「もしもしエリザ?ごめん…!!今日の初詣行けなくなっちゃって…。トニーさんが高熱出して…今私の家に居るの。看病しなくちゃいけなくて…」

『そう…残念ね。また今度皆で行きましょう?お参りならいつでも行けるんだし』

「うん、ありがとう。後で私の実家のお土産…と言っても野菜とかお餅なんだけど。ギルにエリザの家まで持っていかせるから」

『本当に?嬉しい!ありがとう名前!ギルベルトにはチャイムは鳴らさなくていいから玄関の前で置いて行きなさいって伝えておいて』

「う、うん…。了解」

『でも名前、一人で看病なんて大丈夫?』

「だ、だ、だ、だ、大丈夫って、なななななにが!?」

『ちょっ、どうしたのよそんなに慌てて』

「なんでもないって!!ははは!!それじゃあねエリザ!!」


勢い良く通話を切り、携帯を机の上に置く。


「おい名前。これ持って行けばいいんだよな?」

「あ、うん…。お願いね。ついでに冷却シートとポカリ買ってきてね」

「おう!」


出かけて行くギルを玄関まで見送り、扉が閉じたのを確認すると共に大きく溜め息をつく。

はぁ…。また心臓の音が煩い…。
昨日のトニーさんの家で起こったアレ…。
た、確かに私はトニーさんにキス、されたわけで…。ついでに好きだとかなんとか…。
高熱でのうわ言のようなものだとは思うけど…。
あぁ、思い出しただけで顔が熱くなる。


「うん、忘れよう。きっとあれは夢かなにかだったんだ…。よし、トニーさんの様子でも見に行くか!」


私のベッドで寝てもらっているトニーさんの様子をみに部屋へ向かう。
昨日はここに運んでからも大変だったなぁ…。
トニーさんもずっと寝てるし、アーサーも帰ってこなかったから頼れる人がギルしか居ないし…。


「トニーさん…」


やっぱりまだ寝てるみたいだね。
熱は随分下がったみたいだけどまだ油断はできない。
きっと働きすぎて疲れが出たんじゃないのかな…。
夜中まで働いてるみたいだし…。少しはバイトを減らして休養をとるようにしないと本当に体壊しちゃうよ、トニーさん。

少し伸びて目にかかりそうになっている前髪を払うと、ぴくりとトニーさんの瞼が動いた。


「ん…」

「わっ…!!ご、ごめん…起こした…?」

「名前ちゃん…あれ…ここ俺の部屋、ちゃうよな…」

「うん。ごめんね、昨日勝手に私の家に連れてきちゃったんだ…。こっちの方が私も看病できるし、ゆっくりしてもらえるんじゃないかと思って…」

「へーそうなん…悪いなぁ………って、ここ名前ちゃんのベッド!?」


目を見開いて上半身を起こすトニーさんに体がビクリと反応する。


「そ、そうですぜ!!」

「名前ちゃんのベッドに…俺が寝てるなんて…。なにこれ、ここ天国なんかなぁ?名前ちゃん天使なんちゃう?」

「いや、普通に私の部屋だからね!!ちゃんと寝てないとまた熱が上がっちゃうよ」


そやなぁと体をベッドに戻すトニーさん。
ダメだ…。昨日の事意識しちゃって自然に振舞えないじゃないか…
トニーさんはすっかりあの事忘れちゃってるみたいだし…。良かった。


「あれ。名前ちゃん、なんか顔赤くないか?」

「え…いや、そんな事、ないですよ…ははは!」

「も、もしかして俺の風邪が移ったんとちゃう!!」

「ち、違うよ!!大丈夫だから!!」

「そう?せやけど風邪なんか初めてひいたわ〜。なんや急に頭痛ぁなってなぁ…。これはヤバイと思ってバイト先に電話して…。そうこうしてたらフラっと倒れてしもてん。そしたら名前ちゃんが来てくれて、それから……あ…」


トニーさんの動きが止まり、二人の間に沈黙が流れる。
ま、まさかあの事……


「えっと…名前ちゃん…?」

「はいいい!?」

「お、俺名前ちゃんになんか変な事した…?」

「いや、えっと…あの…」

「な、なんや俺名前ちゃんの腕引っ張って…き、キスしたような…気がすんねんけど…」


ボン。
一気に顔の熱が上がり、自分でも自分の顔が真っ赤に染まってしまっているのがよく分かった。
いくら鈍感なトニーさんでも私の顔を見れば言わなくても分かるはず。
小さく「え…」と呟くトニーさんを直視する事が出来ずただ俯くことしか出来なかった。


