「今日って成人式なのかよ」

「そうだよー。だから祝日でお休みってわけ」

「ふーん…」


いつものようにギルとアーサーとの三人で、アーサーの淹れた紅茶を飲みながらテレビを見ていると、成人式を迎えた若者達が嬉しそうにはしゃぐ姿が映し出された。


「アルフレッドとマシューも来年は成人式か…早いよな。あんなに小さかったあいつらがもう二十歳なんて…グズッ」

「二人とも袴着てくれるのかなー。あ、でも今の子は皆スーツ?どっちにしても二人とも似合うんだろうなぁ…」

「来年が楽しみだぜ」

「だよねー……って、あれ…?」

「ん?どうかしたか?」

「あれ…た、確かルート君…今二十歳なんじゃ…フェリ君も…」

「……あ」

「あああああ!!!」


ギルと二人同時に立ち上がり時間を確認する。


「えええ、どうしよう!?二人とも成人式参加してるのかな!?」

「ルッツから何も聞いてねーよ!!も、もし参加しているなら弟の晴れ姿がこの目で見れないことに…」

「と、とにかくルート君連絡してみよう!!」

「さっきから呼び出し鳴らしてるけど出ねーんだよ!」

「あわわわ…!!じゃあトニーさん!トニーさんに聞いてみよう!!何か知ってるかもしれないし…」

「なんでそこでトニーなんだよ!?坊ちゃんかフェリちゃんの兄貴に聞けばいいだろ!!」

「あ、そっか」


急いで携帯でロヴィーノ君の番号に電話をかける。
3コール目で「誰だよちくしょー…」と眠そうな彼の声が聞こえた。


「もしもしロヴィーノ君!?」

『あ…?って、名前ーー!?うおわぁあああ!!』


どすん。受話器越しに聞こえた鈍い音とロヴィーノ君の叫び声からして、電話の相手が私だと分かって驚いてベッドから落ちたのだろう。
なにもそこまで驚かなくても…。


『あいてて…いてーぞちくしょー…』

「大丈夫?」

『尻痛い…。で、朝から何の用だよ…。ま、まさかお前の方からデートの誘いに…』

「違う違う。フェリ君居る!?」

『……俺じゃなくてフェリシアーノに何の用なんだよ』

「もしかしてフェリ君成人式に行ってない!?すっかり忘れててさぁ…」

『そういえば朝早くからスーツ着てでかけてたような…』

「うわあああ!!間違いないじゃん!?分かった、ありがとうロヴィーノ君!」

『そんな事より今日俺とデ「また今度ね!!それじゃあまた!」


電話を切ると、会話を聞いていたアーサーが車の鍵を持って「送ってやるから用意しろよ」と微笑んだ。


「ありがとアーサー!お礼に明日の帰り飲みに行くの付き合う!」

「ほ、ほんとか!?あ、別にお前と一緒に行くのが嬉しいとかそんなんじゃないんだからな…!」

「はいはい分かった!」


時刻は10時…。
今から行ったらちょうど式が終わったぐらいに着けるかな…。


「服!!服何着ていこう!?やっぱり着物!?」

「お前は子供の晴れ舞台に自分の方が張り切って気合入れてる母ちゃんか!?」

「じゃあ服!!せめて服着ないと!!」

「今着てんじゃねーかァアア!それ自分では裸のつもりかよ!?」

「裸って…テメェ、変な妄想してんじゃねーよ呪い殺すぞ…」

「こんな時に喧嘩するなアホぉおお!!」


大急ぎで身支度を整えアーサーの車へ乗り込む。
今から行っても式には間に合わないから…。終わって出てきた所を会いに行けば大丈夫だよね。
早くしないと直ぐにどこかへ遊びに行っちゃうかもしれないしなぁ…。


「そうだ!花束!!アーサー、どこか花屋さんに寄って!!」

「そうか…でもこの変に花屋なんてあったかな…」

「そうだ…。アーサー、そこ左に曲がって。多分あの辺りに花屋さんが…」

「あぁ、あそこか。分かった!」


少し飛ばし気味で車を走らせ花屋に到着する。
クリスマスの時にイヴァンからの花束を届けに来てくれたお花屋さん…。
お店の見た目も可愛いなぁ…!って、そんな事考えてる場合じゃなかった…!


「すみませーん!」

「ん…いらっしゃい」

「あ、の…至急に花束お願いしたいんですけど。飛び切り大きいの二つ…」


小走りで店内に入り、カウンターの傍で花の茎を切っていたお兄さんに声をかける。
って…な、なんかこの人見た目がいかついよ…。
どう見てもカタギの人じゃないような…。


「兄ちゃん、お客さん?って、あらー!この間の!」

「こんにちはー。至急に大きい花束二つお願いできますか?」

「了解!綺麗なの作るから期待してて!」


先日家まで花を届けに来てくれた女の人が親指を立てて慣れた手付きで花束を作り始める。
同じように見たい目の怖いお兄さんも作業に取り掛かった。

10分もすれば綺麗にラッピングされた大きな花束が二つ出来上がる。
うわぁ…早い。早いのにすごくバランスも取れてて綺麗…。


「こんな感じでどうですか?」

「すっごく素敵です!ありがとうございます…えーっと…」

「うちの事はベルって呼んで。また何時でも遊びに来てや、名前さん!」

「あれ…なんで名前…」

「お花届けた時にな」


パチンと大きな瞳でウインクされたので、笑顔で「はい!」と答えた。
大きな花束をとても一人じゃ二つを抱えきれないので、車で待っていたアーサーに手伝ってもらった。
アーサーが店内に居るお兄さんを見た瞬間「お前…」とか言っていた気がするけど、今は急いでいるから気にしている場合じゃない。

