「おはよ〜アーサー」

「お、おはよ…」

「昨日はごめんね。ちょっとからかいすぎた」

「べ、別に全然気にしてねーし!?まぁお前がそこまで言うなら許してやるよ…。お前の為じゃないからな!!俺が心の優しい人間だからなんだからな!!」

「はいはいありがとうございます。それじゃ今日もお仕事に行きましょう〜」

「あぁ!」


ったく嬉しそうな顔しちゃって…。
昨日の泣き声の事言ってやろうかと思ったけど、まだ同じ事を繰り返しそうなのでぐっと我慢した。この変に傷つきやすい隣人には手が焼けるよなぁ



―――



「名前さん!ちょっといいですか?」

「んー?どうしたのティノ君」

「実は今度デザインを任された住宅家具の件なんですが」

「あぁ、あのお金持ちの。それがどうかした?」

「それが急遽洋風デザインから和風デザインに変更するとあちらからの要望なんですけど…。今から何処の職人さんに頼んでも予定はいっぱいでとても予定日に間に合いそうにないんですよ〜!!これ、どうしたらいいのかって…!!」

「まぁ落ち着いてティノ君!ともかく片っ端から注文をいれてみるしかないね。デザインの方はできてるの?」

「はい!これなんですけど…」


ティノ君の差し出した数枚の紙には和風箪笥と戸棚のデザインが写されていた。
こんなのオーダーメイドで作れるとこなんてそうありはしないよね。
今忙しい時期だしいきなり頼み込んでも間に合うかどうか…


「あ」

「なじょした?」

「スーさん…。私、もしかしたら作ってくれそうな人に心当たりがあるかもしれない」

「そっか。だったらすぐんでも連絡せんとな」

「うん。ちょっと電話して聞いてみるよ!」

「うわぁああ〜ありがとうございます名前さーん!!」

「この間手伝ってくれたお返しだって!」


電話帳を開き、見覚えのある見出しの電話番号を確認し電話をかける。
横でそわそわとしていたティノ君が不安そうな顔で私と電話をじっと見つめていた


『もしもし』

「あ、もしもし。私苗字と言いますが、サディクさんはいらっしゃいますでしょうか?」

『今は…居ない、デス。でももう少ししたら戻ってくる、かも』

「そうですか。あの、折り入ってお話したい件がありますので今からそちらに伺っても構いませんでしょうか…?」

『構わない、です』

「ありがとうございます!それでは後ほど伺わせていただきますね!」


よぉおおし!!直々に頼み込みに行こう!!
サディクさんは大工の親方さんでプロだし、頼んでみれば何とかなるかもしれない…!!


「ちょっと出てきます!」

「あ、僕も行きます!!」

「ティノ君は居てもいいよ?」

「いえ、名前さん一人にお任せするわけにはいきませんから!!それに待っていてもそわそわして手がつかなくなりそうで…」

「いってこ。後ん事は俺に任せればえ」

「ありがとうございます、スーさん!!」

「それじゃあ一緒に行こうか」



―――


「確かこの辺りだと思ったんだけど…」

「あ。ここじゃないですか?」


昭和を思い出させる雰囲気のアパート
玄関は一つで家みたいになってるんだなぁ…
あれ、こんな漫画確か本田さん家になかったっけ?


「すみませーん。先程連絡させていただいた苗字ですがー」


玄関から声をかけてみるも返事はない。
もしかして留守なのかぁ…。
もう一度声をかけようと口を開いたが、私の言葉をさえぎるように”にゃぁー”と足元で小さな子猫が鳴いた。


「うわー!可愛い子猫ですね!」

「この辺りに住み着いてるのかな。お母さんはどこかなー?」


可愛いもの好きの私とティノ君はしゃがんで子猫の顔を覗いた
ほあぁああ!!めんこいなぁー!!


