「うっしゃぁああ!!行くぞぉおお!!」

「うわっ!?なんだよ急に叫んで!?」

「ほっとけ。昨日からそいつおかしいんだよ、頭が」

「うるせー黙れ!!それじゃあ私ちょっとでかけてくるね。お昼ご飯は作ってあるから二人で分けて食べてね」

「何で俺がこのプー太郎と二人で食べなきゃなんないんだよ!?」

「文句があるなら食うな。それじゃあ行ってきまーす!」

「な、なんなんだあいつ…」

「さぁ…」


昨日作ったチュロスの入った箱を手に持ち勢いよく玄関を飛び出す。
よし、行くぞ。

頬をパンパンと叩き、少し急ぎ足でトニーさんの家へと向かう。
私のマンションからトニーさんのアパートまでは歩いて20分ちょっと…。
大丈夫…自分の思ってることを素直にトニーさんに伝えるんだ…。
フランシスさんが大丈夫って言ってくれたんだ。彼の言葉を信じよう。


「と、トニーさん!居ますか!?」


玄関の呼び鈴を鳴らしてみるものの、反応はない。
以前のように鍵は開いているのではとドアノブを回してみたがきちんと鍵はかけられていた。


「バイトに行っちゃったのかな…」


どうしよう、いつ帰ってくるかも分からないし…。
スーパーの方覗きに行ってみようかな。

来た道を戻り、トニーさんのバイト先であるいつものスーパーに足を運ぶ。
店内をぐるりと回ってトニーさんを探してみるものの、その姿は見当たらない。
買い物もしないのに店内をウロウロとするのは申し訳ないので外に出ることにした。
他のバイト先なのかなぁ…。


「名前ちゃん…?」


お店の前で途方に暮れている中、少し弱々しくも感じられるトニーさんの声が聞こえた。
驚いて振り向くと、バイト用のエプロンを着て”ブォーノ・トマト”と書かれたトマトの入ったダンボール箱を抱えたトニーさんの姿があった。


「ど、どないしたん?買い物?」

「あ、えっと…その…」


心の準備ができてないよ…!!
落ち着け私、大丈夫。心配しなくても大丈夫…


「あの、トニーさん…」

「あぁ、こないだの事なら気にせんでええよ!!俺もいきなりあんな事言ってもて…名前ちゃん困らせてもたよなぁ。ほんまにごめん」

「あの、ね…トニーさん」


大きく深呼吸をして。



「嬉しかったです。トニーさんが私の事を好きだって言ってくれて、素直に…本当に嬉しかった。心臓がドキドキして…どうしたらいいか分からなくて…。正直今もどうすればいいか分からないんだよ」



大きく目を見開いたトニーさんと視線をしっかり合わせ、チュロスの入った箱を握り締める手をぎゅっと握りなおす。


「でもフランシスさんが…自分の素直な気持ちをそのままトニーさんに伝えなさいって。だからトニーさんに、私の思ってる事を正直に言ったの。トニーさんが好きだって言ってくれて本当に嬉しかったです。だけど今は、この現状が幸せだからどうしたらいいのか分からな、」


ぐしゃりと地面に何かが落ちる音と、きつく押し付けられた厚い胸板に言葉を遮られた。

ふと地面を見れば、先ほどトニーさんの持っていたトマトの箱が地面に落ちて中のトマトが散らばっていて。それを気にする事もせずただ力いっぱいに私を抱きしめているトニーさんの姿があった。



「名前ちゃん…俺が好きやって言って、嬉しいって思ってくれたんやな…。ドキドキして…俺の事こんなにも考えてくれて…」


あの時のようにドクドクと早く脈打つトニーさんの心臓の音を肌で感じて、なんだか泣きそうな顔をしているトニーさんに今まで見せたことのないようなとびきり優しい笑顔を見せて背中をポンポンと撫でた。


