携帯に、珍しい人からの電話がかかってきた。


『よお嬢ちゃん。元気かい?』

「さささ、サディクさん!?」

『今嬢ちゃん家の近くで飲んでんだけどよぉ。男ばっかで花がねーってんで嬢ちゃんを誘ってみたってわけよ。駅裏のおでんの屋台居るから今からこねーかい?』

「い、行きます!すぐにそっちに向かいますね!」

『おお!待ってんぜ』


さ、サディクさんからのお誘い…!!
今ちょうど晩ご飯を終えたばかりだけど…憧れのサディクさんからのお誘いとあらば行かないわけがない。


「どど、どうしようギル!サディクさんに誘われて今から駅裏の屋台に行く事になっちゃった!」

「はぁ!?なんでだよ!?」

「今近くに居るらしいんだけど、男だらけで花が無いから良かったら来ないかって。えっへへー」

「……」

「ギルも一緒に行く?」

「行く。つーかお前男ばっかだって言われてんのに一人で行く気かよ?」

「いや、だってサディクさんだし」

「お前なぁ…もし俺が居なかったらどーなるか…」

「何?なにか言った〜?」

「べっつに」


ギルと一緒に部屋を出て駅裏へ向かう。
やっぱり寒いなぁ…。
早く屋台で暖まりたい。


「こんばんはー」

「よぉ嬢ちゃん!兄ちゃんも来てくれたのかい」

「よぉ」

「名前…ギルベルト…ヒサシブリ」

「ヘラクレスさん!久しぶりですね〜。珍しいなぁ、お二人が一緒に飲んでるなんて…」

「俺が連れと一緒に飲んでたらこいつがふらっときやがったんでい」

「いやならお前が帰れ…オッサン」

「んだとテメェ!!」

「ちょっとー…喧嘩しないでくれよ、もう…」


相変わらず仲の悪い二人の仲裁に入る青年。
どちらさんだろう…。


「おぉ、こいつぁキプつってな。同じアパートの住人で腐れ縁でよぉ!まぁ仲良くしてやってくんない」

「初めましてー」

「は、初めまして。サディクさんが女の人を呼ぶなんて言うからどんな方かと思えば…こんなに可愛い人だったんですねー。っていうかこんな若い子とどこで知りあったんだよオッサン…」

「オッサンって呼ぶんじゃねーやい!!」


仲いいなぁ…。
適当に席を詰めてもらい、長椅子に腰掛ける。
屋台なんて久しぶりだなぁ…。


「俺屋台初めてだぜ…」

「あれ、そうなの?」

「なんでい兄ちゃん、いつもはもっといい店で飲んでるってかい」

「行ってみたいとは思ってたから来れて良かったぜ。俺様熱燗一本!」

「飲む気かい!さっき夕食の時ビール飲んだでしょうが…」

「そう固いこと言わずに嬢ちゃんも飲みなっせ」

「名前に酒を飲ませて…何する気だオッサン…」

「テメェこそ嬢ちゃんの隣に座ってんじゃねーよ」

「黙れ。俺と名前に…半径一メートル以内に近づくな」

「無茶言うんじゃねーやい!」

「だーかーらー…もー、なんで喧嘩するのかなぁあなた達は…グプタさんからも何か言ってやってくださいよ」


グプタさん…?
キプさんが声をかけた方を見てみると屋台の裏から人が現れ、そっとギルの前に熱燗を置いた。


「グプタ。キプと同じで…同じアパート、なんだ」

「そうなんですか〜。初めましてグプタさん」


エジプトのような砂漠の場所に住む衣装のようなものを見につけたグプタさんは口を開かないままコクりと頭を下げ、私の前にジュースを出してくれた。
ちょっと変ってるけどいい人だなぁ…


「そういえばサディクさん、前にアパートに子供が居るって言ってましたよね?」

「あぁ、それ僕の弟です。サディクさんに懐いちゃって困ってるんですよー…」

「何が困るってんでい」

「教育に悪い…」

「アハハ。でも周りにこんなに沢山素敵な大人の方がいるんだからとってもいい環境じゃないですか」

「賑やかでいいんじゃねーの?俺様なんて昼間は家で一人きりだぜ…たまに本田は来るけど…」

「だったらにーちゃんも働けばいいじゃねーか。どうでい、うちで働かねーかい?」

「おお!良かったじゃんギル!この就職難の中働き先見つかるなんて」

「給料は安いぜ!しかもべらぼうに働かされるから全然割に合わねー仕事だけどな!」

「だったら家に居る方がましだーっ!!」

「え、もしかしてギルベルトさん…ヒモですか…?」

「うわぁ、久しぶりの反応だなぁ」

「ヒモじゃねーよ!!家事手伝いが職業なんだぜ!」

「それって…プー太郎ってことと同じ…」

「うっ…」


皆からの攻撃に少し涙目になって俯いているギルに、グプタさんがポンポンと頭を叩いてお皿に入れたおでんを差し出した。


「お前…超いい奴すぎるぜぇえええええ!!」

「グプタはああやって食べさせたり飲ませたりして…お金取るから」

「商売上手だね…」

「あいつぁ金儲け好きだからねぃ。嬢ちゃんも騙されないように気ぃつけろよ」

「私は大丈夫ですけど既にギルがカモられてます」

「熱燗もう一本頼むぜ!」


それから一時間ほど、グプタさんのお酌で飲んで飲んで飲まれ、足元がフラフラになったギルを支えて岐路につく事になってしまった。
送って帰ると何度も言われたけど、サディクさん達のアパートは逆方向だしもう時間も遅いしね…。
「うー…」と唸るギルをなんとかリビングのソファーの上に落とし、私も疲れきった体をベッドの上に沈める。

あー、疲れた…。
だけど久しぶりにサディクさんやヘラクレスさんにも会えたし…。キプさんやグプタさんもいい人達だったなぁ。
グプタさんにはいいカモにされちゃったけど。
ギルのやつ…あの様子じゃ明日もお酒残るだろうな…。
二日酔い決定じゃないか、バカ。


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