「名前っ!!」

「おかえり、アーサー」


ガラガラと小さなトランクを引き駆け寄ってくるアーサー。
本日アーサーが帰国してくるということで、アルフレッド君の思いつきで空港まで迎えに行く事になったのですが…。


「ごふっ!」

「うわっ、ちょっ…!!」

「名前…会いたかった…!」


駆けつけるなり手に持っていた荷物をギルに向かって投げつけたかと思えば、私の背中に腕を回しぎゅっと胸に顔を押し付けた。
あれ…いきなりデレですか…。


「あぁああああ!!なにやってるんだいアーサー!!」

「おやおや。アメリカでツンデレのツンの部分落っことしてきたんじゃないの?もう一回戻れよ、アメリカに」

「うるせーよオッサン!つかなんでお前まで一緒に来てんだよ!?」

「名前ちゃんに助けを求められちゃってさ。助けてフランシスさん!私貴方がいないと生きていけない!ってね…」

「あながち間違ってもいませんけどその言い方嫌なのでやめていただけません?」


私の肩越しにギャーギャーとフランシスさんに喧嘩をうるアーサー。
あの…もう離していただきたいのですが…。
ちょんちょんとアーサーのコートを引っ張れば、ハッとした顔をして見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げていった。


「あ、その、悪い。久しぶりだったから…つい…」

「ふぅー…。ところでギルに投げつけた荷物の中身なんだったの?」

「あぁ。アルフレッドが欲しがってた分厚い本が何冊か入ってるやつだな。ったく、すごく重かったんだからな」

「ギルぅうう!」


お腹の上に荷物を乗せたまま床に倒れこんでいるギルに駆け寄り頬をペチペチと叩くと、小さく唸るように「巨乳…」と呟いた。
いったいどんな幻覚を見ているんだ。


「これしきで伸びるなんてだらしないなぁギルベルトは!」

「まぁ不憫だからしょうがないさ」


軽々とギルの上に乗っている荷物を持ち上げたアルフレッド君。流石だな。


「あ、荷物運ぶの手伝おうか?」

「いや、重いし家まで郵送するから大丈夫だ」

「そんな事よりアーサー!俺すっごくお腹がすいたんだぞ!」

「ったくしょうがねーな…。どこかで食事にするか」

「お兄さんフランス料理のフルコースがいいなぁ〜」

「俺はハンバーガーがいいんだぞ!もしくは高級黒毛和牛!」

「俺様も黒毛和牛で!」

「あ、生き返った」

「どれか一つにしろよバカ!」


停めてあったアルフレッド君の真っ黒な高級車に乗り込み、今度はアーサーが運転席に座ってハンドルを切った。
つかれてるのに大丈夫なのかなぁ…。


「アーサー。時差ボケとか大丈夫?」

「ん?あぁ。もう何度も味わってるし慣れてるからな」

「ふーん…」


そういうものなのかなぁ。

アーサーが向かった先はとても高級そうな風格のあるお店。
またこんな場所選んじゃってこの眉毛は…。
アルフレッド君とフランシスさんは慣れたように店の中に入っていく。
奢りだから気にするなよと耳打ちするアーサーに「そういう問題でもないのですが」と返したが、彼の耳には届かなかったらしい。


「うんめぇえ!!」

「んー!肉が柔らかくてジューシーだぞ!」

「う〜ん。これはお兄さんも舌を巻くなぁ。あ、ワインもう一杯もらえるかい?可愛いマドモアゼル」

「店員さん口説くの止めてくださいよ。でも本当に美味しいなぁ黒毛和牛」


お値段は…聞いちゃダメだよね…。


「あれ、アーサー。君あんまり食べてないけどそれ残すのかい?」

「え!?いや、まぁな…欲しいならやるよ」

「ヤッホーイ!じゃあ遠慮なくいただくよ!」


アーサーのお皿に乗っている分厚いお肉をとってパクりと口の中に放り込むアルフレッド君。
あーあー…一口で食べちゃって勿体無い…。
だけどアーサー、食欲ないのかなぁ…。
さっきまで何時間も飛行機に乗ってここまで帰ってきたんだし、相当疲れてるよね…。


「アーサー、体の調子でも悪い?」

「どーせ向こうでいいもんばっか食ってたから飽きたんだろうぜ」

「俺は毎日これでも飽きないけどな!」

「そんなんじゃねーよ馬鹿。俺はこんなのより…」


ごにょごにょと呟くアーサーに、フランシスさんが「あー、そういう事ね」と楽しそうにニヨニヨと笑った。
何の事だろう。

食事を終え、マンションに帰ってくるなり大きく安堵の溜息をつくアーサー。
やっぱり自分の家が一番落ち着くよねー。


「な、なぁ…今日の夕食って何だ?」

「なに、まだ昼過ぎたばっかだよ?もしかしてお腹すいてる?」


さっきあんまり食べてなかったもんね。


「空いてると言えば空いてんだけど…」

「さっきちゃんと食べればよかったのに。勿体無い」

「あ、あんな料理より、俺は…」


もじもじと言葉を濁らせるアーサー。

あんな料理より、俺は。それに続く言葉を、アーサーの一連の行動から察した私は小さく溜息をついた。


「今からカレー作ってあげるから一時間ほど待っててくれる?」

「なっ…い、いいのか!?あ、いや別にお前の料理が食べたいとか…いや、食べたい…んだけどな…」

「そこは素直になっておきなさいよ。すぐ作るからお風呂にでも入ってゆっくり疲れ取ってきなよ」

「あ、あぁ…!」


まぁ…嬉しそうな顔しちゃって…。
あんなお高い料理捨ててまで私の料理が食べたい、だなんてなぁ…。

照れるじゃないか。



「あ?なんでこんな時間からカレーなんて作ってんだ」

「んー?まぁ…労い的な」

「は…?意味わかんねーし」

「うるせーやい。食らえ玉ねぎアタック!」

「う、うああああああ!!目が、目がぁああああ!!」



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