「本田の誕生日プレゼントこれとかいいんじゃねえ?」 「マッサージ椅子って…高い!値段が高すぎるんだよそれ!!どんだけかかると思ってんの!?」 「0が…何個ついてんだよこれ」 「自分で数えろバカ!もっとお手軽に買える物でないと…。本田さんとトニーさんって何をプレゼントしたら喜んでくれるのかなぁ…」 「あいつらが一番喜ぶもん知ってるぜ」 「え、なになに?」 「お前がメイド服着て『ご主人様』って呼べばそれだけでOK!」 「例え銃をつきつけられてやれと言われてもそれだけは嫌」 天気も良く、ポカポカとした陽気。 ギルと二人で買い物に出かけ、来週に控えた本田さんとトニーさんの誕生日プレゼントを買いにやって来た。 二人ともどんなものでも喜んでくれそうだけど…。 やっぱりいつもお世話になってるんだからちゃんとしたものプレゼントしたいよね。 「トニーさんには…実用性のあるものがいいよね」 「商品券とか喜ぶんじゃねえ?」 「切ないこと言わないでよ…」 そうだなぁ、本田さんには安眠枕。トニーさんにはお財布なんてどうかな。 二人とも喜んでくれるといいなぁ…。 「よーし、買い物終了!帰りにアンダンテに寄って帰ろうか」 「久しぶりにエリザの顔でも見に行ってやるか!」 「また殴られるような事言うんじゃないよ…。ほんとギルは余計な事ばっか言うんだから…」 ケラケラと笑うギルの頭をコツンと小突くと、拳でぐりぐりと攻撃をくらった。 DVだ、DV。 「こんにちはーエリザ」 「あら名前!…と、甲斐性無しのプー太郎」 「よおエリザ。今日もオッパイでかすぎんだよお前!!」 「あぁん?そろそろ本気であんたの下半身使い物にならなくしてやった方がいいみたいね。そのほうが世の為人の為名前の為になる事よ」 「指ボキボキ鳴らすのやめてエリザ!!でもなんかかっこいいよ!」 「入り口で騒ぐのはおやめなさいお馬鹿さん!!」 三人揃ってローデさんに叱られた。 呆れたような表情のローデさんに視線を向けると、同じくやれやれと言った表情でコーヒーを飲んでいるルート君と机に突っ伏して眠っているフェリ君の姿があった。 「よぉルッツ!お前も来てたのか!」 「兄さん、頼むから恥ずかしい事をするのはやめてくれないか」 「はぁ?なんだよ、反抗期か?」 「そんなものはとっくの昔に終わった」 「俺の知らない間にルッツが反抗期を卒業してやがった…!」 「兄失格じゃんギル」 「ヴぇ…!女の子の声がする…!」 「起きましたかお馬鹿さんが…」 「フェリちゃん!寝起き姿も可愛いぜぇええ!」 「ヴぇ〜!名前だー!名前ー名前ー!今日ポカポカしてて気持ちいいからつい寝ちゃってたよ〜」 「ここで寝るのはどうかと思うよフェリ君…」 「だってローデリヒさんのピアノ聞いてたらすっごく気持ちいいんだよ!ほわーってなってふわふわして俺すっげー気持ちよく眠れるんだ!」 「演奏中に眠るなんてマナーがなっていませんよ!」 「ヴぇっ」 うん。私も経験があるから人の事言えたもんじゃないな。 「今日は買い物か?」 「うん。もうすぐ本田さんとトニーさんの誕生日だからねー」 「あら、そういえばアントーニョは12日が誕生日でしたか」 「すっかり忘れてた〜!兄ちゃんと菊誕生日なのかぁ…ご馳走でも作って持って行こうかなぁ、それとも絵でも描いてプレゼントしようかなぁ」 「どっちも喜ぶと思うよ」 「そういえば兄ちゃんの部屋にリボンの着いた大きなプレゼントがあったなぁ〜。あれってトニー兄ちゃんへのプレゼントだったんだ」 「ほんとロヴィーノ君はトニーさんが好きなんだね」 「昔すっごくお世話になったからねー。俺もトニー兄ちゃん大好きだよ!」 慕われてるなぁ、トニーさん。 「そうだ!もうすぐバレティーノだよね〜。名前には何贈ろうかなぁ」 「私にもくれるの?ありがとう。私もフェリ君に美味しいチョコレートケーキ作っちゃおうかな」 「やっほーい!じゃあ俺も美味しいお菓子作ってーハグしてキスするね〜!」 「調子に乗るな馬鹿!」 「ふぇ、フェリちゃん俺には!?俺にはねーの!?」 