「つ、ついた…」


日本時間12日にして、ドイツ時間11日の夕方無事到着。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫…。ちょっと時差ボケがね。やっぱり慣れないなぁ…」

「お疲れ様でした。仮眠を取られるんでしたらホテルを用意してありますのでそちらで休んでくださいね」

「ありがとうトーリス君。二人もゆっくり休んでね」

「超疲れたしー」

「フェリクスは途中寝てたでしょ!もー…」


降り立ったドイツの土地に少し心がざわついた。
ここがドイツか…。


「これからどうする?直接家に押しかけるか?」

「そうだね…。でもルート君は行けないんだよね?お父さんとの約束だし…」

「いや、いいんだ…もう。自分の幸せを捨ててまで俺を守ってくれた兄さん為に…今度は俺が兄さんを守りたいんだ」

「そっか…」


ルート君も色々考えて、自分なりの答えを出したのかな。


「とりあえずホテルに行こっか。まずは少し休んでからじゃないとひ弱な君達はすぐ倒れちゃいそうだからね」

「誰がひ弱だこのマフラー男…!」

「君のそういう反抗心の強いとこ嫌いじゃないよアーサー君。でも雪の中に埋めてやりたいとは思ってるけどね〜」

「んだと…」

「喧嘩なんてしてる場合じゃないでしょ…。とにかく休んでこれからどうすればギルに会えるか考えてみようよ」

「それが一番の得策だな」

「ではこちらにどうぞ」


何時の間にか用意された車に乗り込み、トーリス君の運転でとても綺麗なホテルに到着した。


「すみません、急なもので最上階のスイート一室しか取れませんでした…。中で部屋が三つに分かれているので自由にお使いくださいね」

「あのねぇトーリス君…君ちょっと出来が良すぎるんじゃないのかなぁ…」

「え?そ、そうですか…?」

「僕の一番の部下だもんね!」

「若いのに凄いなぁ…」


案内された最上階にあるスイートルームに入り、腰を下ろせば体が十センチ近くは沈むであろうソファーに腰掛け旅の疲れを癒した。


「ありがとうトーリスフェリクス。君達は休んでていいよ。帰りもまたお願いね」

「分かりました」

「さて…これからどうするかを考えないとな…。あいつに直接会って話をするにはどうすればいいんだ?」

「直接正面から行ったのでは兄さんの所まで辿りつけないのは確かだな。言った通り俺はもうあの家から出て行った人間だ」

「だとすれば…侵入…?」

「面白そうだね。僕そういうの好きだなぁ〜」

「バイルシュミット家の屋敷は広い。しかし見張りやガードマンも居るわけじゃないからやろうと思えばいつだって行けるぞ」

「いや、でもそれって不法侵入なんじゃ…」

「なんとかなるだう。警察が来たら全力で逃げる、それしかない」

「えー…嘘ぉ…」


本当にそれでいいのかな…。


「問題はまだある。もし兄さんに会えて日本に連れて帰ることができたとしても、父はきっとまた何らかの力を使って兄さんを連れ戻そうとするだろう」

「それじゃあどっちみちギルのお父さんを納得させないとダメって事?」

「あの父が説得されたぐらいで自分の決めた事を取り下げるとは思えないがな…」

「それでも…ギルとまた一緒に暮らせる為なら何度でも頭を下げるよ、私は」

「……俺も、覚悟を決めないといけないな…」


ルート君…。
やっぱりルート君はお父さんに会うのが嫌なんじゃないのかな…。
ルート君がお父さんに真っ向から立ち向かうという事は、辛い過去に向き合う事にもなる。
本当に辛いだろうに…しれでもここまで一緒に来てくれたのはギルの為、そして私の為でもあるんだ…。


「とりあえず今日はゆっくり休んで、明日行けばいいじゃない。もう日も沈んできた事だしね」

「あぁ…そうだな」

「うん。私本田さんに電話してくるね」

「あぁ」


イヴァンから携帯を借り、スイートルーム内の個室の一つに入りベッドに腰掛ける。
日本は今何時だろう…。
って、夜中の2時ぐらいになるのか…。
今かけるのは迷惑だよなぁ…。
だけど起きてるかもしれないし、一応連絡してみよう。

