「スーさんスーさん。ちょっと相談したい事があるんだ〜」

「なじょした」

「実は…その、できちゃったの…」

「?」

「あ、赤ちゃんが」


ガッシャーン

スーさんが手に持っていたマグカップが落下し、音を立てて砕け散った。


「え…あの、すーさ「どこんどいつだ」え…?」

「名前、教えろ。ぢょごっと行って殺ってぐっから」

「ストーップゥウウウ!!!嘘嘘!!ごめん嘘だからぁぁぁあ!!ほら今日エイプリルフールでしょ!?ちょっとしたジョークだよアハハハハ…」

「ジョーグ…?」

「調子に乗ってすみません…。あとマグカップ弁償します」

「しっちゃもんだ。気にすんない」


本日はエイプリルフール!という事でさっそくスーさんに嘘をついてたんだけど…。
やるんじゃなかった、無言で割れた破片を拾っていくスーさんを見てそう思った。


「あ、私やるから!!」

「怪我すっといけね。おめぇは雑巾持ってこ」

「あ、はーい!」


良かった怒ってないみたい!
見分けがつきにくいが、スーさんの表情はいつも通りだ。怒ってる時の顔はもっとこう、冷たくて凍りそうなぐらいのものだから。いや、マジで。


「はい、雑巾」

「ん」

「ゴメンね。…それにしても、スーさんってあんまり怒らないよね。たまには怒ってくれたっていいのに」

「おめぇは叱る事もしてね」

「そうかなぁ…」

「それに、おめぇとフィンは…」


そこまで言いかけたスーさんは雑巾で床を拭く手を止めた。


「なに?」

「………なんでもね」


手際よく床の汚れをふき取ったスーさんは雑巾を持ってどこかに行ってしまった。
いったい何を言いかけたんだろう…


「(大事な友達だからとか、色々気の利いたこと言いっちゃいけど)…みっだぐねぇ…」

「すっスーさんどうしたんですか!?って怖っ!!こわぁあああ!!あぁ言っちゃったぁああ!!ごめんなさいスーさぁああん!!」




―――



「聞いてぇな名前ちゃん、俺宝くじで一億円あたってん!!」

「ちょっ、トニーさん。嘘つくならもう少し現実味のある嘘にしようよ!?」

「あれ?やっぱバレてもたかー。ローデリヒもひっかかてくれんかってん。やっぱ”巨大トマトに襲われた”にすればよかったわー」

「どっちもどっちだと思うけど…」


仕事帰りにエリザさんのお店に行ってみると、トニーさんとバッタリ出会ってしまった。
コーヒーを飲みながら求人広告を読んでいるトニーさんと相席をすると、さっそく嘘をつかれてしまった。
宝くじで一億円って。可愛い嘘つくなぁトニーさん…!


「名前ちゃんは今日何か嘘ついたん?」

「会社の友達に”子供ができちゃった”って言ったら手に持ってたマグカップが見るも無残に砕け散ったよ」

「ちょっ!!そんなん冗談でも言ったらあかん!!相手が俺ならまだしも!!」

「いや、訳わかんないですトニーさん」

「ったく…何子供染みたことをやっているんですかお馬鹿さん達が」

「ローデさんは嘘つかないんすか?」

「そんな事しませんよ。私はそういったものは嫌いです」

「えぇえ!?さっき、頭の上に乗ってるのに”私の眼鏡を知りませんか”って探していたのジョークじゃなかったんですか!?」


タイミングよくコーヒーを運んできたエリザが驚いた顔をして言い放った。
ってかローデさん、今時そんなのできるの磯野さん家の波平さんぐらいですよ…!


「おっお馬鹿!!余計なことをいうんじゃありません!」

「すみません、私てっきりオーストリアンジョークかと…」

「なんや、お爺ちゃんみたいな事すんなぁローデリヒ」

「煩いですよアントーニョ!」


「眼鏡眼鏡」とそこら中を探し回っているローデリヒさんを想像したらあまりのおもしろさにブフッと吹いてしてしまった。
すると、丸められた分厚い楽譜で頭を叩かれた。
音楽家が楽譜をそんな扱いしてもいいんですか!?と涙目になって言うと「お馬鹿な方をおしおきする場合は良いのです」とさげすむような目で見られた。
ちくしょう…



―――



「ただいまー」

「おぉ。今日はうどん作っといたぜ!」

「うそー!!すごいじゃんギル!!大進歩!!」

「まーな!!早く着替えてこいよ、伸びるぜ!」

「はーい!」


少しずつ料理を覚えているギルは、最初は卵焼き、その次は味噌汁と進歩を遂げていった。気まぐれに料理を作っては色んな調理方法を学んでいる。
けど、本当に飲み込みが早いよなぁ〜
上手くいけばいい主夫になってくれるんじゃないだろうか。


「いっただきまーす!」

「…う、美味いか?」

「ん…、おいしいー!!ちゃんと味出てるじゃん!!ギルすごーい!!」

「スープ作ってうどんぶち込んだだけだけどな」

「でも美味しいよー!!でも気が向いた時じゃなくて毎日作ってくれればいいのになー」

「それは嫌だ」

「ちくしょー腹立つなぁ…」


でもたまにやってくれるだけでも嬉しいよ、私は。
全然自分から動こうとしなかったギルが、今では簡単な掃除や洗濯や、買い物まで手伝ってくれている。
最初は失敗続きだったけど今はけっこう慣れてきてるもんなぁ…。
日ごろ頑張ってくれてるし何かご褒美でもあげようかな


「ギル、何か欲しいものとかないの?」

「はぁ?なんだよいきなり」

「ギルの欲しいもの何でも買ってあげる!何がいい?」

「どういう風の吹き回しだよ!?」

「いいじゃん別に」

「あ!!お前あれだろ、今日エイプリルフールだからって俺を騙して嘘つこうってんじゃ…!!」

「そんなんじゃありませんよー。純粋に日頃頑張っているプーちゃんにご褒美をあげようと思ってるだけじゃないか」

「へぇ〜」


まだ疑っているらしく、信じられないといった目で私を見ている。


「そうだ、携帯買ってあげよっか?」

「携帯?」

「ギル持ってないよね?携帯があればトニーさんやフランシスさんとも連絡とれるじゃん。それにギルもたまには遊びに行った方がいいと思うよ?そしたら携帯あれば便利っしょ?」

「そりゃぁそうだけど…」

「今度の休みに買いに行こうよ。私のも古くなってたからついでに換えようかなー」

「携帯ねぇ…。あんまり使わねーと思うけど」

「いいからいいから。なんならエリザの電話番号教えてあげようか?」

「おまっ…!!まだ俺があいつの事好き、とか思ってんのかよ…」

「好きじゃなくてもタイプなんでしょ?ボインでセクシーでしかも幼馴染なんてフラグ立ちまくりじゃん」

「いや、確かにあいつの胸は俺好みだが…って、違う違う…」


ほんと素直じゃない奴。
携帯買ったらこっそりエリザの番号登録しておいてやろう。
私の居ないところで電話かけてたりして…フフフ。
今度の休みが楽しみだ。


「ところでお前、今日誰かに嘘とかつかなかったのか?」

「会社の人に”子供ができちゃった”って嘘ついたけど案の定失敗したよ」

「ちょっ…。おまっ…!!」

「なに赤くなってんの」

「うっせぇ馬鹿!!」


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