昨日男を拾った

怪我を負った偉そうな男、ギルベルトは私の家(というかマンション)に住むことになった


「…」

「なに、その目は」

「なんで俺が床で寝なきゃなんねーんだ」

「当たり前だろーが。君は居候。私は主」

「おまっ!!ちっとは怪我人を労わろうって気はねーのかよ!?」

「こっちは仕事で疲れてんだよ。文句あるなら外で寝させるぞ」


昨晩はベッドの所有権を争ってこんな戦いが繰り広げられた
その結果私がベッドで、ギルベルトはソファで寝ることになった


朝目が覚めて、リビングで寝ているであろうギルベルトの顔を覗いてみた
いかにも寝苦しそうな顔をしている

…ソファーベッドでも買ったほうがいいかな
場所とっちゃうけどあれなら兼用で使えるし

今日休みだしギルベルトに必要なものを買いに行くかな


「よし、まずは朝ごはんだ」


――――


女に拾われた。

まさか人生の中でそんな経験ができるだなんて今までに想像した事も無く、なんとなく「こんな事実際にあるんだな」なんてどこか客観的に考えていた

#name#、という女は日本人。
見た目は若く見えるが働いていると言っていたしそんなに俺と歳は離れていないだろう
日本人は小さいし皆若く見えるしな

見ず知らずの男を部屋にあげ、挙句の果てにはここで暮らせと命令染みた言葉を投げかけた
怪しい。怪しすぎるぜこの女。
見た感じ何処にでもいそうな普通の女だ。

でも知らない男を住まわせるって、普通ならありえないだろ


「ギルベルト君、ギルベルトくん」


重い瞼をゆっくり開くとあの女が俺の顔を覗きこんでいた

やべ、体中痛ぇ…
痛む腕やら頭やらを必死に抑えて体を起こす

って、なんで変な顔してんだよこいつ


「なんだよその顔は…」

「生きてたんだ。反応が無いから死んじゃったのかと思ったよ」

「死ぬか!!」

「朝ごはんできてるよ。食べたら買い物行くけど一緒に行く?君に必要なもの買いに行こうと思うんだけど」


この女はどんだけ人が良い、というかお節介なんだ


「あぁ…行く」

「え、行くんだ。じゃあさっさと朝ごはん食べちゃおうか」


少し驚いたような顔をした
俺のことなんだと思ってんだこの女は…


「和食だけど食べられる?」

「あー…大丈夫だ」


そういえばあんまり和食って食べた事が無い気がする。
スシやサシミなんかは食べた気がするが…


「これぞ日本の朝食!味噌汁とご飯、魚と大根のお浸しだ!」

「…全体的に茶色いな」

「見た目が地味なのが日本料理ってもんだ。さぁ食べましょー。いただきます」

「いただきます…?」


美味そうにパクパクと食べていく女
あれ…そういえば俺、箸使ったこと…


「食べないの?」

「え、いや…」

「あぁ。もしかしてお箸使えない?」

「なっ!!そそ、そんなわけねーだろ!!俺様は器用だからこれぐらい…」


手にとって見よう見真似で持ってみる


「手、震えてるじゃん」


カラン

箸、落下


「…」

「まぁそんなにへこむなって。フォーク使えばいいから」

「…あぁ」

「結構意地っ張りだね君」

「うっせぇ…」


ニヨニヨと笑う女に腹が立ったがここは抑えておこう
仮にもこれから世話になる相手だからな…


「そういえば怪我大丈夫?」

「あぁ」

「結構傷深かったからちょっと心配だったんだけどね。本当なら病院とかで縫ってもらった方がいいと思うけど」

「いい。そのうち治る」


渡されたフォークで魚をつつく
ぐちゃぐちゃになってしまった魚を見た女が「箸の使い方を覚えてもらわなきゃね」と呟いた



―――


「えっと、必要なものは衣類に歯ブラシ、そんなところ?」

「あぁ」

「まぁここならなんでも揃うか。他に欲しいものは?」

「ねーよ」

「エロ本とかAVとか欲しくないのかね君は」

「いらねーよ!!つかそんなもん女が勧めるか普通!?」

「いらないならいいけど?まぁ必要になったらお隣さんに頼めばいいよ。結構色々持ってるから」

「どんなお隣さんだよそいつ」

「まぁそのうち会えるよ。さぁいざ出陣じゃ!!好きなの選んで籠にポイポイ入れてね」

「費用は…」

「ああ気にしなくていいから。そんなの気にしてたら君を拾ってないよ」


こう見えても結構いい仕事してるし貯金も貯めこんでる
気にするな、と言っても流石に抵抗があるのかプライドが許せないのか、ギルベルトは遠慮がちに「悪い…」と言った


「うわー…ちゃんと謝れるんだね、君も」

「どういう意味だコラ…」

「さっさと選んでこないと私が選んじゃうよー。毎日フリフリのスカート着る事になるけど」

「ちょっ…!!今選んでくるからそれだけはやめろ!!」


駆け足で去って行ったギルベルト。
ちょっと奴のスカート姿が見たかった気がするが、まぁこれでちゃんと選んでくるだろう

暫くその辺りをウロウロしていると服を何着か籠に入れたギルベルトが帰ってきた


「それでけでいいの?」

「充分だろ」


ジャケットやパーカーなんかのラフな服ばかり
まぁ充分といえば充分なのだが…


「ついでに食材も買おうか。食べたいものある?」

「ジャガイモ…」


…多分こいつドイツ人だな


「じゃあジャガイモ料理にしようか。欲しいお菓子とかあったら持ってきていいよ。でも300円までね」

「俺は子供じゃねーぞ!!」

「同じようなもんでしょ。要らないならいいけど」

「べ、別にいらねーとか言ってないだろ!!」


まったく素直じゃないなぁ〜
あれか、属に言うツンデレって奴か

ガムとおつまみのようなお菓子を持って来たギルベルトはその後も大人しく私の後について来た

あ、そうだ


「ギルベルトってお酒飲めるの?まさか未成年とか言わないよね…」

「飲めるに決まってんだろ。24だ」

「へー。私と同じ歳じゃん」

「げ…マジかよ。てっきり年下かと…」

「それはどういう意味かねギルベルト君。童顔で悪かったなコラ」

「背も小さいしどうみたってガキじゃねーか」

「こっちじゃ普通だと思いますが。そっちだって、なんか無茶なことやってそうな雰囲気だから年下だと思ってたよ。まぁ24ならお酒は飲めるね」

「あぁ」

「ビールとワインどっちが好き?」

「ビール」

「はいはいビールね」


決定。きっとこいつはドイツ人だ



家に帰るともう夕方で、そういえば昼ご飯も食べてなかったから凄くお腹がすいた。
少し早いけど夕食の準備を始める

ギルベルトは今日買ったゆったりめの服に着替えてテレビを見ている
ずいぶん寛いでいるようだった

ジャガバターや色んな芋料理を机に並べてビールを置くと釣られたようにギルベルトがやって来る

ナイフとフォークで料理を平らげたギルベルトに「おいしかった?」と尋ねると「微妙」と返事が返ってきたのでビールを取り上げてやったら涙目になっていた

案外可愛いとこあるなぁ、こいつ


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