「で、名前ちゃんはアーサーのどう思ってるんだい?」

「え、私…!?」

「あぁ。アルフレッドから聞いたけど、あいつも君の事が好きだって言ってたぞ。兄弟で一人の女性を取り合うなんて映画みたいじゃないか!」

「そんないいもんじゃねーよバカァ!」

「えーっと…私は…」

「他に好きな男でもいるのかい?」

「好きな男、ですか…」


同居人は居ますけどね、なんて事は口が裂けても言えない。
あぁ、早く帰ってギルに癒されたいよ…。


「えっと、アーサーと同じマンションで仲良くなって…。毎日一緒に夕飯を食べたり…」

「なんだ、もう付き合ってるんじゃないか!」

「え、そんなんじゃな「そうかそうか…。君が私の娘になる日はそう遠くなさそうだな!男だらけで女っ気のない家族だったから私も嬉しいよ。こんな可愛い娘が出来るなんてね」


なんだか素敵な勘違いをしてらっしゃるようですが…。
このまま流されて結婚なんて事になったら…。

確かにアーサーの事は好きだ。認めよう。友達じゃなくて、一人の男性として惹かれているのは確かなんだ。
だけどずっと引っかかているもの…。
認めたくないけれど、絶対に認めたくなんてないけれども




「ありがとう。今日は楽しかったよ」

「こちらこそありがとうございました。貴重なお時間を空けていただき本当にありがとうございます」

「またいつでも遊びに来てくれ。君なら顔パスで来られるように皆に言っておくから」

「ハハハ…それはちょっと遠慮させていただきます」

「日本人はシャイだなぁ〜。しかしそこが可愛いんだけどね」


頬に当たる感触。
チュッと音を立てて私の頬にキスをしたアーサーのお父さんが「それじゃあ私はこれで失礼するよ!」とウインクをして窓の外に飛び降りた。
悲鳴を上げて窓に駆け寄ると耳が痛いほどのジェット音がして、ビル擦れ擦れのところで空中停止しているジェット機の窓からアーサーのお父さんが手を振った。

って、ハリウッド顔負けのアクションはやめてくださいよ…
っていうか流石アルフレッド君のお父さんとでも言いましょうか…演出が派手だなぁ…。
いつもあんな事してるの?とアーサーに尋ねると、「まぁな…」と複雑そうな顔をして視線を反らした。
アーサーも大変だなぁ…。


「ったく…アーサーってば好き勝手言うんだから頭にきたよ」

「わ、悪い…。でもあれが俺の夢なんだよ…」

「知ってるよ。イギリスで暮らす事がでしょ?」

「いや…お前と一緒に暮らすことが、だよ」

「う…」


最近のアーサーは本当にツンの部分をどこかに忘れてきたんじゃないかと思うほどストレートだ。
人と言う物はしがらみがなくなるとこうも素直になるものなのか。


「だけどアーサー…。私もお爺ちゃんとお婆ちゃんが居るし…二人を置いてイギリスになんて行けないよ。それに…ギルも居るし」

「あぁ…祖父母にも承諾をもらえれば皆一緒にイギリスに、なんて事思ってたんだけどな…。悪い、勝手すぎるよな」

「その通りですよ。っていうかギルの存在は無視か」

「弟のとこにでも帰ってりゃいいんだよあんなプー太郎」

「ずっと言ってるけどギルも私の大切な家族ですけど」

「う…」


冷や汗をかくアーサーの横顔を見て、内心「勝った!」とガッツポーズを決めた。

玄関の前で別れる際に、「いつまでも待つ。いつか答えをくれ」と震える手で私の手を握ったアーサーに胸が苦しくなった。
そんな顔で見るなよ、バカ。



「ただいまー」

「……」

「あれ、本田さんは?」

「さっき帰った」

「そっか…」


美味しいケーキ買ってきたのになぁ…。
まぁいいか。後で本田さんの家に持って行こう。


「ギル、今日は家に居なくてごめんね」

「べつに…」

「またそれかよ…。明日は一緒に買い物行こうか。約束してたもんね」

「……」

「行かないの?」

「二人だけで出かけるっつーなら一緒に行ってやらない事もない」

「…素直じゃないなぁ。アーサーと正反対になっちゃうんじゃないの?」

「はぁ?」

「何でもないよ。うん、でかけようか。明日は二人だけでね」

「……ん」


ソファーに腰を下ろしギルの肩に頭を置くと、ポンポンと髪を撫でられた。
うん、癒される。


「すみません、先ほどこちらに忘れ物をしてしまいまして…。歳をとると物忘れが激しくていけませ………」

「あ、本田さん」

「あぁ、忘れ物ってこれか?ミュージックプレイヤー」

「本田さん爺の癖に持ってるものはハイテクですね…」

「あ、いえ…」


忘れ物を受け取った本田さんはそそくさと戻り、「お楽しみ中失礼しました。ご馳走様」と写真を数枚撮りにっこり笑顔で帰って行った。

…ご馳走様って何の事だ…。


「あ…」

「なんだよ」

「本田さんにケーキ渡すの忘れた…」

「アホだろ…」


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