「あ、グプタさん!」

「……」


いつもの帰り道。
毎日駅まで迎えに来てくれるギルが「少し遅れるから駅で待ってろ」というので、ふらりといつもと反対の駅裏にやってきた。


「こんばんはー。少しなんですけど入らせてもらっても大丈夫ですか?」


ゆっくりと頷くグプタさん。
相変わらず無口な人なんだなぁ…。


「今日も寒いですねー。あ、卵とこんにゃくとはんぺんいただけますか?」

「…」

「晩ご飯の前だから控えなきゃいけないんですけど、いい匂い嗅ぐとつい食べたくなっちゃいますよね」


何も言わず頷くだけのグプタさん。
だけど、会話の続かない空気に気まずさを感じないから不思議な人だよなぁ、グプタさんは。


「……サービス」

「…じゃが芋…。いいんですか?」


またゆっくりと、頷くグプタさん。


「ありがとうございます」


良い人だなぁ。
サディクさんの知り合いだから私に良くしてくれてるんだろうか。

しばらくおでんを食べながらグプタさんと半一方通的な会話を続けていると、仕事帰りのおじさん達がやって来た。


「今日は若い子が居るじゃないの〜グプタさん!」

「あ、すみません。席詰めますね」

「お姉さんみたいな可愛い子の隣に座れて嬉しいなぁ〜」

「お嬢さん、気をつけなよ。このおっちゃん変な事するかもしれないからねー」


笑い混じりに冗談を飛ばしてくるおじさんたちに苦笑いを浮かべる。
そろそろお店も忙しくなる時間だろうし出ようかな…。


「ご馳走様グプタさん。また来ますね」

「あれー!帰っちゃうの〜?おじさん寂しいなぁ〜」

「もうちょっと一緒に飲もうよ!ね!」

「えーっと…」


ぐいぐいと私の腕を引っ張り再び椅子に座らせようとするおじさん。
ギルも来るだろうし行かないといけないんだけど…
困ったようにグプタさんに視線を送ると、どこからか変な形をした棒を取り出すグプタさん。
カウンターの奥から棒でおじさんの手を突付き始めるグプタさんに「ごめんごめん。グプタさんを怒らせると厄介だからなぁ」と私の手を掴んでいたおじさんが腕を引っ込めた。


「グプタさんそれ、何の棒なんですか?」

「ファラオ」

「ファラオ!?」


やっぱりグプタさんは不思議な人です。


「居た!!お前こんなとこに居たのかよ!ちゃんといつもの場所で待ってろつっただろーが!」

「ギル…ごめんごめん」

「なんだお姉さん彼氏と待ち合わせだったの〜。ごめんね邪魔して」

「いや、彼氏じゃなくて…」

「お兄さんもこっちきておじさん達と一緒に飲もうよ!おじさん達が奢っちゃうよ〜」

「マジで!?飲むに決まってるぜ!」

「ちょっとギルー!?」

「お前も座れよ。よぉグプタ!熱燗頼むぜ!」

「お兄さんイケる口かい?おじさんと飲み比べしようか」

「よーし、俺が買ったら次回も飲み代奢れよ!」

「よしきた!グプタさん、こっちにも熱燗ね!」


なんで知らないおじさんと意気投合してるのギル…。
こうして飲み比べを始めてしまったギルに大きく溜息をつき、酒を煽るギルの横でグプタさんに「このお酒大好きなとこどうにかなりませんかね」と愚痴を零した。
何も言わず無言で頷いてくれるグプタさんはとっても聞き上手だった。ここに来るお客さんの中にはグプタさんに愚痴を零したくてやってくる人も居るんだろうなぁ…。

酔った勢いで私に抱きついてくるギルにグプタさんのファラオの棒の制裁が下された。
そ、そんなに思いっきり殴らなくても…グプタさん…。



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