正月も明けていつもの日常が戻ってきた。
とは言っても名前のやつは明日まで正月休みらしい。
「一日出勤したらまた土日で休みなんだよ?どうせならもっと休み長くしてくれればいいのに」とアイスキャンディーを舐める名前に自然と視線が寄っていく。
俺が冷凍庫の奥に隠しておいたものがまんまと名前に見つかって「一人で食べる気だっただね」ととりあげられた挙句、目の前で美味しそうに食べられる羽目になってしまった。
いや、視覚的に美味しい状況だけど。


「アーサーも今日から仕事だって出かけていったし。悩みも無くなったし清々しい気分だよねー」

「はぁ?悩みってなんだよ」

「いやいやいや、なんでもないのだよギルベルト君。ふふふ」


気持ちわりぃ。
気持ち悪いと言えば、昨日名前が一緒に連れて帰ってきたトニーも気持ち悪かったな。
飯食ってる途中であいつに「好きだ」とかなんとか…。
いやいやいや、べつに焦ってねーけど!?
トニーなんかに名前を扱えるわけねーし、どうせあいつもいつものように冗談と思って流してるはずだしな!!
一緒に暮らしてる俺様が一番こいつの事分かってるはずだし、こいつもなんだかんだ言って俺が一番だと思ってるは…ず…

ぶっちゃけそろそろ不安になってきました。
これだけ一緒に暮らしてんのに進展もねーし。
一緒に暮らしてりゃハプニングなイベントっつーの?風呂場で裸のまま遭遇したり転んだ拍子に唇と唇がなんて…
やべ、これかなり本田のやってたゲームに影響されてねえか?
確かにそういうイベントらしきものがなかったと言えば嘘になるけど…一緒に寝たり膝枕とかしたり…。


「ギル」

「あ?なんだよ」

「さっきから見すぎ。なんか用?」

「あ…」


無意識のうちに名前から視線を外すのを忘れていた。
ちくしょう、じれったいぜ…。


「そういえばさ、今頃になってデンさんから年賀状届いたんだよ。見てこのいい加減な年賀状」

「”賀正”ってでっかく書いてるだけじゃねーか!!しかも手書き!!」

「そうなんだよ…。しかもここの隅っこに貼ってるプリクラがなんとも鬱陶しい。めっちゃポーズきめてるし落書き多いしお前は女子高生か!!って思わず郵便受け前でツッコミ入れちゃったよ」


呆れた顔をしながらも上司から届いた年賀状を嬉しそうに眺める名前。
口では文句言ってるけどデンの事は一目置いてるっつーか…兄貴みたいに思ってるとこあるんだよな、こいつ。


「他のやつらからは届いたのか?」

「もちろん。エリザやローデさんやアイス君に…あとロヴィーノ君とフェリ君からはメールが届いたよ。明日帰国するからお土産渡しに来るねって」

「フェリちゃんが!?楽しみだぜ!」

「前みたいに変なお土産じゃなかったらいいんだけどなぁ…」

「前みたいにって……あ」


確かあのギリギリの下着…。
いや、確かにあれはいいセンスしてたよな。
なんていうか、厭らしいくせにどこか純情そうでそそるっつーか…。

そんな事を悶々と考えていると、いつの間にか隣に座っていた名前が「せめてもうちょっとましなやつだったら良いんだけどなぁ」と呟いた。
っておいおい!だったらお前、普通の下着だったら男にもらったものでも着けるって事かよ!?
目を血走らせて詰め寄りたいのをぐっと我慢して「だよなー」と少し上ずった声で答える。
こいつの考えてることがよくわかんねー…。

なんだか辛くなってきて、クッションを抱えて上半身をソファーの上に沈める。
少し不思議そうに「眠いの?」と顔を覗いてくる名前の小さい手が俺の髪を撫でて、その慣れた感触にギスギスとしていた心が治まっていく感覚がした。
いつもこうやって丸めこまれちまうぜ…。


「ねみぃ」

「だったら寝ればいいじゃん」

「お前も寝ろよ」

「やだよ。この本読んじゃいたいし」

「そんなの後でもできんだろ」

「どうしてギルはそんなに私を寝かせたいんですか」


一緒に寝たいからに決まってんだろ、なんて言葉を口にする事はなく名前の腕を掴んで軽く力を入れて引き寄せればすんなりと体は俺の上に倒れてくる。
ここで少しは顔を赤くしたり恥じらいなんてものがあればいいが、こいつにそんなものは欠片もなく「何すんだよプー」とそのままの姿勢で俺の頬を抓るために手を伸ばす。

なんだかんだと言ってもこういうのは他の誰にもできない俺様だけの特権だよな…。
密着する体を意識しながらも足を絡めてニヨニヨと笑うと「調子にのんな」と頭を殴られた。
…ちくしょう。


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