「頼む!突然で悪いけど明日予定空いてるか!?」

「アーサーの”お願い”は何度聞いた事やら…。まぁ空いてるって言えば空いてるんだけど」


今日は比較的に暖かいにも関わらず、分厚いコートとマフラーをぐるぐる巻きにしたアーサーが顔の前で手の平を合わせた。


「で、何するの?」

「前にも言っておいた通り、俺の親父に会ってほしい」

「え…」

「いいん、だよな…?お前は」


おずおずと私の表情を伺うアーサーに言葉を詰まらせた。
確かに前々からそんな話はしてたけど…。


「あの、アーサーのお父さんに会うって、どういう意味合いで…」

「べ、別に深い意味はないんだからな!!だけどお前は…その、俺にとって大切な人だし…」

「そ、そうですか」

「親父は俺が昔散々荒れてる時、一番心配かけてくれた人なんだ…。とっくの昔に俺の母親とは離婚してるっていうのにずっと俺に気をかけてくれて…。だから俺にとってアルフレッド達の親父は一番の恩人なんだよ」


だからそんなに慕ってるんだ…。
まぁ、アーサーがそこまで言うなら挨拶ぐらいはね…。


「分かった、明日ね」

「い、いいのか!?」

「うん。約束してたんだし。どこに行けばお父さんに会えるの?」

「悪いけど会社まで来てくれるか?あぁ、勿論食事も用意してあるから。会社と言っても親父のプライベートルームがあるし、ベッドがないだけでホテルの部屋となんら変わりないから」

「さすが世界的に有名な会社の社長さんだね…。いずれかはアーサーもそのポストに就くときが来るのかなぁ」

「俺はそんな器じゃねーよ。アルフレッドがマシューが親父の後を継げばいいんだ」

「で、アーサーはイギリスに戻ってのんびり暮らしたいと」

「…できれば、お前と一緒にな…」


いや、必ず。

小さく呟くアーサーの声が駅構内に流れるアナウンスによってかき消された。



「ギルー!ただいまー」

「おぉ…って、眉毛も一緒かよ…」

「ああん?俺が居ちゃ悪いかよプー太郎」

「はいはい喧嘩したら晩ご飯抜きねー」


いつもの駅に到着し、アーサーと同じく寒そうにマフラーに顔を埋めているギル。
そんなに寒いのかなぁ…。


「今夜の晩ご飯は何にしようか」

「コロッケ食いたいぜ!」

「…コロッケはもうしばらく作らないから…」

「あの事件で、か…」

「俺が居ない間に何があったんだよ…」

「お前は知らなくていいんだよ」

「なっ…」


アーサーが出張に行ってる時の事だったもんねぇ…。アルフレッド君に私のコロッケを食べられて…。

いつものように近くのスーパーに寄ってみると、野菜を食品の棚に並べるトニーさんの姿があった。
野菜コーナーは寒いわぁーと体を震わせるトニーさんも同じく寒がりな人らしい。
嬉しそうに「せやけど俺には名前ちゃんのくれたマフラーあるしな!それだけで心がぽかぽかしてくんねんで」と笑うトニーさんに、私の後ろに居た二人が舌打ちをしてトニーさんに聞えるか聞えないぐらいの小さな声で悪態をついた。
こらこら、口が悪いぞ君達。

家に帰って、鍋でビーフシチューを煮込みながら明日の事をギルに何と説明しようかと悩んだ。
アーサーのお父さんに挨拶する…。前に言った時も文句言われちゃったしなぁ…。
親に挨拶しに行くなんて、なんだか結婚前みたいな感じもしなくもないし…。アーサーはただ紹介したいだけみたいだけど。
ギルに言ったら、なんて言われるのかな。
まだどうでもいいとか言われたら今度こそ泣くぞ、私は。
なんだかギルに言われるのが一番傷つくんだよなぁ…まったく。


「なんか焦げ臭いけど大丈夫か?」

「え…?って、うあああああ!!焦がしちゃった…!!」

「マジかよ…!!」

「材料残ってないし…作り直せないよ…」

「今夜はカップラーメン決定だな」

「ちくしょう…」



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