「本田さーん。ポチくんの散歩終わりましたよ」

「あぁ…ありがとうございます…。ここのところ締め切りに追われていて外に連れ出してあげられなかったもので…」

「お疲れ様です…。ギルはどうしてます?」

「台所の片付けをしてくださってます。いやはや…何から何までお世話になってしまって本当にすみません…」

「いいですよ、近所に住んでんですからもっと頼ってください」

「ありがとうございます」


ギルから「本田と連絡がつかない」と聞いたのは数時間前のこと。
三日前が締め切り日だと聞いていたので、余裕を見て昨日の夜にメールを送ったらしいが全く返事が帰ってこなかったらしい。
少し様子を見に行こうかと本田さんの家を訪ねると、よろよろにやつれた顔をした本田さんが体を引き摺って玄関に出た。
どうやら今回の作品はとんでもなく大掛かりなもので疲れきり、昨日は一日中寝ていたために足腰が立たなくなってしまったらしい。


「家の中の掃除も放っておいたのでいつのかにか埃が…名前さんとギルベルトさんが手伝ってくれて本当に助かりました」

「腰の方どうですか?」

「ずいぶん良くなりました。もう私も歳ですね…。運動不足もあると思うのですが…」

「良かったらちょっとマッサージでもしましょうか?」

「…え…」

「なんすかその顔」

「ま、マッサージ、ですと…!?そ、それってアレですか…手を体に当てて張っている部分を優しく揉み解す…!!!」

「なんか言い方が凄く嫌ですけどソレです」

「あばばばば、名前さんが私に…!!」

「嫌ならギルにやらせましょうか」

「嫌なはずがないでしょうが!?しかも男の手で揉まれるなんて断固拒否ですよ!!どうせならスベスベプニプニの名前さんの手で優しく揉み解されたまま死にたいです私!!」

「ご臨終ダメェエエ!!」


ハァハァと息を荒くして暴れ始める本田さんをなんとか落ち着かせる。
っていうか元気じゃん…マッサージの必要なくないかな。


「まぁそこに横になってくださいよ」

「はい…では失礼して」

「あんまり強く揉むと余計に痛くなると困りますから…ゆるーくマッサージしますね」

「お願いします」


畳の上に横になっている本田さんの脇腹に座り、腰にそっと手の平を宛がう。
親指で背筋を解すように伸ばすと、本田さんの口から小さくうめき声が上がった。


「あ、痛いですか?」

「いえ、大丈夫です。少し痛いぐらいがちょうどいいんですよ」

「了解です」


やっぱりギルやアーサーと比べても本田さんって小柄で細っこいよね。
だけどそんな見た目によらず、結構がっちりしてる。
やっぱり男の人なんだなぁ…。もうちょっと柔らかいのを想像していたけど…。


「どうかされましたか?」

「え…?」

「いえ、手が止まっていたものですから…。あ、疲れたのならもうこの辺で…」

「あぁ、いえ。大丈夫ですよ。こうやって本田さんの体触ってると、本田さんも男の人なんだなぁーって思っただけです」

「名前さん、それは…」


本田さんの言葉が切れて、どうしたものかと体を動かし本田さんの顔を覗くと「困った娘ですねぇ…」と呟かれた。


「あまり男性を意識させるような発言はしてはいけませんよ。美味しいといえば美味しいシチュではありますが」

「なんすかそれ」

「フラグは他所で立たせてください。こんな爺ではなくもっとギルベルトさんとかアーサーさんとか…」

「はぁ?」


本当に本田さんの言ってることは理解不能だよなぁ。
まぁこの人の存在自体が謎に包まれてるから当然なんだろうけど。

台所の掃除を終えたギルが今に戻ってきて、本田さんをマッサージしている姿を見て「俺様にもやれよ」と畳の上に寝転がった。
しょうがないので思いっきり力を込めて揉み解してやると、「いでぇえええええ!!!」と叫び声をあげて腰を抑えながら畳の上をゴロゴロ転がって痛みに耐えていた。
そんなに力入れてないんだけど…。

本田さんを見ると随分顔色が良くなったようで「冥土の土産ができました。ありがとうございます」と頭を下げた。
冥土の土産って…きっと本田さんは私より長生きすると思うんだけど…。


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