に暮らしてもいいのか?」

「うん」

「……プー太郎だぜ?」

「それでも、ギルが居てくれるなら私はそれだけで幸せだから」

「………俺も」



手を重ねて視線を合わせば、いつもと変らないギルの笑顔。

あぁ、やっと見る事ができた。
あの時、最後に見せた悲しそうな笑顔なんかじゃない、ギルの本当の笑顔…。


この笑顔でギルが隣に居てくれる限り、私はずっと幸せでいる事ができるのだろう。





「さぁ、帰ろうか。日本に」











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