「うおえ…気持ち悪い…」

「昨日あんなに飲むからだよバカ…。まぁ今日は一日ゆっくり休んでなさいな。あ、でも掃除とゴミ出しは忘れないでねー」

「お前なぁ…!!俺がこんなに苦しんでんのにそんな事やらせるつもりかよ!?」

「自分が悪いんじゃん」

「鬼!!悪魔!!」

「勝手に言ってれば?」

「ペチャパイ!!寸胴!!」

「…久しぶりに寝耳にビール入れてやろうかな…」

「ちょっ、勝手に言えつったのお前だローが!?」

「煩い黙れ。この家では私がルールだ」

「女王様かよ!?」


一通りツッコミ終えたところで傷む頭を抱えたギル。
大声出すから…。


「それじゃあ仕事行ってくるね。寝てれば治るんだからゲームとかしないでちゃんと休んでおくんだよ?」

「わーってる」

「それじゃあ行ってきまーす」


いつものように家を出ると、なんとなく空がどんより曇っているのが気になった。
天気予報では雨は降らないって言ってたけどなぁ…。
ま、傘持って行かなくても大丈夫でしょう。


なーんて、朝はそんな軽い気持ちででかけたのに…



「降っちゃいましたねー…雨」

「天気予報のうそつき…」

「外れることもたまにはありますよ」

「んだな」

「今日傘持って来てないよー…走って帰らないとなぁ…」

「だったら俺が家まで車で送って帰ってやっぺ!」

「えー…デンさんがですか…。悩むなぁ」

「…んな事するぐれぇなら俺が傘かっておめぇの家まで送ってやっがら…こいつだけにはついて行ぐのはやめろ」

「なんだっぺベール。そんなに俺が信用ならねーってか?」

「おめを信用なんてした事これっぽっちもね」

「あわわわ…!喧嘩はやめてくださいよお二人とも〜!!」

「ノルさん、今日二人でお昼食べに行きません?」

「えがっぺ。たまには先輩が奢ってやんべ」

「わーい!ありがとうございますー!」

「って、無視しないでくださいよ名前さぁああん!!僕一人じゃこの二人の喧嘩止められませんよぉおおお!!」




―――




「おい名前、携帯鳴ってたぜ」

「んー。ありがと」


お風呂上りにプリンを食べようと冷蔵庫に向かうと、ピヨちゃんによく似たギルとお揃いのストラップがついた私の携帯をギルが差し出した。
電話かぁ。いったい誰…って、アーサーかぁ…。
何か用かもしれないしかけなおしてみるか。


「……あ、もしもしアーサー?私。ごめん、お風呂入ってたんだ〜」

『そ、そうか…タイミング悪い時にすまなかったな』

「いいえー。どうかしたの?」

『いや、ちょうど少し時間あったから…声、聞きたいとか思っただけで…』


ごにょごにょと言葉の最後が聞き取りにくかったけど、はっきりとその言葉の意味は伝わった。
うっ…なんか恥ずかしいな…。
ちょっと場所変えようか…。顔赤くなりそうでギルに見られると何か言われそうだし。

アーサーに適当に返事を返しながら場所を移し、自室のベッドの上に腰を下ろす。


「そっか、そっちは今お昼か〜。やっぱりすごく寒いでしょ、アメリカは」

『寒い。すんごく寒い。コート着ててもマフラー巻いてても風は冷たいし雪は降るし…』

「大変だね。風邪ひかないようにね」

『あぁ…。そ、それで、なんだけどな…』

「んー?」

『今度帰ったとき、親父と一緒に日本で食事をする事になってるんだよ…だからその時、お前も一緒にどうかと思ってだ、な…』

「え…マジですか…」

『なんだよ…ダメなのか?』

「いや、ダメじゃいけど…。親御さんに会うなんてまるで…」

『まるで、なんだよ』

「いえ、なんでもないです」


深い意味はないんだろうか…
まぁアーサーのお父さん…もとい、アルフレッド君のお父さんに会ってみたかったしいいか…。
凄い人だから私なんかがお会いしてもいのか分からないけど…。

適当にアーサーとの電話を済ませ再びリビングに戻ると、ソファーの上でクッションに顔を埋めたギルが拗ねていた。
「なに拗ねてるの」と声をかけると、何も言わずに体を起こして私の肩に顎を乗せる。
重いんだけどなぁ…。
でも甘えた感じのギルの姿がちょっと可愛いから…許してあげようかな。


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