「たまには高価なお店よりこういった居酒屋もいいんじゃない?」

「そうだな」


いつもの仕事帰り。
昨日の約束を果たす為、同じく仕事帰りのアーサーと会社の近くで待ち合わせて飲みに行く事になった。
ギルには散々反対されたけど、まぁ私が飲まなかったら大丈夫でしょ。アーサーはベロベロになるだろうからちゃんと連れて帰らないといけないし。


「なんかこうやってお前と二人で飲むの久しぶりな気がするな」

「そう?私はアーサーと二人で飲むこと多い気がするけど。あぁ、アーサーは違う女の人と飲んでるからだ」

「ちがっ、そんな事してるわけな…い…だろ」

「してるくせに。まだお見合いさせられてんの?」

「あぁ…。三人ぐらい、かな…」

「それで、いい感じの人居たの?」


薄暗い個室の向かい側に座っているアーサーの顔をからかうように笑いながら下から覗く。
少しむっとした顔をして眉を寄せるアーサーに更に頬の筋肉が緩んだ。


「居るわけねーだろ、ばぁか」

「理想が高いんだよアーサーは」

「んな事ねーよ」

「でもそんなにお見合い破談にしちゃって大丈夫なの?またお父さんに怒られない?」

「会う度に言われてるよ…。そろそろ本気でどうにかしないと勝手に話し進めてどこかの令嬢無理矢理結婚させられそうだ」

「アルフレッド君のお父さんだもんねー。強引にやられちゃってもおかしくないか」


アーサーも大変だなぁ。
まぁ私もお婆ちゃんやお爺ちゃんに「曾孫の顔が早く見たい」って言われてる立場だけど。
っていうかあの二人は楽しんでるだけだよね…色々と。


「まぁ嫌な事は忘れて飲もうよ!アーサーが酔っ払ってもちゃんと連れて帰ってあげるからさ」

「普通逆だろバカ!それに俺はそう簡単に酔わねーよ!」

「はいはいそーですかー。あ、すみませーん。こっちにビールもう一つお願いします」


アーサーも仕事とか家族の事とかで色々溜まってるだろうし、たまにはこうやってお酒でも沢山飲ませて発散させてあげないとね。
まぁ後処理が大変なんだけど…。
アーサーの為ならそれぐらいは我慢しようじゃないか。


「ひっく…おまえらなー!!いつもおれのこと眉毛眉毛ってばかにしやがらって〜!!」

「だって眉毛じゃん」

「ばーかー!!これはあれだよ、英国しんしゅの…」

「呂律回ってないからねー。ほんと酔うの早いなぁ…。人の事言えないけど」

「名前〜」


テーブルを挟んで向かい合っていたはずが、何時の間にかアーサーが隣に座っていて。
時々肩に顎を乗せたりしてべたべた絡んでくるけど…まぁアーサーだから許す。
私まで酔っ払ってしまわないようジュースやウーロン茶を飲んで凌いでいたけど、流石にお酒の匂いに酔ってしまいそうになった。


「なぁ名前ー…」

「なーにアーサー君」


またべたべたと腕をとられて絡まれる。
お前は合コンで酔っ払った女子か。


「結婚しようぜ」

「……は?」

「だぁーかぁーらぁー。結婚。俺と」


何を言い出すのかと思えば…。
酔っている相手にプロポーズされるなんて思いもしなったよ。


「はいはい。アーサーには私なんかよりもいい相手がすぐに見つかるから安心しなさい。まだ若いから焦らなくてもいいのー」

「そんなの居るわけねーだろ」

「ちょっ、重いから体重かけないでよ…!」

「なぁ」

「…なーにー」

「結婚してくれないか」

「だからー…いい加減にしろよアーサー…」

「冗談じゃなくて、本当に…。俺もお前も会社を辞めて…俺と一緒にイギリスで暮らしてくれないか…?」


圧し掛かるアーサーの体を押し戻そうと体に触れると、手首を掴まれ肩に手を置かれ身動きが取れなくなる。
その真剣な表情に一瞬で心臓が大きく弾み、じっとこちらを見つめるアーサから目が離せなくなった。

ダメだ、これ以上居たら…抜け出せなくなる。



「ぎ、ギブアーーーップゥウウウ!!!」

「ごふっ!!」


力一杯に足を蹴り上げ、アーサーが怯んだうちに体を突き放す。
あ、危なかった…。


「あれ…アーサー?アーサー!?」


ずるりと地面に倒れこむアーサー。
やば…入り所が悪かったのかも…。


「んー…」

「寝てる…。っておいおいおいおい…」


今のも酔った勢いで言ったわけですか…?
あーもう、なんか色々損した気分じゃないか。
ぐーすかと気持ち良さそうに眠っているアーサーの肩に手を回し、なんとかお店の外に連れ出してタクシーを拾う。
なんだかいつもこんなパターンだよね…。

家に帰りアーサーをソファーの上に寝かせると、ギルが水を入れたコップを私に差し出した。


「ん」

「え…何」

「お前あれだけ言ったのに飲んできたんだだろ」

「いや、飲んでないけど…」

「はぁ?だって顔赤いぜ?」

「え…」


指の背で頬を押さえてみると、確かに熱い。かなり。


「あああもう!!」

「なんだよお前?」

「自分でもよく分かんない…」

「はぁ?」

「あー…ギルに癒されるー…」

「ちょっ、マジでお前どうしたんだよ!?とうとうあ頭狂ったか?」

「うっせー黙れ」


誰かこの何とも理解できない感情をどうにかしてください。



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