「心配しましたよこのおバカさんが!」

「え…私が怒られるんですか!?」


だいぶ日も傾き始めた頃、突然現れたローデリヒさんにのっけから怒られてしまった。


「貴方はいつもいつも私に心配をかけて…!心臓がいくつあっても足りませんよ、お馬鹿さんが…」

「す、すみません…」

「ルートから話は聞きました。あんなどうしようもない男でも貴方にとっては大切な人ですからね…。私も出来る事ならなんでもしましょう」


ローデさんはよくお母さんみたいな口ぶりで怒ってくるけど、いつも私の事を気にかけてくれてるよね。
今回の事もすごく心配してくれていたんだろう。


「ローデさん」

「なんですか」

「シャツのボタン、一段掛け違えてますよ」

「……」

「さっきまで仕事してきたんですよね?朝からずっとそのままで…」

「お黙りなさいこのお馬鹿っ!!!!」

「えええ…!」


クスクスと笑う本田さんに「菊も笑うんじゃありません」と顔を赤くしたローデさんが頭からプスプス湯気を立てて席を立った。


「そういえばトニーさんは…?」

「バイト先のスーパーに事情を話しに行くついでに夕食の買出しに行ってもらっています」

「俺たちも荷物運ぶの手伝いに行けばよかったねー兄ちゃん」

「あいつ一人に持たせればいいんだよ」

「夕食なんだっぺ?」

「食べて帰る気ですかデンさん…」

「今夜はコロッケですよ」

「コロッケ……」


ギルの好物だなぁなんて、美味しそうに頬張っているあの顔を思い出して少し涙が出そうになった。
私の背中に張り付いて一番に近くに居たアルフレッド君がそんな私に気づいたのか、私のお腹にまわしていた腕に力を込めた。


「ただいま〜!今帰ったでー!」

「ボンジュール。皆揃ってるなぁ…」

「フランシスさん」

「さっきそこでトニーに会って話を聞いてね。ついでに荷物を持たされたってわけ」

「だって俺一人じゃきつかってんもん」

「名前ちゃん、お兄さんが来たからにはもう大丈夫…絶対傍を離れないからね…!」

「フランシスさん…ありがとうございます。でもその台詞さっきアルフレッド君が言いましたから…」

「二度目は効果が薄いぞフランシス☆」

「え、ちょっ、お前…空気読めよ〜!ここは感動するとこでしょ!?」

「やーなこったー」

「なーんでこんな子に育っちゃったんだろ」


やれやれと溜め息をつくフランシスさん。
トニーさんと一緒に私の前に座ったかと思うと、少し顔つきを変えて「名前ちゃん」と口を開いた。


「一応、俺達がギルベルトに出会った時の話もしておいた方がいいと思ってさ…」

「聞いても何にもならんかもしれんけど、聞いてくれる?」

「…うん。お願い」

「初めてギルに会ったのは…確か俺が22で、トニーが21歳の時だったな」

「二人で一緒にバーで飲んでて、隣の席に居たギルと意気投合してん。それから何度か会うようになって…」

「でもある日忽然と姿を消した」

「それから一年ぐらいたって、またひょっこりギルが現れたんやけど…」

「お兄さんはあんまり覚えてないんだけどね」

「なんやよぉ分からんけど、三人でベロンベロンになって酔った時あいつ妙な事言い出してなぁ。親父がどうのこうのって。家に帰ってたまるか、俺は自由なんだってな」

「……」

「それでなんとなく、こいつも家庭に事情があるやつなんやなぁと思ってたんやけど…深くは追求せんかった。聞かれたくないのはお互い様やろうからな」

「それからまた忽然と居なくなって…。次に現れた時は名前ちゃんと一緒だったってわけ」

「その間ギルはどこに…」

「さぁなぁ…聞いた事もなかったわ。でもな、なんとなく…いつかはこうなるんとちゃうかなって事は思ってたんよ…」


ごめんな。と謝るトニーさんに「トニーさんは何も悪くないじゃない」と言うと、「ううん…ちゃうねん…ごめんな」とまた謝った。

結局この日はルート君からの連絡もなく、何も進展のないままに終わった。

さすがに心配になり、携帯にも電話をしてみたけどずっと話中でつながる事はなかった。

夜は仕事を終えて来てくれたエリザと本田さんの家の客間で同じ布団に入って寝る事になった。
これなら寂しくないでしょう?と笑うエリザの優しさがなんだかくすぐったくて、
「うん」と体を寄せると「私が男だったらここで名前を襲っちゃいそうだわ」とエリザが冗談を飛ばした。

明日、朝一でルート君に連絡してみよう。
アーサーも今日は帰ってこられないって言ってたし…私の為に頑張ってくれてるのかなぁ…。

そういえば…いろんな事が起こって忘れてしまっていたけど、私まだアーサーに返事してない。
「いつまでも待つから答えをくれ」って言った、あのアーサーの言葉に。

アーサーは…今どんな気持ちで居るのかな…。
今朝も何か言いにくそうな、複雑そうな顔をしていたし…。

私は今アーサーが、どんな心境でこの事態を見ているのかを知る由も無かった。



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