花束を後部座席に乗せ、狭苦しそうにしているギルを気にする事もなく成人式の会場へと向かう。
車を停めて花束を抱え走っていくと、ちょうど式が終わったところなのか新成人の子達が式場から出てくるところに遭遇した。
良かった、間に合って…。


「つーかこんなに沢山人が居る中でルッツ達探せんのかよ!?」

「大丈夫でしょ。あの二人目立つし」

「あそこに居るのがそうじゃないか?」


アーサーが指差す方向を背伸びをして見てみると、綺麗に振袖を着飾った女の子達に囲まれるフェリ君とルート君の姿があった。


「なんだよルッツ、モテモテじゃねーか!」

「一緒に写真撮ってくださいってやつかな。二人ともかっこいいもんねー」

「ルートは俺に似て超かっこいいしフェリちゃんは超可愛いもんな!」

「それにしても囲まれすぎだろ…。お前の弟困り果ててんぞ」

「バカルッツ、そこで女の一人や二人引っかけて…いやでも大事な弟に悪い虫がつくのも…」

「そんなの私が許さないから。ルート君の相手は私が見定めます!」

「母親かよ…」


うーん、だけど本当に困ってるっぽいなぁルート君。
フェリ君は慣れてるように笑顔で応えてあげてるけど。
しょうがない、助け舟を出してあげようか。


「おーいルートく、ギャッ!!ちょっ、苦しっ!」

「名前…!?」

「ちょっ、押さないでお嬢さん達!!お姉さん若くないから、うわぁ!?」

「名前!!」


人ごみに飲まれたあげく揉みくちゃにされ、危うく転倒しそうになったところを間一髪でルート君に支えられる。
危ない危ない…。


「どうしてお前がここに居るんだ?」

「ルート君たちが今年成人だって事すっかり忘れててさぁ。ロヴィーノ君に聞いて大急ぎで駆けつけにきたんだよ。どうしてもちゃんとルート君とフェリ君の晴れ姿見たくてねー」

「そ、そうか…。だけど後でフェリシアーノと一緒にお前の家を尋ねる予定だったんだがな…」

「え、そうなの?」

「あぁ。アンダンテとお前の家にな」

「そうだったんだ」

「ヴぇ!?名前、どうしてここに居るの!?」


私の姿に気づいたフェリ君が話していた女の子に「ごめんね」と謝って私の元へ駆け寄りその勢いで「名前ーー!」と私の体に飛びついた。


「ちょっ、フェリ君私若くないからいきなり飛びつかれると腰痛めちゃうよ…」

「名前はまだ若いよー。それより会いに来てくれたんだね!俺すっごく嬉しいよ!」

「私もフェリ君とルート君のかっこいい姿が見られてすっごく嬉しい!」

「えっへへ」


嬉しそうに猫のような仕草で頬を合わせてくるフェリ君。
ルート君が痺れを切らしたかのように「いい加減にしろ!」とフェリ君の首根っこを掴んだのでその行為は難なく阻止された。


「おいこら名前!先に行ってんじゃねーぞ!!こんなでかい花束持たせやがって!」

「これぐらいでへこたれるなんて柔だな、お前」

「テメェには言われたくねえ!」

「なんだ…お前らも来てたのか」

「ルート…お前お兄様に対してその態度はねーだろ…」

「そうか?」

「そうだよ!」


頭から湯気を立たせるギルを「どうどう」と落ち着かせると「俺は馬か!?」と言われたので「どちらかと言えば犬」と応えるとその場に膝を抱えて座り込んでいた。
こんなとこに座ったら邪魔じゃないか…。


「ほらよ。花束。別に俺が用意したんじゃないんだからな!名前が全部お前らのために用意したんだからな!」

「ヴぇー!Grazie!」

「大きい花束だな…」

「お前らの為に特別サイズにしたんだぜ!」

「あ、立ち直った」

「兄さんが用意したんじゃないだろう…」

「硬い事言ってんじゃねーよルッツ!それにしてもお前も二十歳なんて歳になったんだよなぁ…。これで一つかっこいいお兄様に近づけたな」

「別に俺は兄さんのようになりたいと思っていないが…」

「お前昔っから俺様に憧れてたもんなぁ!!」

「ダメだよルート君。何言っても無駄だから」


それから何枚か写真を撮り、クリスマスプレゼントにあげたカメラを使う事ができたギルは「これでアルバムに貼る写真が増えるぜ!」と喜んだ。
こうやって少しずつ思い出が増えていくんだね。

その後は皆で昼ご飯を食べ、食後のコーヒーを兼ねてアンダンテへ向かった。
フェリ君とルート君のスーツ姿をニヨニヨと嬉しそうに写真を撮ったエリザにケーキを貰い、ローデさんからはお祝いの曲を演奏してもらった。
二人とも凄く嬉しそうにしていたから本当に良かったなぁ…。

「来年はアル達が…」とブツブツ呟くアーサーの背中をポンポンと叩きながら「でかくなったなルートォオオオ!!」と騒ぎエリザに「煩い」と殴られたギルに憐れみの視線を送った。

学習しようよ、ギル。



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