「んー…ギルー…」 「んー…」 「今、何時…?」 「じゅういちじ…ちょっと」 「寒い…ヒーターつけてきて」 「寒いからい嫌だ…」 布団の隙間から冷たい空気が入ってくる。 寒い。寒い。 ギルの方に多く取られている布団をぐっと引っ張ると、背を向けていたギルまでこっちにごろんとついてきた。 昨日ベッドまで運んでくれたんだなぁギル…。 うーん…お昼前だしそろそろ起きなきゃなんないんだけど…。 「ベッドから出るの面倒だね…」 「だな」 「今日か明日はギルの誕生日プレゼント買いに行かないとねー…。何がいい?」 「スラムダンクの完全版全巻セットとか」 「中学生かお前は。もっと大人らしいものにしなさい」 「いらねーっての。適当にご馳走とビール浴びるほど飲ませてくれりゃあそれでいいぜ」 「えー…なんだかなぁ…」 せっかく色々用意してあげようと思ったのに。 まぁ本人が嫌がるならしょうがないけど…。 トイレに行きたくなってしょうがなく体を起こそうとすると、ギルの腕が私の首元に伸びて無理矢理ベッドに推し戻された。 頭が枕に勢いよく沈む。 「ちょっ、何すんの!?」 「俺様が寒いだろーが」 「トイレ行きたいんだよトイレ!離せ!!」 「いやだ…ねむ…」 「うあああ寝るなアホォオオ!!」 ギルの体を揺さぶり無理矢理目を覚まさせてベッドから降りる。 うわ…やっぱり寒い。 だけどそのおかげでちゃんと目が覚めた。 さーて、朝昼兼用にご飯食べようか。 「フレンチトーストと…今日はアーサーが仕事で居ないからコーヒーにしようか。サラダとインスタントのスープと…」 「ピヨちゃんにも飯頼むぜ!!」 「パン細かくちぎったやつとか食べる?」 「おう!」 パンの柔らかい部分を細かくちぎってピヨちゃんにあげると、お腹が空いていたのか勢いよくパンを突いた。 「私達も食べますか」 「おう!いただきます!」 「いただきまーす」 甘いフレンチトーストにフォークを指して口に入れると、甘さが口の中いっぱいに広がった。 「幸せー…」 「単純すぎだろお前の幸せ」 「だって美味しいもの食べてる時幸せじゃん」 「まぁそれは一理あるぜ。トーストうめぇ…」 頭に寝癖を立たせたまま嬉しそうにトーストを頬張るギルを見て、また幸せな気分になった。 幸せなのはトーストが美味しいから、だけじゃないんだよね。 ご飯を食べてからはいつものようにギルはゲームをしたり、漫画を読んだりとプー太郎生活を満喫していた。 私は少しキッチンの掃除をしたり要らない雑誌を紐で括ったり…。 とにかくなんでもないただの日常だ。 夕方にはギルと一緒にトニーさんのスーパーに行って、嬉しそうに「明日遊びに行ってええ?ええよなぁ?嬉しいわぁー!」と一方通行が絶えないトニーさんにいつものように聞きれてもらえないツッコミを入れた。 特に変ったこともない一日だったけど、なんだかすっごくリラックスできたなぁ…。 頭の中がスッキリしたようにも思えるし。 あの事があってから、まだ少しぎこちなく「た、だいま」と帰ってきたアーサーにいつもと変わりなく「晩ご飯すぐできるから待っててねー。ちなみに今日はカレーです」と告げると、少し驚いたような顔をしてからとても嬉しそうな笑顔をして「楽しみにしてるからな!」と返ってきた。 あらま…昨日までとはまったく違う反応…。 それほど私もここ数日ぎこちなくアーサーに笑顔見せてたのかな…。 自分では気づかなかった。 もしかすると、そんな私が気がかりでアーサーも同じ事になっていたのかもしれない。 今日一日で心を休めることができて本当に良かった。 三人で一緒に晩ご飯を食べて、テレビでやっている料理対決番組を見ながら「あれぐらいなら俺の方が上手い」と画面の中で酷い料理を作っているアイドルに張り合うアーサーをギルと二人で「同じようなものだろうが」と笑った。 . ←|→ |