「あら、そういえばもうすぐギルベルトの誕生日じゃなかったかしら」

「え゛…」


仕事を終えた帰り道。
コーヒーがなくなりかけていたのを思い出し、もう随分と通い慣れたアンダンテへと足を運ぶ。
豆を挽いてくれている間エリザとカウンター席でお喋りしていると、突然エリザから想像もつかない言葉が飛び出た。


「あら、名前知らなかったの?」

「知らなかったよ…。そうか、ギルにも誕生日があるのか」

「あるに決まってるじゃない。あれでも人間よ」

「そうだったね。それで、いつ誕生日なの?」

「確か18日よ。やだ、なんで自分でも覚えてたのか分からない…」

「エリザはなんでそんなにギルを毛嫌いするの…」

「あいつには昔から恨みつらみが溜まってるのよ…」


昔エリザに何をしたんだ、ギル。


―カランカラン



「あら、いらっしゃい。ルートヴィッヒ」

「エリザベータ、少し時間はあるか?話したい事が…」

「やっほールート君」

「名前…」


私の姿を確認したルート君は少し驚いたような表情を見せた。
あら、私お邪魔かな…。


「あ、私邪魔だったら退散するよ」

「…いや、構わない」

「ねえルート。18日ってギルベルトの誕生日だったわよね?」

「あぁ…そうだったな」

「そうなんだー。それじゃあ何かプレゼント買ってあげないとなぁ…。折角だからケーキも焼いてあげよう」

「まったく…名前は甘やかしすぎよ?ちょっとは厳しくしないと。居候なんだから。ルートヴィッヒもそう思うでしょ?」

「まぁな…。兄さんの世話を任せっきりで」

「いいのいいの。色々と役立ってるし」


そうか、ギルの誕生日なのか…。
プレゼント、何にしよう。
ギルが喜ぶもの…うーん…。
まぁまだ少し時間もあるし考えておくか。

エリザから挽きたてのコーヒーをもらい、二人に手を振って店を後にする。
帰りにスーパー寄って行かないとなぁ。
今夜は鍋にしよう。

いつものように駅で私の帰りを待っていたギルに「ただいまー」と言うと「寒い」と呟かれる。
毎日の恒例だなぁ、これ。


「今本田来てるぜ」

「ほんと?じゃあ本田さんの分も晩ご飯用意しないとね」

「だな。腹減った」

「帰りにスーパー寄って鍋に使う食材買って帰るからちょっと我慢ね」


駅の近くにある、いつものスーパーに寄ると目を輝かせたトニーさんに抱擁されてしまった。
いやいや、別にトニーさんに会いに来たんじゃなくてね…相変わらず話を聞かないなこの人は…!!
手っ取り早く買い物を済まし家に帰り、台所の洗い物を片付けてくれていた本田さんに「いつもありがとうございます」と小さく頭を下げる。


「さーて、夕食作りますか!」

「ご馳走になるのは申し訳ないので私にも手伝わせてください」

「いやいや、座ってていいですよ本田さん」

「あまりじっとしているのも体が硬くなってしまうので…。手伝わせてください」

「分かりました。じゃあ出汁とっててもらえますか?」

「分かりました」


ていぱきと土鍋を用意し支度をしていく本田さんは流石だ。
ギルもお腹空かせてるし早く作っちゃわないと。
アーサーも…そろそろ帰ってくるかな…。
朝みたいに私の顔みるなり真っ赤な顔して逃げなきゃいいけど。
まぁ、昨日あんな事があったんだし、しょうがないか。
私もなんだか恥ずかしくて面と向かって喋れなかったし…。


「名前さん」

「なんですかー?」

「何かありましたか」

「………え…って、あああ!!」


本田さんの唐突な言葉に驚き、思わず手元が狂い鍋に入れる豆腐と潰してしまった。


「その様子だと図星のようですね。他の人の目は誤魔化せても私の目は誤魔化せませんよ!!最近の名前さんは妙に艶めかしいと言いますか…。何かあったのだろうと数日前から探っ…ゲフンゲフン。心配していたのですよ」

「本音が垣間見えてますよ本田さん」

「これは失敬」


おやおやと探りを入れる本田さんに「何もありませんよ」と返す。
まだふに落ちないような顔をしていた本田さんをなんとか誤魔化し、鍋を作り上げた。
今日は水炊きだ。
タイミングを見計らったかのように玄関のチャイムが鳴り、いつもより少し早足で向かうと視線を合わせないで頬を染めたアーサーが「ただいま」と小さく呟いた。
う…やっぱりこっちまで照れくさいじゃないか…。
できるだけいつものように振舞うように「もう晩ご飯できてるよ」とアーサーを招き入れる。
平常心平常心。


「はいギル、野菜も食べるんだよ」

「肉よこせよ肉!!」

「お前肉ばっか食べてんじゃねーよ!!」

「ギルベルトさん、野菜も食べないと大きくなれませんよ」

「充分でかいっつーの!俺は子供か!?」

「見た目は大人頭は子供だもんねー」

「んだとこら…」

「ほら、野菜も食べなさい」

「いやだ」


こいつ…。白菜もこんなに美味しいのになぁ…。
仕方がないので適当に冷ました白菜を箸で掴み、ギルの目の前に差し出し「ほら、口開けて」と指示を出す。
こうすればたいていギルは嫌いな物でも食べるんだよね。
案の定口を開いた所で白菜を放り込もうとすると、ぐっと手を掴まれ動きを阻止された。アーサーによって。


「って、何すんのアーサー…」

「え…いや、そのだな…こ、これはそんなんじゃなくて…えっと…」

「焦りすぎだからね…」

「う…」


顔を真っ赤にして手を離し俯く。
ああもう!!こっちまで恥ずかしくなるでしょうが!!
普通に振舞えないのかなー…本当に分かりやすい奴だ。
私とアーサーのやりとりに少し機嫌悪そうに「早くよこせよ」と催促するギル。
隣で本田さんがぽかんと口を開けていたかと思うと「なんとまぁ…怒涛の展開ですか…」と呟いた。
何を察したんだこの人は…


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