「なんかアーサーが昨日から落ち込んでるみたいなんだけど」

「ほっとけよ。どうせくだらねー事だろうし」

「そうだよねー。あー、お茶が美味しいわぁ」

「ババァかお前は」

「だって美味しいんだもんこのお茶。うーん、やっぱりお煎餅には日本茶だよねぇ」


袋の中に入った煎餅に手を伸ばす。
「あ」と口を開けるギルに煎餅を砕いて口の中に放り込んでやるとバリバリと音をたてて食べきった後に私の手首を掴んで手に持っていたお茶を飲み干した。

休みの日にこうやって二人でのんびりするのもいいよねぇ…。


「そういや昨日本田が美味いワインくれたんだぜ」

「何それ?どこにあんの?」

「キッチンの床下収納」

「どれどれ〜」


ソファーから腰を上げてキッチンの床下を調べると、高そうな赤ワインが入っていた。
三年ものかぁ…美味しそうだなぁ。


「今から飲まねぇ?」

「昼間っから飲めないよ」

「たまにはいいだろ」


そう言ってワインのコルクを抜いたギルが勢い良くグラスにワインを注ぐ。
おいおい、入れすぎじゃないのかそれは…。


「ぷはーっ!!うめぇえええ!!!」

「ほんとだ、美味しい!」

「なぁ、なんかあてになるもんねーか?チーズとか」

「冷蔵庫にあるから自分で取ってきなさい」

「ちぇっ…」


本当に美味しいワインだなぁ。
今度本田さんにお礼言わないと…!!
しかし流石にアルコールの高そうなワインだよね、これ…。飲み過ぎないようにしておかないとなぁ。


「もっと飲めよ」

「いや、もういいって。酔っちゃうじゃん」

「家なんだから酔ったっていいんじゃねえ?どうせお前酔っ払ったってすぐ寝るだけだし」

「うーん…じゃあもうちょっとだけ」

「うっし」


ギルに推されて二杯目にも口をつけると、だんだんと意識が朦朧とし始めた。
あぁダメだ…!!やっぱり酔いの周りが早いじゃないか…!!!
とろんと重くなる瞼でぼんやりワインを飲んでいるギルを見ていると、私の視線に気付いて驚いたのかワインを飲みながら咳き込んでいた。


「な、なんだよ…」

「べつにー…ちょっと酔い回ってきた…」

「頬っぺ赤いし。ほんっと弱いなお前」

「うるせーやい…。ギルは酔わないよね。ギルが酔ったとこあんまり見たことない気がする」

「いつもお前が先に酔っ払って寝るからだろーが」

「それもそうだねー」


へらへらと笑顔を向ければ軽く頬をつままれて「ばぁーか」と呟かれる。
その手がそのまま首元まで下がってくすぐるような手つきで動くもんだから思わず小さな悲鳴の声が出た。
何すんだよちくしょう…!!


「お前ここ弱すぎるだろ」

「うおお…分かってんならあんまり触んないでよ」

「ケッセセセ!!そう言われて止めるような俺様じゃないぜぇえええ!!」

「うぎゃぁああ!!やめてぇええええ!!!」

「ハッハッハ!!泣いても喚いても誰も来ねーよ!!」

「ぎゃははは!!ちょっ、やめっ、ひぃいい!!やめろってんだろちくしょぉおおお!!」

「口悪いな…ほらほら、ここ弱いんだろ?」

「ヒッ…!!ちょっ、マジで勘弁!!嫌ぁああああ!!!」


体の上に圧し掛かってくるギルを必死に押し返そうと体を押したけど両手をギルの右手で拘束されてしまって身動きが取れない。
こうなったらされるがままじゃないか…!!!
ほんと首だけは勘弁!!!


「ケセセセ…セ…」

「うっ…え…もう終わり?えらく引きが早いじゃん」

「え、いや…なんかこれ、その…」

「は?」

「…傍から見たら俺がお前襲ってるみたいな…」

「いや、実際襲ってんじゃん」

「そ、そうか…うん…だったら、このまま…」


ギュッと私の手を掴んでいる力を強くしたギルが再び首筋に手を伸ばす。
酔いが回ってる体だし再び来るであろう攻撃にも抵抗できない。

こうなったら潔く諦めるしかないな、そう思った瞬間勢いよく音を立てて開かれた玄関のドアから悪魔のような表情でどす黒い笑みを浮かべているアーサーが現れた。
そうかと思えば私の上に跨っているギルを想いっきり殴り飛ばし、床に転がったギルに向かって何か英語で言葉を投げ捨てた。
いや、ちゃんと聞き取れなかったけどかなり汚い言葉だったよね…
っていうかなんでアーサーが…


「あの、アーサーさーん。何でいきなり殴るの」

「お前!!大丈夫か!?何もされてないだろうな!?」

「いや、それよりギルの方が大変だと思うんですけど」

「お前酒入ってんのか!?酔わされてそのまま押し倒されたのか!?だからこんなやつここに置いておくなんて危ないって言ってんだよ!!俺が壁に聞き耳たててなかったらどうなると思ってんだよバカ!!やっぱりこんなやつ追い出して…それがダメならお前が俺の家に…!!」

「いや、落ち着けってば…。何勘違いしちゃってんのこの眉毛…」

「え…だって今お前悲鳴上げて…」

「くすぐられてただけなんですけど」

「どっちも同じだろ!!」

「全然違うからね!?」


完全にのびきっているギルをアーサーにベッドまで運ばせて自分も酒の力でぐらぐらとする体をソファーに沈める。
子犬のようにしゅんとなってソファーの前で膝を抱えるアーサーの髪をふわふわとなで続けていると、いつの間にか意識が途絶えていた。

やっぱり昼間っからワインなんて飲むんじゃなかったなぁ…。





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