一夜明けたドイツ時間12日の午後3時にして、日本時間の12日の夜。


「こ、ここがギルの家…!?」


都心から少し離れた自然の多い土地にそびえ立つ大きな屋敷。


「広いな…」

「敷地の広さだけはこのあたりで一番だからな…」

「アルフレッド君の家…とまではいかないけどそれでも広いよ…!本当に入れるの?こんな場所に」


一夜明けまだ少し時差ボケで体が慣れないものの、ルート君の案内でギルの居るバイルシュミット家の屋敷にやって来た。
それにしても大きいなぁ…。
なんとなく世間知らずな所からして、ギルの事どこかのボンボンかと思ってたけどまさか本当にこんな広い家のお坊ちゃんだったとは…。


「で、どうするの?このまま裏口から入っちゃうのかなぁ」

「いや、それってやっぱりまずいんじゃ…」

「見つかって不法侵入だとか言われれば終わりだからな…。二手に分かれて行ったほうがいい。俺と名前、イヴァンとルートヴィッヒの二手に分かれるぞ」

「そうだな」

「あいつの親父云々はひとまず無しにして、あいつを連れ戻す事だけを考えよう。そんなもんあとでどうにでもなる」

「いつになくアーサーがかっこいいよ…」

「いつになくは余計だバカ!」

「ではお前たちは裏にある入り口から入れ。今何人使用人が居るかは分からないが中に入るのはそう難しくないだろう」

「う、うん…分かった」

「見つかったら連絡してくれ」

「あぁ」


な、なんだか大掛かりになっちゃったな…。まぁ正面から「ギルに会わせてください」と言って中に入れてもらえるとも到底思わないし…。
やるしか、ないか。

ルート君とイヴァンと別れ、私とアーサーで裏口に回る。
チクチクと痛む良心に「ごめんなさいごめんなさいと」何度も謝りながら裏口から家の中に入った。


「あいつどこに居るんだ…?」

「うーん…ギルの部屋は確か二階にあるけど、そこはルート君が探しに行くって言ってたし…。とりあえず見つからないように様子を伺おうか」

「あぁ…」

「あ、今何時?」

「…15時15分だな」

「日本は…夜の11時か。あと少しで13日になるところだよね…」


早くギルを連れて帰らなきゃ…!

屋敷の中はただただ広く、色々な芸術品や絵が飾られている。

こんなに広いのに、なんだか寂しい空気を感じる家だ…。エリザの言ってた通り。

周囲に警戒を払いながら歩いてみる物の、使用人さんに出くわす事もなければ人の気配を感じる事もない。


「ここは…広間か」

「広いねなぁ…。あれ…これって…」


広間にある暖炉の上に視線を向けると、いくつかの写真立てが並べてあった。
その中に満面の笑顔で笑う小さな頃のギルとルート君の写真が一枚。
古いものなのか、すこし色あせている写真に写る二人はどんな辛さも知らないような純粋な笑みを浮かべていた。


「次行くぞ」

「…うん」


それからもしばらく、屋敷の中をぐるりと回ってギルの姿を探して見るもののその姿を確認する事はできなかった。
ルート君からも連絡は入っていないし…。
まさかここにはもうギルは居ないんじゃ…。


「…あれ…」

「どうかしたか?」

「何か聞える…」

「聞える…?何がだよ」

「音楽。音は小さいけど…」


いったいどこから…。
それにこの曲、どこかで聞いた事がある。


「本当だ…だけどこんな曲聞いた事ないぞ…?」

「…私、知ってる…」

「は…?」


この曲は…。
いつだったか、ギルがアンダンテでローデさんのピアノを使って演奏していた曲だ。


「ギル…」


音のする方に足を急がせ、走る。
微かな音を辿って行けば、廊下の端にの突き当たりにある小さなドアの中から綺麗な音色の、フルートの音が聞えた。

いつか聞いた、ギルが演奏していたあの曲。

もしかしたら、この部屋の中に…ギルが…。

震える手でドアノブに手をかけて回すと重いドアが、ゆっくりと開いた。



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