「にゃぁー」

「あれ、どこか行っちゃうの?」

「裏庭…ですかね」

「もしかしたら飼い主さんが居るのかな…」

「行ってみましょうか」


子猫に案内されるように恐る恐る裏庭に入ってみると、軒下できもちよさそうに寝ている猫が数匹と、それに埋もれるように寝ている青年が居た


「あのー…すみません」

「んー…」

「先程ご連絡させていただいた者なのですが…」

「ん…?」


ぱちりと目を開いた青年は私達と自分の上に乗っている猫を交互に見た


「始めまして苗字名前と言います」

「俺は、ヘラクレス・カルプシ…」

「カルプシさん」

「ヘラクレスでいい」

「それではヘラクレスさん。それ、重くないですか」

「重い…」


ヘラクレスさんの上に乗っている猫ちゃん達をティノ君と一緒に引き剥がす。
ヘラクレスさんいい体つきしてるし、さぞ眠りやすかったのだろう


「ありがとう」

「どういたしまして」

「あいつはまだ帰ってないと思う、から中で待ってて」

「分かりました。お邪魔しまーす」

「お邪魔します!」


ヘラクレスさん、不思議な雰囲気の人だなぁ
若く見えるけど、もしかしてサディクさんの弟さんか何かかな。


「うわ…本がいっぱい」

「一応書斎に使ってるから…。ここ家賃安いし部屋いっぱい余ってる。だからこっちは書斎だ」

「そうなんですかー。お仕事何されてるんです?」

「一応大学教授」

「ちょっ!!一応って何ですか、大学教授って凄いですよ!?」

「あんまり自覚ない。研究してばっかだし…」

「凄いですねぇ!!どの分野の専門なんですか?」

「哲学…」

「すごっ。なんか難しそうなイメージあるけどなぁ〜。頭いいんですね、ヘラクレスさんって」

「そんな事は無い。好きでやってたらいつの間にかここまできてた」

「うわ…天性の天才か…。ちなみにどこの大学で?」

「ここから一番近い大学だ」

「あ。アルフレッド君とマシュー君の行ってる大学だ!!私の知り合いの子達もそこに通ってる子たちが居るんですよ。偶然だなぁ〜」

「もしかしたら俺の授業取ってる子だったりして」

「だとしたらすっごい偶然ですよねー」

「うん、凄い偶然」


うっわー…。ヘラクレスさんってなんというか、ほのぼのしてて落ち着いていると言うか…。
なんか可愛い人だなぁ


「名前さん!!顔がゆるんでますよ!」

「ハッ!!すみません、可愛い物が好きなので、つい」

「俺も可愛い物は好きだ。特に猫」

「はぁー猫いいですよねー猫。私もマンションじゃなかったら猫飼えるんですけど」

「あれ、名前さん犬飼ってませんでした?」

「うん、あれは特別なんだよ」

「良かったら猫と、遊ぶ?」

「え、いいんですか?」

「名前さーん!!」

「いいじゃんティノ君!!サディクさんが戻られるまでね?それにティノ君も動物大好きじゃん」

「それはそうですけど…。まぁいっか」

「肉球ー」

「キャー可愛いーー!!」

「ああ!!僕にも触らせてもらえます?」


やだもう、なにこれ楽しい…!!
可愛い猫達に囲まれて、ほのぼのとしたこれまた素敵なヘラクレスさんと癒し系のティノ君が居て…。
ここにサディクさんが居てくれたら私はどれだけ幸せになれるんだろう…あははー


「何やってんでいお前ら!!」

「ハッ!!!」

「って、この間の嬢ちゃんじゃねーか。どうしたんでいこんな場所で」


え、やばっ!!夢中になりすぎた!!
えぇー何時から居たんですかサディクさん!!は、恥ずかしい…!!


「えっと、あの…私サディクさんに用がありまして…。そしたら猫が」

「テメェ糞坊主!!!また猫引き連れやがって!!今日と言う今日はただじゃおかねぇ!!!」

「え…?」

「煩い。喧嘩したいって言うなら受けて立つぞ」

「ええええ!?ちょっとどうしたんですかサディクさん、ヘラクレスさん!?」

「嬢ちゃん、おめぇさんはちっと下がってな。これからは男と男の一本勝負だぜ!!」

「かっこいい…!!って、そんな場合じゃなくてですねー!!」


何、この二人仲悪そうだけど…
っていうか、悪いんだよね。うん、さっきから睨み合ってるし。


「あのサディクさん…。こちら私の同僚のティノ君です」

「は、始めまして!!」

「ん?そういやおめぇさん達何しに来たんだっけか?」

「折り入ってサディクさんにご相談したい事がありまして…」

「おう、分かった。ちょっくらこの坊主しごいてくっからそこで待っててくんな」

「あ、はい…」


二人が部屋から出て行って数秒後、古びたアパートが大きく揺れた。
それから大声が聞こえ、ぐらぐらと部屋が揺れてティノ君の背中に本が落ちてきた
どんだけ激しい喧嘩してんだ、あの二人…


