「おい名前ー!この間の企画の書類の「すみませんデンさん、用があるのでお先に失礼します!適当に机漁ってください!それではっ!!」

「って…なんだっぺ、あいつ…」


上司の言葉を遮るように間髪入れずに挨拶をして職場を後にする。

今日はギルの誕生日。

思えば来月になればギルに会ってから一年になるんだよね。
本当に早いなぁ…。

よーし、ギルの為にも美味しいご飯とケーキ焼いて喜ばせてあげるぞ!


「たっだいまー!」

「ちょっ、早えええ!!お前なんでそんなに帰り早いんだよ!?」

「上司の命令を無視して全力で走り買い物も済ませて帰ってきましたが何か。よーし、今から美味しい料理作ってあげるからね!」

「マジかよ…」


ぽかんと口を開けたギルの横を通りてきぱきと着替えを済ませてキッチンに立つ。
あれ…流し台の中にお客さん用のティーカップが…。


「ギル、誰か来てたの?」

「あー…ルッツがな。プレゼント渡しに来たんだよ」

「そうだったんだ。何もらったの?」

「すっげー美味いビール」

「ビールかぁ…ルート君もギルもビール好きだね」

「まぁな」


日本のも悪くねーけど本場ドイツビールはもっとうめーんだぜと誇らしげにルート君からもらったビールの瓶を私に見せたギル。


「今夜は一緒にこれ飲もうぜ」

「今日飲んじゃっていいの?」

「あぁ。めでたい日に飲むのがいいんじゃねえ?」

「そうだね」


それじゃあそのビールに似合うように頑張って料理を作りますか!

今日はアーサーも遅いって言ってたし二人っきりの誕生日パーティーだね。
本田さんや他の皆を呼んでもも良かったけど、平日で皆も忙しいだろうし。
よーし、張り切って作るぞ!

まずケーキからとスポンジ作りにとりかかる。
料理が上手くなったってフランシスさんにも褒められけど…ギルって普段から私の料理食べて「美味しい」なんてあんまり言わないんだよね。
美味しいって、言ってもらえるといいけど。
てきぱきと料理をしていけば順番にできあがっていく料理の数々。
うん、これでいいかな。
あとはケーキにクリームを塗って…


「ギルー」

「なんだよ」

「ちょっとちょっと。ケーキに生クリーム塗らない?楽しいよー」

「とか言って俺様に手伝わせる気だろ!!」

「違うっつーの。クリーム余ったら舐めさせてあげるから」

「マジかよ!?しょうがねーな…」


によによと嬉しそうにキッチンに入ってくるギル。
腕まくりをして手を洗ったギルの前に綺麗に焼きあがったスポンジを差し出す。


「はい、これで上から適当に塗って」

「ばっと一気にやってもいいのか?」

「うーん…まぁ食べるの自分達なんだから好きなようにすればいいんじゃないかな。塗れたらこの苺乗せるからね」

「おう!」


やる気満々に生クリームをスポンジの上に乗せる。
ぎこちなく薄く生クリームを延ばしていったが、綺麗にできないのが納得できないのか何度も塗りなおしていた。


「いやいやいや、べつにそんなに拘らなくても!」

「なんかむかつくんだよ」

「あんたそんな完璧主義者だったっけ…?ほら、苺乗せるから余ったクリーム舐めてなさい」

「お前も食うか?」

「んー…それじゃあちょっとだけ…」


生クリームを指ですくい口に入れると、甘い味が口いっぱいに広がった。


「甘い」

「生クリームだしな」

「でも美味しい〜!流石私の作った生クリーム」

「自惚れてんじゃねーよバーカ」

「だって事実だし?」

「俺様が作った方が絶対に美味しいぜ」

「どうだか。さてと、出来上がったことだし運ぶか!ギルは座ってていいよー」


「おー」と言いながらも並んだ食器を机に運んでいくギル。
こういう所は気が利くようになったというか…。
テーブルの上に料理を並べ、作りたてのケーキを真ん中に置く。


「「おおー!」」


これはなかなか…!!いい感じに誕生日っぽいよね…!


「よーし!それじゃあ蝋燭に火点けて…電気消すよー」

「おー」


ケーキに刺さった蝋燭に火を点け部屋の電気を消す。
室内に唯一光が灯った蝋燭の火がゆらゆらと揺れて、ギルの顔をぼんやりと明かりで灯した。


「さ、ギル。願い事して」

「…あぁ」


そっと目を閉じて、数秒。
願い事をするにしては少し早く目を開いたギルに「もういいの?」と首を傾げる。


「あぁ。元から決まってたしな」

「へー。なになに?スラダン全巻欲しいぜーとか?」

「いや、言わねえ」

「なんで。教えてくれてもいいじゃん」

「…願いを誰かに教えたら、叶わねーんだろ?」



火の光に灯されたギルの表情がともて苦しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。
一吹きで消えた蝋燭の火に、確認する間もなく室内は真っ暗になった。


