「新年明けまして、おめでとうございます」

「「「「おめでとうございます」」」」


1月1日、元旦。

一年の始まりであるこの良き日。
私の実家で皆と新年を迎える事となり、昨夜年明けを祝う為と酒の瓶などが散らかっていた居間も朝にはすっかり片付いていて。
皆でコタツに入って改めて新年の挨拶をすると、ぺこりと頭だけを下げて挨拶を返してきた。


「お正月だねぇ…」

「おいアルフレッド、栗きんとんばっかり食べてんじゃねーよ!」

「ほれ、もっと飲めマッスル」

「いや…もうかなり飲んでるぞ…」

「美味しいお雑煮ですね…。あとで作り方教えていただけますか?」

「いいわよ〜。そうだ名前、明日買える時余ってるお餅持って帰りなさい。トニーちゃんになおすそ分け」

「分かった。お婆ちゃんはトニーさん好きだよねぇ…」

「だって可愛いじゃないトニーちゃん!」

「それは騙されてるぜ婆ちゃん。あいつかなり腹黒いし腹黒いし」

「もちろんプーちゃんも可愛いよー」

「名前、栗きんとんもっとないのかい?全部食べちゃったんだぞ」

「もう無いよおバカ…!」


こんな賑やかなお正月久しぶりだなぁ…。
御節もお雑煮も美味しいし。
やっぱりお正月は家でまったりするのが一番だよねぇ…


「おい名前。初詣ってやつ行かねーのか?」

「初詣かー。元旦って人も多いし疲れるんだよねぇ…」

「去年も散々な目にあったしな」

「そうそう。途中でアーサーとはぐれちゃってさぁ。探すのに大変だったよ」

「私も毎年人ごみが少なくなったお正月明けにお参りしていますね…。昨年はアニメの舞台になっている聖地に行きました」

「なんだいそれ!!俺も行ってみたいんだぞ!!」

「初詣は必ず行かなくてはいけないものなのか?」

「そうでもないよ。だけど皆行くんだよねぇ…不思議なもんだ」

「行くなら着物着付けてあげるよ」

「えー…やだよ。どうせ人ごみにもまれて着崩れるんだし…」

「キモノ…!!見たい!!名前の着物姿見てみたいんだぞ!!」

「しょ、正月だしいいんじゃないか?」


目をキラキラとさせるアルフレッド君となにやらニヨニヨと期待の眼差しをおくってくるアーサー。
しょうがないな…。


「お正月に着物なんて着るの何年ぶりだろ」

「小さい頃はよく着せてあげてたんだけどねぇ。はい、できたよ」

「そうだったね…あぁ堅苦しい…」


コレをきて人ごみの中を歩くのか…。
不安だなぁ…。


「用意できたよー」

「おぉお…!!」

「これは…馬子にも衣装ですね!」

「いや、それ褒めてないから本田さん…」

「着物って寸胴のやつが似合うんだよな」

「あぁん?正月早々殴られたいのか」

「兄さん、余計な事を言うと痛い目にあうぞ」


着物用の羽織を着て外に出ると、やはり寒かった。
あぁ、寒い。家に居たい。


「あらぁ〜名前ちゃん!!」

「あ。あけましておめでとうございあます」

「おめでとうぉー!あらあらかっこいい人たち連れちゃって…どこ人が名前ちゃんの彼氏?」

「これが隣人でこれが半保護者でコレが隣人の弟、こっちがペットでこっちのムキムキがペットの弟君です」

「なんだよその説明の仕方は!!」


近所のおばさんに挨拶を終えて、数十分歩いた場所にある大きな神社まで歩いて行く。


「うわぁ…沢山人が居るなぁ…」

「逸れるなよ」

「ギル、アルフレッド君、逸れちゃダメだよ」

「何で名指しすんだよ」

「お前ら二人が一番危ないんだよバカ」

「あー!!綿菓子売ってるぞ!!」

「言ってるそばから離れるな!!」


先が思いやられる…。
人ごみでごった返している神社までの道のり。
あぁ…神社があんな遠くに見えるよ…。
行く手を阻むように両脇に並んでいる屋台に突進しようとするアルフレッド君とギルを抑えるのも大変だしさぁ…。