通話ボタンを押し、数回のコールの後に少し擦れた声の本田さんが「もしもし本田です」と電話に出た。


「あ、もしもし本田さん?私です」

『…名前さんですか…!?』

「はい。夜分にすみません…」

『大丈夫ですよ。少し前に皆さんが帰られて今原稿を描いていたところでしたので』

「そうですか…。私も少し前にドイツにつきました。今はひとまずホテルで休んでます」

『もうドイツに…流石、早いですね…。それで、そちらはどうですか?』

「明日ギルの家に…あの、侵入しようと…」

『な、なんと…!?まぁ話を聞いていると真っ向から会いに行っても到底会わせてもらえなさそうな相手ですからね…。しかしまた大胆な…』

「本当にやるかは分かりませんが…。とにかく明日ギルの家に行って様子を伺ってみます」

『分かりました。無茶はしないでくださいね。ちゃんとギルベルトさんと一緒に無事に戻ってきてください』

「わかりました」

『それから、名前さん…』

「なんですか?」

『明後日は、2月14日ですよ』

「…そうですね。バレンタインデー」

『その他にも二つ、大切な事がある日でしょう』

「……はい」

『貴方の帰りを待っていますよ』

「本田さん…私…」

『大丈夫ですよ。貴方ならきっと、大丈夫ですから』


ああもう、なんで本田さんはいつもこうやって…
いつも変らない笑顔と優しい声で私を慰めてくれる本田さんに、何度共に時間をすごす事のできなかった実の父の姿を重ねた事だろう。


「本田さん、本田さんっ…」

『泣いてはいけませんよ。泣くなら私の前にしてください。私の手の届かない場所で貴方が泣いているかと思ったら居てもたっても居られなくなりますからね…』

「…ありがとう、本田さん。ありがとうございます…」


本当に私ってやつは…本当に沢山の人たちに支えられてここまで来られてたんだな…。
支えてくれる皆が居たから…。


「電話終わったか?」

「うん」

「風呂でも入って疲れとってこいよ。明日はあいつ、迎えに行くんだからな」

「そうだね…。ねえアーサー」

「ん?」

「帰ったら皆に沢山お礼しないといけないよね…。こんなに沢山の人が支えてくれてるんだもん。どんな事すれば、ちゃんとお礼ができるのかな」

「…お前がギルベルトと一緒に帰ってきて、笑顔で居ればあいつらはそれで充分だと思うけどな…」

「アーサー…」

「僕はそれだけじゃ足りないから帰ったら色々遊ぶのにつきあってらおうかなぁ」

「てめっ、人がいい台詞言ってる時に横から入ってくんじゃねーよバカァ!」

「うふふっ」


喧嘩をはじめるアーサーとイヴァンを横切り、バスルームに入るとちょうどお風呂から上がったらしいルート君がタンクトップ姿で髪を乾かしている所だった。


「名前か…。すまない、先に入ったぞ」

「いえいえ。ゆっくり湯船に浸かった?」

「いや、何か落ち着かなくてな…シャワーだけにした」

「ちゃんと疲れを落とさないとダメだよ?明日は色々とあるだろうし…」

「…あぁ、そうだな…」


苦笑いを浮かべて少し俯くルート君が前髪が下ろされているせいかいつもより幼く見えた。
いや、きっといつものルート君から感る気迫だとか自信有りげな表情が、今の彼からは感じないからだろう。


「ルート君」

「なんだ…?」

「髪、私が乾かしてあげるよ」

「なっ…そ、それぐらい自分でできる!」

「いいからいいから。お姉さんにまかせなさーい」


設置されたドライヤーを手に取り、広すぎるバスルームの一角にある椅子に腰掛けたルート君の髪にドライヤーの風を向ける。


「ギルはいつもお風呂から上がってもなかなか髪乾かさないからさぁ。こうやって私が乾かしてあげる事多いんだよ」

「本当に世話のやける兄さんだ…」

「きっと甘えられる人がいるからあんなどうしようもないプー太郎なんじゃないのかなぁ…一人だとわりとしっかりやる事やってるし」

「そうだな…。俺も小さい頃、こうやって兄さんに髪を乾かしてもらった事がある」

「いいお兄さんやってるじゃんギルのやつ」

「手先があまり器用じゃないからな…それでも慣れない手つきで乾かしてくれている兄さんの手が好きだったのをよく覚えている…」

「んー、私はギルと同じにはなれないかもしれないけど…。ギルと同じでルート君の事大好きだよ」

「…俺もだ」


あ、今ちゃんと笑ったなぁ。
ずっと辛そうな笑顔ばかりしてたから、ルート君。


「ルート君の髪、ギルのに似てるなぁ」

「…そうなのか?」

「うん。色は違うけど…やっぱりちゃんと兄弟なんだよね。顔もよく似てるし。ルート君とギルを見てるといつも兄弟っていいなぁなんて思うよ。私には兄弟居ないからね」

「そう、か…?」

「うん。お互いが大切にしあってるんだなって。ギルいつもルート君の事気にかけてるし」

「たまにしつこい所もあるけどな」

「私も二人の仲間に入れたらなぁなんてちょっと妬いちゃう時もあるよ」


終わったよとドライヤーのスイッチを切り乾かし終わった髪を撫でると、私を見上げたルート君が「今では俺にとって、お前も兄さんと同じぐらい大切な存在だ」と笑って、それから「ありがとう、名前…」と私の手を取った。


「…俺はもう迷わない…。やっと決心ができた」

「決心?」

「親父に何と言われようが、何をされようがちゃんと向き合って兄さんをお前のところに連れ戻す。絶対だ。もう俺は父から…あの家から、逃げない」










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