「それじゃあね、二人とも。元気なのもいいけどはしゃぎすぎて転んで怪我とかしないようにね」

「わかっとる。お前も甘いものばっか食べないでちゃんと野菜も食べるようにな」

「食べてるよー」

「皆も元気でね」


駅まで向かうタクシーの中。
お爺ちゃんとお婆ちゃんに別れを告げる為車の窓から顔を出した。


「お世話になりっぱなしで本当にすまない」

「なに硬い事言ってるのールート君。またプーちゃんと一緒に帰ってきてね。ここを自分の家だと思って良いんだからね」


手を伸ばしてルート君の頭をポンポンと撫でたお婆ちゃんに、少し驚いたような恥ずかしいような表情をしたルート君。
普段の彼にはあまり見られないような柔らかい笑顔が浮かんでいた。


「それじゃあまたね!」

「ちゃんとお土産トニーちゃんや皆さんに渡すんだよ〜!」

「はーい!」


今度はいつ帰ってこられるかな…。
次の連休はゴールデンウィークになるのか…。
しばらくの間会えなくなるけど元気でね、二人とも。


「それにしても沢山お土産を貰ってしまったな…」

「これでしばらく食べ物には困らないかな。あ、私帰りにトニーさん家寄って行くから先帰ってていいよ」

「俺も一緒に行く!!」

「何行ってんのアーサー…。アルフレッド君連れて帰ったついでにお父さんに挨拶しなきゃいけないんでしょ?」

「う…」

「なら俺が…」

「ルート君は帰り道じゃないでしょうが。ギルと本田さんは荷物持って先帰ってて。私もトニーさんにこれ届けてからすぐ帰るよ」

「おー」


数日前アルフレッド君と抗争していた駅に到着し、解散してそれぞれ違う方向へ向かった。
トニーさん居るかなぁ…。
お正月は忙しいからバイトがぎっしり入ってるって言ってたけど…。
居なくても玄関の前に置いておけばいいか。

久しぶりに来るトニーさんの住んでいるアパート。
きしむ階段を登り、呼び鈴を鳴らすものの誰も出てくる気配はない。
やっぱり留守かなぁ…。


―ガタッ


「あれ…」


なんか今、中から物音が聞えたような…。
誰か居るのかな…。

なんとなく様子が可笑しいと感じ、玄関のドアを開いてみると辺りに散らばったゴミの残骸の中に埋もれるようにして床に横たわるトニーさんの姿があった。


「と、トニーさん!?」

「ん…名前ちゃ…」

「どどど、どうしたのトニーさん!?」

「わからん…なんや急に頭痛くなってきて…。でもバイト頑張らんとと思って飯食おうと思ったら眩暈してきて…」


駆け寄ってトニーさんの表情を伺うと、頬を赤くして目もトロンと落ちている状況だった。
すぐに額に手の平を当てると、尋常ではない熱さに驚きを隠せなかった。
凄い熱…!!


「トニーさん、熱があるよ!!」

「熱…なに、これ病気なん?」

「病気っていうか…風邪だと思うんだけど…。病院に行く?」

「あかん…病院は嫌やねん…」

「だけどこの熱じゃもしかしたらただの風邪じゃないかもしれないし…」

「あかん、病院は、あかんねん…」


力なく私の服の袖を引っ張るトニーさん。
病院はあかんって…何がそんなに嫌なんだろう…。
ともかく今は早く熱を冷ましてあげないと…。


「って、冷蔵庫に氷入ってないし!!」


今から買いに行く?いや、ここからだと遠くなるし…。


「…今ならまだそう遠くまで行ってないか…」


鞄から携帯を取り出し、リダイヤルの上から二番目の番号に電話をかける。


「あ、もしもしギル?すぐにトニーさんの家に来て」

『は?なんでだよ』

「いいから!!トニーさん風邪引いちゃったみたいで…ここだとちゃんと看病してあげられないの。まだ遠くまで行って無いんでしょ?近くに居るならこっちに来て。うちにトニーさん運ぶから」

『お、おぉ…』


戸惑うギルに的確な指示を与えて通話を切り、自分の着ていたコートをトニーさんの体に被せる。
えーっと、それから毛布と…


「名前ちゃん、俺死ぬん…?」

「死なないよ!風邪ぐらいで…」

「これが風邪なんかー…おれ風邪とか引いたことないから分からんかったわ」

「そっか…。バイトは?」

「ぶっ倒れる前に休ませてもらうよう電話しといた…あー…給料減ってまう…生活できんよー…」

「そうなったらまたうちで面倒見てあげるから。すぐにギルが迎えに来てくれるから私のマンションに行こう?ここだと看病できないし…良くなるまでずっと看病してあげるから」

「名前ちゃん…」


毛布でトニーさんの体を包み、近くにあったタオルを水に濡らして硬く絞る。
これを額に乗せてればなんとか…


「名前ちゃん…」

「なに、トニーさん」

「なんやごつう寒いわ…」

「風邪ひいてるからだよすぐあったかくなるからね」

「名前ちゃん」

「なに」

「好きやで」


毛布の隙間から伸びた手に腕を掴まれ、引き寄せられたかと思うと唇に少し硬いような感触と、0センチの距離に見えるトニーさんの顔。

あれ…何が起こって…


「名前、ちゃ…」


ぱたり


離された唇で私の名前を呼ぶと力尽きたかのように横たわるトニーさんの体。



「おい名前!!トニーは!?」

「あ……あの、ここで、」

「うっわ!!マジやべぇだろ、顔色悪いし!!すぐ運ぶからお前ここの鍵閉めろよ!」

「……」

「って、おい…。お前も顔真っ赤じゃねーか…風邪うつされたのか?」


トニーさんの体を背負い、不思議そうに私の顔を下から覗くギル。

えっと、さっきのは、いったい…


「マジで風邪うつされたのかよ!?」

「……うん…そう、かも」



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