「おう。待たせたねい」

「あ、もうお済みになられましたか?」

「おう。チクショーあの野郎思いっきり殴りやがって!!まぁ俺にとっては蚊にさされたようなもんだけどな」

「かっこいいです、サディクさん」

「あんがとよ!それで、用ってのは何なんだい?」

「あの、とても唐突で大変申し訳ないと思うのですが…、私の働いているのは家具メーカーの会社なんです。お得意様から急なオーダーメイドが入ったのですが、何せ急なことでどこの職人さんにもお任せできなくて…」

「へぇ。それで俺に頼みに来たってわけか」

「お話の分かる方で嬉しいです」


ティノ君が鞄からファイルを取り出し、数枚の紙束の中から箪笥と棚のデザイン図を抜き取り、サディクさんに差し出す。


「和風箪笥で純檜を使用したものと、こちらは壁に直接埋め込む棚板です」

「成る程な。だいたいおめぇさんらの用件は分かった。しかしこっちは家専門で家具は専門外だぜ?」

「できない、と言うことでしょうか?」

「言うじゃねーか」


にやりと笑ったサディクさんの目をじっとみつめた
今の私達にはサディクさんしか頼れる人が居ない


「分かった。引き受けようじゃねーか」

「え…本当ですか!?」

「こちとら腕は天下一だからねぃ。これぐらいのもんはちょちょいと出来ちまうぜ」

「ありがとうございます!!やったねティノ君!!」

「ありがとうございます!!本当に、ありがとうございますー!!」

「納品はいつだい?」

「えっと、一週間後です!」

「充分じゃねーか。出来次第連絡してやらぁ」

「ありがとうございます!!」


良かったぁあああ!!
サディクさんやっぱり男だ…!!
やっぱりこんな男気のある人って素敵だよなぁ
惚れ直したよサディクさん!!


「それにしても嬢ちゃんも根性が座ってんねぃ」

「え、そうですか?」

「いい根性してやがるぜ!!気に入った!!これから困った事があればすぐに俺のとこ来りゃいいぜ。どんな事でも助けになってやらぁ!!」

「さ、サディクさーん!!!」

「ロリコンの変態…」

「てんめー何時からそこに居やがった!!誰がロリコンだってんだ!!」

「お前の声がでかいから隣まで聞こえるだけだ、ロリコン」

「んだとこの野郎ーー!!!」

「ちょっとヘラクレさん!!ロリコンは酷いですよ!私もティノ君も24ですよ!?」

「「え…」」

「ちょっ、その反応は何なんですか!!」

「そっちのあんちゃんは分かるけど嬢ちゃんは無理があるんじゃねーか?」

「うん。俺ももうちょっと年下かと思ってた」

「え…ちょ、酷くね?」

「日本人は幼く見えっからねい」

「でも小さい方がふわふわしてて可愛い」

「お前さんだって変態臭いじゃねーか」


何はともあれこれで一件落着ってわけだよね!!
あとはティノ君からサディクさんに詳しい説明をしてもらって作業を進めればいい
私の仕事はもう終わった
お昼ご飯にサディクさんお手製のケバブをご馳走になり、心もお腹も満腹にさせていただいた。
帰り間際、ヘラクレスさんに「また猫に会いに来てくれると嬉しい」と頭を撫でられた
…頭を撫でられるような歳でもないんですが…。
まぁ不思議っ子ヘラクレスさんの事だから、深い意味はないのだろう。
私達がアパートを出た瞬間、また大きな怒鳴り声が聞こえてくアパートが揺れた

懲りないなぁ、あの人達…


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