「うわっ!!」

「うお…!!大丈夫か?」

「う、ん。ごめんアーサー」


人とぶつかって転びそうになった所をアーサーに支えてもらってなんとか転ばずにすんだ。
やっぱり着物だと自由に動けないからダメだなぁ…。


「その服装じゃ歩きにくいよな…」

「かなりねー。足がこう、開け無いんだよ」

「毎日のように着物を着てる本田は凄いよな」

「着方にコツがあるのですよ」

「へぇ…」

「ま、また転ぶと危ないから俺の腕に捕まっててもいいぞ…。別にお前のためじゃなくて俺の為なんだからな!!」

「うん、言ってることが矛盾してるけど。お言葉に甘えるよ」


アーサーの腕らへんの服をぎゅっと掴めば、斜め後に居た本田さんが「正月フラグですね、分かります」と呟いた。
前に立っているルート君も自分の体で何気なくガードしてくれてるみたいだし…。
なんだか返って悪いなぁ…。
皆は逸れていないかと見回して確認すると、本田さんの隣を歩いていたギルが不機嫌そうな顔をして唇を尖らせていた。


「何不機嫌そうな顔してんの」

「べつに…」

「またそれか…」


まぁあとで何か林檎飴でも買ってあげれば元気になるだろう。

長かった列も最後となり、お賽銭箱に五円玉を入れて鐘を鳴らす。
隣でアーサーがブツブツと怨念のように何かを呟いているのを気にしつつ、「今年も一年幸せでありますように」とだけ願っておいた。


「あ!大吉だ!」

「本当かい!?ワオ!!見てくれよ名前
!俺も大吉だったんだぞ!!」

「本当だー!!めでたいねぇー」


おみくじを引いて中を開くと、大きく書かれた”大吉”の文字に今までの疲れが吹っ飛んだ。
ふふふ、幸先いいなぁ…。


「アーサーはどうだった?」

「なっ…!べ、べつに俺はこんなの気にしないしな!!はは、ははは…」

「……凶…」

「ギルベルトさんはどうでした?」

「…凶」

「お前ら二人は仲がいいな…」

「そういうルッツ君は?」

「あぁ、中吉だ」

「うん、多くも少なくともなくルッツ君らしいよね」


引いたおみくじを結び来た道を折り返して行きながら色んな出店を見てまわることにした。
アルフレッド君がアーサーを連れまわして「これ!次はあっち!」と色んな物を買わせているようだった。
まぁアーサーも幸せそうだしいいんじゃないのかな。


「ギルも何か買ってあげようか?」

「いらねー」

「何怒ってんの」

「怒ってねーし」

「いや、怒ってるし」


眉間に皺が寄ってますよ。
早足に歩くギルに追いつこうと足を勧めると、草履の鼻緒の部分に痛みが走った。
うわぁ…慣れないもの履くから…。
まぁ歩けないわけでも無いしべつにいいか。
少し痛む足を人ごみで踏まれてしまわないように気をつけて歩いていく。


「ふぅ…追いついた」

「ん…おい名前」

「なにルート君」

「足。痛いんじゃないのか?」

「うん、ちょっとねー。よく分かったね」

「まぁな。怪我をしたのか?」

「大丈夫だよ。慣れないからちょっと痛めちゃっただけだし…」


ルート君が心配そうに私の足元を見つめる。
まぁそんなに痛くないし靴擦れみたいなものでしょう。


「った、ったくしょーがねぇなあ!!俺様の腕に捕まっててもいいぜ!!」

「うわ、いきなり元気になった」

「兄さん…」

「俺様いねーとダメだもんな、お前!!ほら、手ぇかせよ」

「私をしょうがないやつみたいに言うのやめてもらえませんか」


いや、まぁ事実なんだけどさ…。
差し出された手を掴を掴むと、ぎゅっと握り返され腕を絡められた。
なんかこれ逆に歩きにくい気がするんだけど…。


「焼きソバ!!焼きソバ食おうぜルッツ!!」

「あぁ」


ま、ギルが嬉しそうだからいいか。


.


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -