「名前!!早く起きなさい!!さっさと朝ご飯食べて餅つくよ!!」

「んー…まだ早いじゃん…。疲れてるからもうちょっと寝かせて」

「まったくもう、しょうがない子だねぇ…本田さんなんてとっくに起きて朝ご飯の準備手伝ってくれてるって言うのに」

「お年より早く目が覚めるものなんでしょ…。私はまだ若いんだい」


布団の中から少し顔を出せば室内の寒さに再び布団に顔を埋める。
やっぱりこっちは一段と寒いなぁ…。

二度寝するつもりで目を閉じたけど、なんとなく寝付けそうになかったので渋々布団から出て早々と着替えをすませる。
皆はまだ寝てるのかな…。


「おーい皆…って、やっぱりまだ寝てるのか…」


襖一枚向こうで所狭しと眠っている皆。
向かい側の部屋も空いてるのに…仲良いなぁこいつら。


「ん…。朝か…」

「あ、ルート君。おはよう〜。よく眠れた?」

「あぁ…少し頭が痛いがな…」

「夕べ結構飲んでたからね、ルート君も。シャワーでも浴びてスッキリしてきちゃいなさい」

「あぁ、悪いな」


自分の使っていた布団の皺を伸ばし、丁寧に折りたたむルート君。
几帳面だなぁ…。




「あ、寝癖たってる」

「ど…どこだ?」

「そこそこ」

「ん…ここか?」

「んー、ちょっとしゃがんで」


ルート君の肩に手を置けば背中を少し折り曲げて前かがみになるルート君。
いつもは後に流された前髪が下ろされていていつもより幼く見えて可愛い。
ぴょこんと立ってしまっている横髪を撫でるようにして抑える。
ふと視線を上げると、すぐ近くにルート君の顔がある事に気付いた。
彼もその事に気付いたのか、ぽかんと口を開けて固まった後にボンと顔を耳まで真っ赤に染めた。


「皆さん、そろそろ朝ごはん…」

「あ、本田さん…」

「あ、ほ、こ…!!」

「名前さん…!!貴方が年下好きだとは知っていましたがまさかこんな…まさかこんな皆さんが寝ておられる場所でルートヴィッヒさんを誘惑しようとは!!私はそんな子に育てた覚えはありませんよ!!!」

「は…?何言ってんですか本田さん…」

「それは冗談として…。ルートヴィッヒさんが真っ赤な顔で固まっておられますよ」


パシャリ。どこからか取り出したカメラで写真を撮って嬉しそうに微笑む本田さん。
楽しそうだなぁこの人は。
ルート君の顔を覗くと真っ赤な顔で固まったままで、ポンと叩いてやるとカチコチになったままよろめいた。
純粋というかなんというか…初心な子だねぇ…。


「さぁ、今年最後の一日ですよ」





朝食を食べ終えると、御節の準備を手伝えと台所に立たされた。
本田さんも手伝ってくれるなら私なんていらないと思うんだけどなぁ…。


「前に帰ってきた時はトニーちゃんが料理手伝ってくれてほんとにた助かったよねぇ。トニーちゃんは一緒に帰ってこられなかったの?」

「うん。バイトが忙しいんだってさ」

「残念だねぇ…。でもまぁプーちゃんの弟にも会えたしお婆ちゃん満足だわ。これであとはひ孫の顔を見るだけだねぇ」

「何言ってんの…」

「名前さん、私も早く孫の顔が見たいので頑張ってくださいね」

「いつの間に私の親になったんですか本田さんは」

「親のようであり兄のようだと自分で思っておりますよ。さぁ、私の事をお兄ちゃんと呼んでください名前さん!!」

「お婆ちゃん、このだしってカツオでいいの〜?」


台所で料理をしている間、ちょこちょこと様子を見に来たアーサーやルート君が「手伝おうか」と顔を出したけど丁重にお断わりした。
特にアーサーなんかに手伝わせたら悲惨な事になる…!