「男にあげる趣味はないよ〜!」 「ガーン…」 「でもルートとローデさんにはあげるんだ!交換する約束してるんだよね〜」 「友チョコってやつかぁ。私もエリザと交換する約束してるよ」 「マジで!?」 「えぇ。ライナさんや湾ちゃん達にも配りに行きましょうか。きっと喜んでくれるわよね」 「うん!」 「俺様の居ない間に皆約束しやがって…グズッ…」 「大丈夫、ギルには特別いいものあげるから」 「ふぁ…?」 「えー!?なんで、なんでギルベルトだけ特別なの〜!?」 「ふふふ、ナイショ」 14日はギルと出会って一年目の日だもんね。 この日だけは、特別だ。 アンダンテからの帰り道に夕飯の買い物の済ませ、岐路に着く。 綺麗な夕焼け色に色づいた地面に伸びる二つの影。 少し冷たい風が吹いてきたなぁ、なんてぼんやり空を眺めると薄暗くなった東の空に星が輝き始めていた。 「さみぃ」 「だね。やっぱり夜はまだまだ寒いなぁ」 「帰ったらヒーターで暖まりたいぜ…」 「だね。さっきレモン買ったからハチミツと混ぜてハチミツレモンでも作ろうか」 少し首を上に上げてギルのに笑顔を向けると、先ほどスーパーで全部持つと言うギルから無理矢理奪った小さな買い物袋を手からスルりと奪い取られた。 空いてしまった左手をギルの右手にギュッと握られる。 「なんだ。ギル、手暖かいじゃん」 「お前が冷てーんだよ」 「知ってるかい。手が冷たい人は心が暖かくて」 「逆に手が暖かいやつは心が冷たい…ってオイ!!」 「ハッハッハ」 「テメェ…帰ったらヘッドロックしてやるからな!」 「じゃあ私はドロップキックかましてやるよ」 「そしたらお前、俺マジで本気出すぜ?卍解とかしちゃうぜ?」 「なんだよそれ」 「必殺技。俺様かっこよるぎるぜー!!」 「かっこよくねーよ、ばぁーか」 何も持っていない右手を上着のポケットに入れ、周りの音にかき消されそうな小さな声で「こうしてると、すっごく幸せだなぁ」と呟く。 どさり、とギルの左手に持たれていた買い物袋が二つ地面に落ちて、空いしまった両手で私をきつく抱きしめるギルにしばらく硬直した。 ドクンドクンと心臓が煩くて、ひねり出したような声で「あの…買い物袋の中卵入ってんですけど…」と言うと「空気読めっての」と、踵が浮く程更に強く抱きしめられた。 「ただいまー…って、あれ?ピヨちゃんが居ない」 「友達のとこにでも行ってんじゃねえ?」 「え、ピヨちゃん友達居るの!?」 「前にベランダんとこに餌置いてたら友達連れて食べに来てたぜ」 「それって友達じゃなくて彼女なんじゃ…」 「ま、マジで!?俺ピヨちゃんに先越されてんじゃねーか!」 「とうとう一人だねぇギル…」 「ひ、一人楽しすぎるぜぇえええ!」 別に泣かなくてもいいだろう…。 買い物袋から食材を取り出し、割れた卵のパックもそっと取り出す。 うわぁ…全部割れてるし。今夜の夕飯のメニューはカレーじゃなくてオムライスに変更だな…。 「隣の眉毛は今日仕事かよ?」 「みたいだねー。お父さんが日本に居るから忙しく走り回ってるって言ってたよ。今日も戻ってこられるか微妙なんじゃないかなぁ…」 「つーかお前、昨日あいつの親父と会ってどうだったんだよ…」 「どうって…。すごい人だったよ」 「どうすごいんだよ」 「うーん…やっぱりアルフレッド君のパパさんだなぁ、と言うか…」 「はぁ?」 「分かれる時窓から飛び降りてね。それでジェット機に乗ってそのままどこかへ…」 「ハリウッドかよ!?」 「だからアルフレッド君のお父さんだなぁって言ってんの」 「確かに…」 さてと。夕飯の準備にとりかかるとするか…! ―ピンポーン 「あ…。アーサーかな。はいはーい、今行くよー」 そのいつものように鳴り響いた呼び出し音。 これが終わりを告げる、合図だったのかもしれない。 「おかえりー、アー…」 「苗字名前だな」 「えっと…貴方は…」 「吾輩はバッシュ。ギルベルト・バイルシュミットを迎えに来たのである」 私が最も恐れていた事が起こってしまいそうな気がした。 いや…もう、起こっていたんだ。 . ←|→ |