「ヴぇ!仕事行っちゃうの名前!?」

「うん。こんな時に私だけごめんね…。皆協力してくれてるのに…」

「いや、一度会社の方にも顔出しておいた方がいいだろ」

「そうですね。同僚の方たちも名前さんが休んでいては心配されていると思いますし…」

「俺が送っててやるから」

「ありがとうアーサー」


本田さんが作ってくれた朝食を食べ、早々と会社に行く準備を整えアーサーの車に乗り込む。
会社につくまでの間、アーサーと会話を交わすことは無かった。
なんとなく、アーサーが何か考え事をしているような表情だったから。

アーサーは…最初からギルと一緒に住むこと反対だったもんね。


「帰りも迎えに来るからここで待ってろよ」

「ありがとうアーサー」

「…なぁ…」

「ん?」

「……いや、やっぱり何も無い」


じゃあなと笑顔を向け車を走らせたアーサーを見送り、いつもの自分の部署へと足を運ぶ。


「あっ名前さん!おはようございます!」

「おはようティノ君」

「昨日お休みだったので心配したんですよ〜。風邪でも引いたんですか?」

「んー…ちょっとね」

「…おめ、どした…?」

「心配かけちゃってごめんね。ちょっと色々ありまして…」


苦笑いではにかんで見せると、目を見開いたスーさんが私の両肩を掴んだ。
いや、ちょっと怖い…。


「何があったんけ…?」

「ちょっ、スーさん怖いですよぉお!」

「なぁに騒いでっぺ〜?お、名前。今日は出てきたな。食べ過ぎて腹でも壊したんけ?」

「違いますよ、もう…」


スーさんに「大丈夫だよ」と笑顔を向けてデスクに座る。
さぁ、仕事だ。気持ちを切り替えないと…。


「名前……」

「え…な、なんですかノルさん?」

「おめ、なんか隠し事してんべ…?」

「え…なんで、ですか…」

「見てれば分かる」

「えっと…あのー…」

「んだっぺ〜、おめなんか悩み事でもあんのけ?」

「あんこうっさい。黙っとげ」


ノルさんには隠し事できないなぁ…。
いつも見抜かれてるような気がする。


「名前さん、やっぱり何かあったんですか…?」

「うん。ごめんね、話さなくて…」


休憩室に入り、今までの事を四人に説明する。
最後に「すぐに言えなくてごめんなさい」と付け加えて。


「あいつ…」

「ど、どこに行くんですかデンさん!?」

「俺が今すぐあいつここに連れて来てやんべ!!おめぇはそこで待ってろ!!」

「そ、そんな事できたら苦労しませんよ!今どこに居るかも分からないし…。弟のルート君が家に連絡してくれてるはずですから、今は連絡を待たないと…」

「んな事言って、その間もおめぇはずっとそんな寂しそうな顔してんのけ!?んな事絶対ゆるせねえ…!!」

「うっせ…ちと黙れ…」

「スーさん…」

「名前さん、僕にできる事があったら何でも言ってください。ギルベルトさんの代わりになる事もできないし、何も出来ないかもしれませんけど…」

「ありがとうティノ君…もう大丈夫なんだ。ギルが帰って来るまで泣かないって決めたし」

「……強ぐなったない」

「…うん」


表情の変化が分かりにくいスーさんには珍しく、困ったような笑顔で私の頭を撫でた。


「で、その弟は今どこにいんだべ!?」

「えーっと…たぶん本田さんの家に…」

「ならすぐそこ行くっぺ!仕事なんてやってられっか!」

「え、ちょっとデンさん!?」


デンさんに腕を掴まれ力強く引っ張られてゆく。


「うわああ!?どこいくんですかぁもう!」

「俺らもいぐべ…」

「んや、あんこに任せとげ。こっちはこっちで名前の分も仕事してやんねぇと」

「…そうですね…。今僕らが出来る事はそれぐらいでしょうし…」

「……あぁ」



デンさんに腕を引かれたまま会社を後にし、タクシーを拾い投げ込まれるようにして車に乗せさせられる。


「ちょっ、何するんですかデンさん!?」

「こんな時に仕事なんてできるわけながっぺ?送り届けてやっからさっさとそのルートとか言うやつのとご行ってどうなってんのか話聞げ!」

「でも仕事放り出してそんな事しててもいいんですか?」

「んだっぺ。一人や二人抜けたぐらいで困るようなやつらじゃながっぺ、俺の部下達は!」

「上司が一番ちゃらんぽらんだから皆がしっかりするんでしょうね…」

「ガハハ!んな事言ってたら襲うぞ!」

「本当に訴えますよデンさん」


タクシーが本田さんの家の前に到着する。
「ただいま帰りました」と玄関で声をかければ、割烹着を着て驚いた顔をした本田さんが急ぎ足で出迎えてくれた。


「どうしたんですか名前さん!?何かあったのですか…!?」

「いえ、この上司に無理矢理強制送還させられまして…」

「んだっぺ!こんな状況でこんなやつ会社に置いてても役に立たねぇべ」

「悪かったですね仕事できなくて…!」

「まぁまぁ…話の分かるいい上司さんでよかったじゃないですか…。とりあえずお二人とも上がってください」

「おう!」

「遠慮ないですねデンさん…」


靴が沢山並んだ玄関を抜け、居間に行くと畳に寝そべって漫画を読んでいるフェリ君とロヴィ君の姿が目に入った。


「こんなとこでゴロゴr「名前ーーーー!!!!!!!」ごふぁっ!!!」

「うああああ!名前さぁあああん!」

「大丈夫かい名前!一人で寂しくて泣いてないかい!?俺が来たからにはもう大丈夫なんだぞ!くそ〜ギルベルトめ!俺の大事なヒロインを泣かせるなんて許せないんだぞ!大丈夫、ヒーローの俺がなんとかしてあげるからさ!だからもう泣かないでくれよスイートベイビー!」

「アルフレッドさん、名前さんが下敷きなって窒息しそうな顔してますよ」

「ヴぇええええ!名前ーーー!!!」


突然飛びついた…いや、タックルをかましてきたアルフレッド君の体に下敷きにされ危うく意識を失いそうになる所を「なさけながっぺー」とデンさんに救出された。


「あ、アルフレッド君…心配して来てくれたの…?」

「名前さん、髪がボサボサになっていますよ」

「そうだぞ!菊に聞いて授業すっぽかして飛んできたんだ!」

「サボっちゃダメでしょ…!」

「授業なんてどうでもいいよ。話を聞いた時君が心配で心配で息が止まるかと思ったんだぞ」

「心配かけたね。ごめん」


本当に沢山の人たちに心配かけてばかりだなぁ…。

本田さんに出してもらったお茶を飲んで少し落ち着けば、絶対に傍を離れないと言わんばかりのアルフレッド君が私の背中にしがみついた。
うん。重い。


「そういえばルート君は…?」

「そうだ!そのルートとか言うやつにどーなってんのか聞きに来たんだっぺ!」

「ルートさんなら一度ご自分のマンションに戻られてお父さんにご連絡をされている頃かと思います。とにかくギルベルトさんが今どこに居るのかを聞き出して、説得してみると」

「そうですか…」

「弁護士の父親なぁ…やり難いっぺ…」

「それはどういう…「

「政治家お抱えっつー事は、その弁護士のアドバイス一言で政治が動く事にもなんべ?そんな重要なポストのやつを敵に回すってのはなぁ…」

「地位も権力も高いからね。もちろん俺のダディーも政治に関わりが無い事もないけどさ…」

「そういえばアーサーが会社の方から何かできないか調べてみるって言ってたけど…」

「アーサーのやつ…。いや、そうでもしないとそんな相手とは話をするにも至らないかもしれないしな…。ったくいつもいいとこ取りするんだからなぁアーサーは…」

「ギルもアーサーに同じような事言ってたよ」

「…早く戻ってきてくれないかな、ギルベルト…。また一緒にゲームして漫画読んでアニメ見てゲーセン行って、それからまた新しいアニメの映画にも行きたいんだぞ!彼は俺の友達でもあるからね。絶対に帰って来るまで俺は諦めないぞ!」

「…そうだね」


こんな時でも明るいアルフレッド君になんだか元気をもらった気がする。
流石はヒーローだね。


「ところでマシュー君は一緒じゃないの?」

「あの、名前さん…僕最初からここに居ますけど…」

「うわっ!なんだよお前、いつの間に俺の隣に座ってたんだよちくしょぉお!」

「なんで僕は目立たないのかな…」

『…誰?』

「マシューだよ…ってうわあああ!」


あれ…今マシュー君の持ってるくまのぬいぐるみが喋ったような…。


「あの、マシュー君…」

「あ、腹話術です…!腹話術…!」

「いつも寂しい遊びしてるなぁマシューは!」


腹話術なの…あれ…。





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