「ありがとな、名前ちゃん」

「私も。ありがとう、トニーさん」

「あーもうあかん、我慢できん!!やっぱり好きや!!大好きやー名前ちゃぁあああん!!!」

「ごふっ!!!」


一度体を離されて、また力いっぱい抱きしめられる。
ち、力込めすぎだからトニーさん!!
って、よく考えたらここスーパーの前ぇええええ!!
うわああああ他のお客さん見てる見てる!!
お店の人に迷惑が…って、あそこの物陰でこっち見ながら涙流してるのってここのスーパーの店長じゃなかったっけ…?
え、どうなってんのこの状況…。


「あの、トニーさん!!ちょっと離して!!」

「あかん、もう絶対離さへんで!!ずっと思ってた気持ちがやっと伝わったんや!!もう遠慮はせん。ギルやアーサーなんかにも絶対渡さへん!!今はまだダメでもいつかきっとちゃんと愛し合えるようになれるまで俺絶対諦めへんでぇええええ!!」

「ぎゃぁああああ声でかい!!声でかいからトニーすわぁああああん!!」

「トニーくぅううん!!おめでとう!!やっと恋が実ったんだね!!」

「て、店長ぉおお!!!」

「おめでとうトニーちゃん!!おばちゃんも嬉しいよぉお〜!!」

「レジのおばちゃんたち…。ほんまありがとう皆!!おおきに!!俺これから幸せになるでぇえええ!!」

「「おめでとう!!」」


辺りに居る人たちからの拍手喝采。
え…なんでこんな事に…?


「あの…トニーさん…」

「ん?なにー名前ちゃん」


にへらと幸せそうな顔見たらなにも言えなくなってしまった…。


「そ、そうだった…。これ、昨日フランシスさんと一緒に作ったチュロスだよ」

「おお!!名前ちゃんが!?俺の為に!?」

「フランシスさんが作れって言って作ったんだけど…。これもってトニーさんのとこ行けって。あの人はなんでもお見通しみたいでやっぱり敵わないなぁ…」

「そうか、フランシスかぁ…。フランシスにはずっと相談に乗ってもらってたりしてたからなぁ…。またお礼しとかんとな」

「私も今回お世話になったからなぁ…。美味しいワインでも買ってプレゼントするよ」

「せやね。きっとあいつも喜ぶわ」


あぁ、またこうやってトニーさんと笑い会えるようになって本当に良かった。
やっぱり私はトニーさんの笑顔が好きだ。
だからこの先も、トニーさんにはずっと笑っていてほしいと思うんだよ。


「トニー君!!これお祝いのお酒とお刺身!!残り物だけど持って帰って!!」

「トニーちゃん!!これおばちゃんたちから!!お祝いの黒毛和牛だよっ!!」

「うわぁあ!!こんなにもらってもええん!?」

「あたりまえじゃないかトニー君!!本当に良かったね!!可愛い彼女で!」

「え、ちょっ待ってください彼女じゃ「おおきにぃい!!ほんま皆ありがとぉおお!!」

「アントーニョ君、バンザーイ!!」

「バンザーイ!!」

「皆俺の為にありがとぉおおお!!!」


その後万歳三唱や握手などが行われた後、スーパーに並んでいた高級素材を私の家に持ち帰りすき焼きをする事になった。
とても幸せそうなトニーさんは、時折「ほんま名前ちゃん好きやわー」と呟いてはビールや肉を食べていたギルやアーサーを咳き込ませていた。

でも、本当に良かった。
私もトニーさんも幸せで。
スーパーの人たちにはかなり大きな誤解をされちゃった気がするけど…。
フランシスさんの言うとおり素直な気持ちを伝えて本当に良かったと思う。

ギルとアーサーが怪しい目で私達を見る中気にすることもなく高級和牛を食べていると、ふとトニーさんと視線が重なる。
嬉しそうに笑って「俺幸せ」と言うトニーさんを見て、「私も」なんて呟かずには居られなかった。


.


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -