「ギール!」


今日の私はすこぶる機嫌が良かった。
それも風邪で本日デンさんがお休みだった為に社内は平和だったし、ノルさんが出先から差し入れに美味しいケーキを買ってきてくれたし!
今日はいいお天気だったから布団も干せたし、本当にいい日だったよね〜。


「ねーギルギルー」

「……」

「ねー、ギルってばー」

「……」

「聞こえないの?ギルベルトさーん」

「だぁあああ!!うるせーんだよ!!ゲームしてるっつーのに横で何度も呼ぶんじゃねえ!!」

「いいじゃん別に」


コントローラーを構えて画面の中のロボットを動かすギル。
楽しそうだなぁ…。
私は夕食の後片付けも終わらせちゃったし、アーサーもいないから話し相手も居ないし暇なんだよね。


「ねえギル、一緒にDVD見ない?」

「今ゲームやってんのがわかんねーのかよ」

「私はゲームより映画の方がいいのですが」

「だったらお前の部屋にあるパソコンで見ればいいだろ」

「……」


なんか冷たくないですか、ギルベルトさん。
一度も私の方を見ずテレビの画面に視線を向けたままだし…。


「ギールー」

「ぬわっ!?なっ、何してんだよお前!?」

「ははは。どうだ、重いだろう」


後からむぎゅっとギルの首に腕を巻きつけて背中に圧し掛かるような体制をとる。
慌てた様子でこちらを振り返るギルに笑って見せると、頬を赤くして「離れろぉおお!!」と暴れられた。


「体密着させんな!」

「えー…」

「そ、そんなに俺様に構ってほしいのかよ!?ガキだなお前!!」

「うん。構ってほしい」

「ふぁ…?」


間の抜けた声。
首にしかみつく腕の力を緩めて体を離すと、ぽかんと口を開いて呆然としているギルが私を見上げた。


「たまにギルが”構え”って私に言ってくるじゃん。だから私もギルの真似してみようかなーって…」

「……」


あれ、やっぱり私の柄じゃなかったかな。
成れない事はするもんじゃないなぁ…。
結構楽しかったけど。

小さく溜息をつき、自室に戻って映画のDVDでも見ようと腰を上げる。
それと同時にギルの手が私の腕を掴み、力強く引っ張られたかと思えば私の体はすっぽりとギルの体に包み込まれていた。


「え…」

「構ってやるよ!!ケッセセセ!!んっとに俺様がいねーとダメだなお前は!!」


頬を赤くして、嬉しそうに笑うギルの膝に乗せられる。
あれ…なんだこれ。
背中から抱きこまれるように肩に顎を置かれて…。少し苦しいのですが。


「あったけえー…」

「少し苦しいですギルベルトさん」

「構えっつったのお前だろ」

「だからってこんなに力入れなくても…」

「お前、俺が居なかったら構ってくれるやついなくて寂しさで死ぬんじゃねーか?」


同じ言葉をそっくりそのままお前に返してやりたいよ。
私が居なかったら構ってくる相手なんていないくせに。

ドクンドクンと、早い心音が伝わってきて。
それはギルの心音だったのか、私の心音だったのか。
どちらのものとも分からないままに、それを誤魔化すような笑顔を浮かべた。


「ギルに言われなくてもそんな事分かってるよ、ばーか」



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