「で、電気点けなきゃね…」


暗闇の中位置を探り電気をつけようと腰を上げると腕を引かれ、力強く引き寄せられた。


「うわっ!?」


もちろんこの暗闇の中に私以外に居る人物はギルしかいない。
まだ暗闇に目が慣れないから分からないけど、恐らくギルは私のすぐ目の前に居るんだろう。


「ちょっと…ギル…?」


場所が分からなくて手探りでペタペタとギルの体を確認する。
首元を触ったところで顔の位置を確認し、ホッと溜め息をついて頬に手を添えた。


「暗いからギルがどんな顔してるか分かんないじゃんか…」

「なら暗くてよかったぜ」

「どうして」

「どうしてもだよ」

「ねぇギル…何かあったの?」


下から覗き込むようにしてギルに迫る。
するとギルの体が離れて行き、数秒後にパッと部屋の電気が灯った。



「ギル…?」

「よし!飯、食うぜ!!」


いったい何だったんだろう…。あんまり気にしない方ががいいのかな…?
ギルのする事はいつも分からない事が多いしね。

気を取り直して机に並んだ料理に舌鼓を打った。
我ながらなかなか美味しいなぁ…。
まぁギルはいつもと同じように美味しいなんて事は…


「美味い」

「え…」

「なんだよその顔は…」

「ちょっ、ギル…熱あるんじゃないの!?」

「ねーよ!!何でだよ!?」

「ギルが美味しって言うなんて珍しい…」

「たまたまだよたまたま!!まぁこんだけ毎日料理してんのに腕上げねー方がおかしいんじゃね?最初の頃よりは美味くなってる、って事だぜ」

「それが毎日食わせてもらってる人への態度ですか…ったくもう」


やっぱりギルはギルだなぁ…。
沢山作った料理も二人で平らげ、一緒に作ったケーキもデザートに食べた。
うん、幸せだなぁ…。
ケーキは残ったし明日も食べよう。早く食べないといけないからアーサーにも分けてあげようかな。
ルート君のくれたビールも飲みやすくってすっごく美味しかった。
ギルの話しによるとなかなか値の張るものらしい。
私が飲むのにはもったいなかったんじゃないのかな…。

それからはいつもどおり後片付けを済ませ、お風呂に入りのんびりとした時間をすごした。


「今日誕生日のギルベルト君へ特別に今日一日ふかふかベッドの所有権を与えましょう」

「マジで!?」

「結局プレゼントも何も用意できなかったしねー。固いソファーじゃなくてこっちで寝てもいいよ」

「お前はどーすんだよ」

「うーん…ソファーで寝るのも良いけど…。ギルが構わないなら一緒に寝てもいい?」

「お前……俺以外のやつに絶対その言葉使うんじゃねーぞ……」

「いや、使わないから。っていうかギル以外にそういう場面に遭遇することこの先もないでしょ」

「わかんねーだろ。もし眉毛とかを好きになって…いや、考えない。そんな事考えないぜ俺様は…!」

「なに一人でわーわー言ってんの。邪魔ならソファーで寝るけど?」

「ま、まぁ俺様の湯たんぽにしてやってもいいぜ!お前暖かいしな!」

「はいはい。それじゃあお邪魔しますよー」


ベッドの淵に腰掛けたギルの横からもぞもぞとベッドの中に入り布団を被る。
今日は張り切ったから疲れちゃったなー…すぐに眠れそう…。

しばらくすると部屋の電気が消え、足元からギルも布団を被ってベッドの中に入ってくる。

あ。暖かい。



「なぁ」

「んー…なに…」

「お前、俺への誕生日プレゼントに何頼んでもいいとか言ったよな」

「うんー…言ったね…」


頭上からかけられるギルの声の心地よさに睡魔の波が押し寄せてきた。
ギルの声…落ち着く。


「だったらさ…俺の願い、一つだけきけるか?」

「いいよー…何?」

「あー、今はまだ…思いつかないからまた決まった時に言う。その時に俺の願いきいてくれよ」

「りょーかい。名前さんが何でもギルの願いをか叶えてあげるよー」


からかうように笑えば、ギルの腕が私の腰に回されギュッと胸板に体を押し付けられた。
うわ、ちょっ、近い…。まぁ慣れてるしギルだからいいんだけど…。

なんとなく眠るタイミングを逃してしまい、そのままの状態で目を閉じていると頭上から規則正しい寝息が聞えてきた。
ギルも寝たのか…。
私も明日仕事だし早く寝ないとね。
今日デンさんの話無視して帰ってきちゃったから怒られそうだなぁ…。
まぁギルのためにやった事だ。怒られても苦じゃない。

ギルが、料理美味しいって言ってくれて…嬉しかったな。
他にも美味しいって言われる色々料理の勉強もしなきゃね。

ギュッとギルの服を掴み、額を胸板にぴったりとくっつけるとゆっくりとした心音が伝わってきた。
あぁ、心地いいなって。幸せだなあ、なんて。
ずとこうしてくっついていられたらなぁ、なんて思う私はすっごくギルに依存してるんだなぁ、なんて思うと自然と頬の筋肉が緩んだ。


重症だなぁ、私…。



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