「よーし、餅つきするぞガキ共ぉおお!!」

「イエェエエエイ!!俺!!俺がつくんだぞ!!」

「何言ってんだよ、俺様がつくに決まってんだろ!!」

「でしゃばるなよバカ」

「名前。餅米持ってきなさい」

「はいはーい」


昨晩出しておいた臼に炊き立ての餅米を入れる。


「ほぉ…これでつくのか…」

「皆餅つきは初めで?」

「テレビで見たことはあるけどやった事がないんだぞ」

「俺もだな…」

「それじゃあワシと名前でやって見せるからよく見ておきなさい。ほれ名前、お前は水をつける方じゃ」

「やだよ怖い!」

「ワシだって水つけるほう怖いんじゃ!!お前に何回手をつかれた事か!」

「ほんの数回じゃんか!!」

「喧嘩してねーで早く見せろよ」


ったくしょうがないなぁ…。
米粒がなくなる程度にまで餅米を練ったお爺ちゃん。
そろそろかなぁ…。桶に張ってある水に手をつけて、お爺ちゃんの顔を見ればやる気満々な顔をしていた。
よし、やるか。


「ほいしょ!!」

「ほい!」

「ほぁいしょ!!」

「どっこいしょ!!」

「WOW!!これがジャパニーズ餅つき!!」

「その掛け声は何なんだ?」

「なんとなくだよなんとなく。こうやって二人の意気が合わないと怪我したりするんだよねー」

「俺俺!!次俺様がつくぜ!!」

「じゃあアーサー、私がやってたみたいに横から水つけてあげて」

「は!?俺の手怪我させる気かよ!!絶対わざとついてくるぜこいつ」

「んなことしねーっての」

「ほら早く」

「う…」


渋々臼の横にしゃがみ込むアーサー。
ぺったんぺったんと気持ちのいい音をたててギルが餅をつきはじめ、その合間をみてアーサーが持ちに水をつけはじめる。
なんだ、なかなか意気のあういいコンビじゃん。

二階に分けて行った餅つき。
アルフレッド君とルート君の力の強さに餅に水をつけていた兄達が少々怯えたり、あまりのパワーに木臼が壊れてしまわないだろうかと心配した。
男のはやっぱり違うなぁ…。

出来上がったばかりのお持ちをきなこと餡子につけてお昼ご飯代わりに食べる事になった。
なんだか大晦日って感じがしてきたなぁ…。


「名前…」

「なにアーサー。晩ご飯なら今お婆ちゃんが年越しソバとか色々作ってくれてるよ」

「いや、そんなんじゃなくてだな…」


もじもじと体を揺らすアーサー。


「大したことじゃないんだけどな、今年ももう終わりだし…。今年も一年世話になったなって伝えたかっただけだよバカ!!」

「逆ギレ!?うん、でもまぁ私こそお世話になりっぱなしだったよね。今年は去年に比べて本当に色々あった一年で…。不安な時とかはアーサーによく助けてもらったね」


本当にずっとアーサーに頼りっぱなしだった気がする。
ギルを拾って、もの凄く心配してもらったり…。夜道で襲われた時なんかも真っ先に助けに来てくれたのはアーサーだったし。
初めて泣いてるとこ見られた相手もまたアーサーなわけであって、去年とは違ってまた新しいアーサーを知ることができた一年でもあった。
そう、前の年では感じなかったもやもやした気持ちなんかも。


「年越しソバができたよ〜!」

「あ、できたって。皆で一緒にたべようか」

「あぁ」


コタツに入って皆でソバを食べながら毎年恒例の歌合戦やお笑い番組をみて深夜が来るのを待った。
こうやって大勢で新年を迎えることになるなんて思いもしなかったよね…。
それもギルを拾ってから色んな人に出会っからの事。
こんな幸せ、ギルが居なかったら知らないままだったのか。
なんて思うとギルにすっごく感謝しないといけなくなるんだけどね。


「ねーギル」

「あー?」

「今年一年、どうだった?」

「どうだったって……。まぁ色々あったよな。まさか俺だって拾われるなんて思いもしなかったし」

「本当に色々な事があったよねー。海行ったりパーティーしたり」

「運動会なんてのも楽しかったぜ」


こうやって思い返してみれば、今年一年の思い出には欠かさずギルのがあって。
今ではギルが居ない生活なんて考えられないもんね。
今年一年、そして来年もギルのおかげでとっても良い一年になれそうな気がするんだ。



「カウントダウンが始まりますよ!10!」

「9!!8!!」


今年も一年ありがとう。


「ねぇギル」

「あ?」

「7!6!」

「来年も宜しく」

「5!4!3」


テレビから視線だけをギルに送り、にまりと笑って見せると「言われるまでもねーっての!!」と笑顔を向けられた。

そう、願わくば来年も、その先も。


「2!1…!!」


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