「いや、まぁ、アレだって…熱でうなされてたみたいだし…、うん」

「ごごごごごめんなぁああああああ!!!そんな…俺…嫌がる名前ちゃんに無理矢理…最低や、俺は最低の男やぁあああああ!!!」

「おおお落ち着いてトニーさぁあああん!!!」

「なんでこないな事してもたんや俺は!!好きな子の唇無理矢理奪うような事してからに、最低やぁあああああ!!!うわぁあああん!!!」

「ギャァアアアア!!!トニーさんだめぇええええええ!!!」


ベッドから飛び上がりベランダに出たトニーさんはそのままベランダの柵に足をかけた。


「おおお落ち着いてトニーさん!!ダメ、身投げだけはダメェエエ!!」

「せやかて俺名前ちゃんに無理矢理チューしたんやで!?最低や!!嫌がる名前ちゃんのキッスを無理矢理…!!」

「嫌がってないからぁあああああ!!だから身投げだけはやめてぇええええ!!!」


トニーさんの服を引っ張りながら泣き叫ぶと、再びピタリと動きを止めたトニーさん。
良かった…落ち着いてくれたみた、


「嫌じゃ…なかったん?」


ぽかんと口を開けて私の顔をじっと見つめるトニーさん。
あれ…私なんか余計な事言ったような…。


「い、嫌じゃないって言うかなんと言いますか…いきなりだからビックリしたけどね、うん」


気まずい。実に気まずい雰囲気だ。


「名前ちゃん…」

「いや、だからさ、今回の事はお互い忘れて何も無かった事にすれば…」

「それはできん」

「え…」

「さっきまで忘れてたけど…ちゃんと覚えてんねん、俺。名前ちゃんに好きやっていった事も、キスした事も」


一歩ずつ、トニーさんが私との距離を縮めて行く。
その距離わずか20センチ程度の場所で立ち止まったトニーさんのゴクリと息を飲む音が聞えた。



「好きや」


昨日の掠れた声とは違う、しっかりとした声色で。
その瞳に射抜かれ、目が離せなかった。


「最初に会った時からずっと、ずっと。今まで何度も言おう言おうって思ってたんやけどなかなか言い出せんでな…。でもほんまに、好きやってん。俺みたいなやつに親身になって心配してくれるとことか、時々怖いけどどんなやつにも優しいとことか…。あかんなぁ…好きなとこなんて挙げてたら一日中かかってまうねん。名前ちゃんの全部が、好きで好きでたまらないんや」



そっと肩に手を置かれ、力なく体を抱き寄せられる。

トニーさんが、私の事を好きって…。
やばい、どうしよう…心臓の音が煩い。
トニーさんの事は私だって大好きだ。
だけどそれは恋愛感情なの…?今こうやって胸がドキドキと煩いのもトニーさんに抱きしめられてるから?
どうしよう…分からない。



「トニーさん…私、「今帰ったぜぇー!!外寒すぎんだなぁちくしょう!!って…」

「ギル、お前…」

「え…?」


タイミングを見計らったかのように帰ってきたギルに、咄嗟にお互いの体を引き離した。
見られなくて良かった…。

まだドクドクと脈打つ心臓を抑え、平然を装い笑顔を浮かべる。


「と、トニーさん!!まだ熱もちゃんと下がって無いんだしちゃんと寝てなきゃダメだよ!!」

「そ、そやなぁ…。じゃあちょっとだけ寝かせてもらうわ〜。夕方からバイトあるしそれまで…」

「マジかよ。バイト行って大丈夫なのかお前?」

「あぁ、なんともないで」


苦笑いを浮かべてリビングに戻り、大きく二回深呼吸をする。
まだ心臓の音煩いや…。
まさかこんな事になるなんてなぁ…。

その後、夕方になるまで私の家に居たトニーさんはバイトに行くと言って帰っていった。
玄関まで見送る際に、「別に答えてほしいとかそんなんちゃうねん。伝えたかっただけやから気にせんといて」といつものように優しく笑うトニーさんにまた心臓の音が激しくなった。

どうしたものかなぁ…。


「なぁ」

「んー…?なにギル」

「今日さ、俺が帰ってきたときお前トニーと何してんだんだよ」

「なっ…!?いやいや何もしてないよ。ただアレだよ、背の比べっこしてただけだよ、うん」

「は?意味わかんねー…」


疑うような目で私を見るギルに、誤魔化すように髪をわしゃわしゃと撫でると不機嫌そうな顔をされた。
私だって意味わかんないよ、ちくしょう。



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