本当に昨日は散々な目にあってしまった。
若干寝不足気味でふらふらとした足取りで歩いていると、「お前大丈夫か?」とアーサーに腕を掴まれてしまった。

いつもの帰り道である道路沿いはすっかりクリスマスカラーに染まっていて、街を歩いている人たちの表情も心なしか楽しそうに見えた。


「クリスマスなんだねー」

「だな」

「アーサーの国ではどんなクリスマスをやるの?」

「俺の国ではクリスマスは家族で過ごすもので…。向こうで過ごしたクリスマスの思い出は今でもよく覚えてるよ。まだ小さかったけどプレゼントももらってさ。こっちに来てからはアルフレッド達と一緒にケーキ食べたり」

「へぇ…。いいね、そういう思い出」

「お前はどうなんだ?」

「私?私もお婆ちゃん達からプレゼント貰って…。中学や高校なんかになると周りの子達が彼氏や彼女と二人で過ごすってのが多くなってきたりしてね。懐かしいなぁ」

「お前はどうだったんだよ…」

「私?私は…うん。まぁ楽しく過ごしましたよ。ケーキ食べたりプレゼント交換したり」

「誰とだよ!?」

「寒いねー。早く帰ろうか」

「おいコラ!!無視すんな!!」


ほんと、雪が降ってきそうな寒さだ。
いつもの駅で電車から降れば、真っ暗な空はどんよりと曇っていて星が一つも見えなかった。
明日は降るかなぁ…。


「あ、トニーさん!」

「名前ちゃんやん!!今帰り〜?お疲れ様」

「トニーさんはピザ屋の配達中だよね。寒いのにバイクで大丈夫?」

「平気平気。名前ちゃんにもらったマフラーめっちゃ暖かいしなぁ」

「おいテメェ…。俺に対する嫌味かそれ…」

「あら、おったんかいなカークランド。全然見えてなかったわ〜。できるなら一生俺の視界に入らん場所に居ってくれるか?」

「お前がこいつを見てる間は無理だろうな」

「ははは。どつきまわすぞお前」


ったく、また始まったよ…。
笑顔で空笑いを続けるトニーさんに「配達の時間は大丈夫?」と聞くと「忘れとった!ほなまたイブにな〜!」とピザ屋のバイクを走らせた。


「ったくあのトマト野郎…」

「いつも元気だなぁトニーさんは…」

「体力有り余ってるバカなんだよ」

「人の事言えないんじゃないのーこの元ヤンが」

「う…。べ、べつに俺今は紳士だし…」

「頭にエロの付く、ね」

「うるせーよバカ!!」


そうやってすぐにムキになって声を荒げるのは紳士とは言えないよ、と言ってやりたかったがアーサーは出るところに出れば文句のつけ様のないぐらい紳士っぷりを発揮させる人だから何も言えない。
それで酔っ払う事さえしなかったら完璧なんだろうけどなぁ…。


「おや、名前さんにアーサーさん」

「本田さん!」

「昨日はどうもご迷惑をおかけしまして…」

「あの後どうなりました?」

「何故か私の携帯に耀さんから電話がありましたよ。どこで情報を得たんだか…。着信拒否にしました」

「どんだけ嫌がってんだよお前…。なんか俺まで心苦しいぞ…」

「人事とは思えないよね、アーサーは」

「あ。すみません私すぐに帰って原稿を仕上げないと…。早くしないとまた担当に家中に隠してあるお菓子を食べられた挙句何故かダンボールに入っている大量のみかんの中から甘いやつだけを探知して食べられてしまいます!!」

「あの人そんな力があるんですか!?」

「それでは失礼します」


昨日と言い今日と言い…忙しい人だなぁ、本田さんは…。


「慌ただしいな…」

「師走ねぇ…」

「師走だな」

「さぁ、帰って暖かいご飯でも食べようか。今晩はギルのリクエストでポテトグラタンなんだ〜」

「お、俺も何か手伝う事があればなんでもするからな」

「うん、じゃあテレビの前でじっとしてて」

「なっ…!!せ、折角人が手伝うって言ってんのに!!」


ぎゃーぎゃーと文句を言いなあら暴れるアーサー。
寒いのに元気だなぁ…。


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