「これでいいんじゃない?」

「んじゃそれで」

「…あのさーギル。もうちょっと真剣に選びましょうよ。自分の携帯なんだし」

「だからそんなの必要ねーって言ってんだろ。ゲームでも買ってくれたほうが嬉しいぜ」

「文句言うな。私も同じやつにしよっかなー。色違いってどーよ?」


ピンクと黒の携帯を交互に見せる。
不満なのか、ぷいっとそっぽを向かれた。


「べべべ、別にいちいち同じのにしなくてもいいだろ!」

「えー家族っぽくていいじゃん」


あ。そういえば前にアーサーは「男はお揃いなんて嫌い」みたいな事言ってたような…。
うーん。やっぱりギルも嫌なのか…。
平気なんだったら他にもマグカップとか食器とか。あとパジャマとかお揃いにしなかったんだけどなー


「ギルもお揃い嫌いなのかー…。前にもアーサーと一緒に食器買おうと思ってたんだけど拒否られちゃってさぁ」

「なっ…!?べ、別に嫌いとか言ってねーだろ!」

「え、じゃあいいの!?」

「目が輝いた…!!」

「じゃあこれ一緒にしよう!!あ、ギルはピンクでいいよね!?」

「俺がピンクかよ!普通お前がピンクだろ!?」

「えー可愛いと思うんだけど。まぁいいや。じゃこれにしよーう!」


わーい嬉しいなぁ〜!!誰かに自慢したい気分!!エリザのとこに行って自慢しちゃおっかな!!


―――



「エリザー!」

「あら名前!いらっしゃい」

「今日はギルも一緒だよ」

「あら。まだ生きてたのあんた」

「生きてたってテメー…!!」

「まぁまぁ。コーヒー二つお願いねー」

「えぇ」


相変わらずエリザはギルに手厳しい…
そういえば今日ローデリヒさんの姿が見当たらないなぁ…。お休みなんだろうか


「はいどうぞ」

「ありがとう。今日ローデリヒさんはお休み?」

「ええ。知り合いの演奏会か何かだとかで…」

「へぇ。一応音楽家だもんねーあの貴族様も」

「あの坊ちゃんなんか気にくわねーんだよな」

「あらギルベルト。貴方なんかよりよっぽど素敵な人だと思うわよ?むしろローデリヒさんとあんたを比べたらローデリヒさんに失礼よね。ごめんなさいローデリヒさん」

「エリザ…テメェいつもいつも人の事馬鹿にしやがって!!」

「なに。女に手をあげるおつもり?最低ねー」

「何が女だ昔は男みてーな喋り方してたくせに!」

「うっ、うるさいわね仕方ないでしょ!!そういう家庭で育ったんだから!!」


昔は男みたいな喋り方してたって…。なんだか想像つかないなぁ。


「誤解しないでね、名前。私の家古くからある名家で、ちょっと考え方が古い人ばかりだったの。跡継ぎが女の私しか居なくて、小さい頃は男のように育てられてたのよ」

「へー。名家って事はエリザってお嬢様!?」

「親の反対を押し切って日本に来ちゃったから今は関係ないけどね」

「かっこいいなぁ〜。ドラマか映画みたい」

「そういう名前はどうなの?親とか家族とか」

「今の家族はギル。今日お揃いの携帯買いに行ったんだよ!見てこれ!」

「お揃いの…?」


穏やかに笑っていたエリザの表情が曇りがかった。
え…ちょっ、怖いです姐さん…


「ギルベルト…」

「え…?」

「あんたあんまり調子に乗るんじゃないわよ。名前と一緒に暮らせるだけでありがたいと思いなさい…!!私だってできる事なら名前と一緒に暮らしてお揃いの物買って一緒にご飯食べて一緒にお風呂に入ってあーんな事やこーんな素敵な事したいんだからぁああああ!!!!」

「がほっ…!!やめっ…エリー…!!」

「ちょぉおお!!落ち着いてエリザァアア!!首!!首絞めはやめてあげてぇえええ!!!」

「ぐふっ…くるじっ…」


がくっ


「あら。逝っちゃったわ」

「ギルゥウウウ!!!!」



―――


「ったくあの怪力女…!!危うく川の向こうに渡っちまうところだったぜ!!」

「お花畑でも見えたのかギルベルトよ」

「向こうで死んだ犬が手振ってやがった」

「犬が手振るの!?怖っ!!そりゃ逆戻りしたくなるわなー…」

「ちくしょー…あの女絶対いつか泣かす…!!」


なんか今日のギル見てるとエリザの事好きってあんまり感じなかったような…。
やっぱり私の思い過ごしだったんだろうか。
それにしてもエリザの家の家庭も色々大変なんだなぁ
人の事いえたもんじゃないけどね


「ギルはさ、家族なんて居ないとか言ってたけど本当はいるんだよね?」

「はぁ?」

「兄弟とか居ないの?」

「…なんで今更そんなこと聞くんだよ」

「べっつにー。言いたくなかったら言わなくていいよ」


沈黙が流れた。ギルは本田さんにもらった缶ビールを口元に当てているが、さっきから中は空だ。


「弟…」

「え?」

「弟が一人、居る」


弟…。ギルの家族の話を聞いたのはこれが始めてのことだった。
なんだ、居るんじゃん。ちゃんとした家族。


「俺に似てない真面目な奴で…。頭のお堅い奴だけど人一倍責任感があって成績優秀で。いつも比べられてたな」

「ぶふっ。ギルとは正反対だもんねー」

「うるせっ!」

「会いたくないの?その弟君に」

「べっつに。俺の弟だからな。俺が居なくても上手くやってるだろーし」

「正反対だしねー」

「てめぇ…」


そうかー弟か。なんだかギルの事をまた一つ知れてよかったなぁ
ちょっとずつ。ちょっとずづだけどまた距離が縮まった。
いつかギルの方から自分の事をさらけ出してくれる日がくるといいな


「そういうお前はどうなんだよ。親とか」

「あぁー」

「エリザには誤魔化してたみたいだけど俺はそうはいかねーぜ?洗いざらい教えろ」

「うーん…今の私の家族はギルだけだよ」

「ったくお前はまたそんな事言って…」

「いや、本当だし。私両親が居ないんだよね。お父さんは私が赤ちゃんのときに死んだらしくてさ。お母さんはなかなか遊びの激しい人でねー。小さい頃から父方の祖父母に育てられたんだよ。それからは三人で…」


続きを言いかけたけど、言葉が出てこなかった。
ギルベルトが手に持っていた空き缶を床に落として、真っ赤な瞳を大きく見開いていたからだ。

なんだよ、そんな顔しなくてもいいのに


「なんて顔してんの…馬鹿」

「だってお前…」

「よくある話じゃん。思春期の頃は結構悩んだりしてたけど。お爺ちゃんもお婆ちゃんもいい人だったしねー。それに今はギルも居るし」

「…」

「そんな顔すんなって。だからあんまり話したくなたったんだよなぁー」


だけどギルが家族の事話してくれたから。
だったら私も話さずにはいられないっしょ


「この事は会社の友達二人と、アーサーと本田さんは知ってるよ。だからそんなに重い話じゃないんだって。どこにでも複雑な家庭ってのはあるもんだよ。エリザだってそうだしギルだってそうでしょ?アーサーん家もそうだし皆色々あるって!」

「だって…」

「いいから。いたたまれない気持ちは分かるけどさぁ。そう思うならその分ギルが一緒に居て家族になってくれればいいの!ヒモだろうがプー太郎だろうが、居てくれるだけで私は嬉しいんだからさ」

「えっと…」

「つかギルがセンチになってたら気持ち悪いんだよ。なんか鳥肌立つ…」

「おまっ気持ち悪いはないだろ!?せっかく人が気使ってやってんのに!!」

「人の家庭気にする前に自分の事気にしろよ」

「う、うるせーな!!」


新しいビールの缶を開けて、一気に飲み干したギルはもう一本飲もうと缶に手をかけた。
いくらなんでも飲みすぎはいけないと思ってビールを取り上げた。
届かないようにひょいっと持ち上げたが、頭一つ分私より身長の高いギルに敵うはずもなくあっさりと奪い返されてしまった。


「いいだろ別に。ってゆーかお前もたまには飲めよ。明日も休みだろ?」

「えーやだよ。飲んだらまた眠くなるじゃん。今からDVD見るんだから」

「いいから飲めよ。付き合い悪いぞお前」

「チッ…そこまで言われて飲まなかったら私の負けみたいじゃん。ちくしょーとっととビールよこせ」

「ほらよ」


こうなったら今日は朝までギルと二人で飲むかー。
明日は二日酔い決定だろうな
でもたまにはこんなのも悪くないよね


「ビール美味いぜー!」

「私ほんとはワインとかチューハイの方が好きなんですけどー!ったくギルが来てから冷蔵庫の中がビールでいっぱいじゃないか」

「いいだろ好きなんだから!」

「ほんと、食わせてもらってる上に酒まで飲ませてもらっていい人に拾ってもらったねぇプーちゃーん」

「プーちゃんって呼ぶんじゃねぇ!自我自賛かお前」

「いいだろ別にー。生意気言ってるとまたベランダから吊るすぞ」

「うわっ!あれマジでやめろ!」

「新しいお仕置き方法も考えなきゃなぁ〜ふふふ」

「お前楽しんでるだろ!?」

「よーし新しいの決めた。アーサーの飯地獄だ!」

「洒落になんねーから!!それだけはやめてくれ!!」

「何涙目になってんの。かーわーいーいー」

「ちょばっ、かわいいとか男に言うな!!バーカバーカペチャパイ!!」

「アハハハハハハ。アーサーんとこ行ってスコーンもらってくるね」

「ちょっさっきの嘘!!!うわー名前さん素敵ーナイスバディーすぎるぜー!」

「うわ…なんかそれ逆に腹立つ」

「褒めてやってんだからありがたく思えよ」

「心にも無い事言ったって嬉しくないよーだ。どうせなら”いつもおいしいご飯をありがとう”とか気の利いたこと言えないのー?」

「いつも美味しいご飯をアリガトウゴザイマース」

「…アーサー!!スコーンちょうだぁああい!!」

「バカっ!!壁叩くな!!ちょっ…あの料理だけはやめてぇえええ!!!」








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