「で、きたー!!けど…これは…」


出来上がったマフラー広げると、ずいぶんと歪な形になってしまったなぁなんて心なしか残念な気分になった。
うーん…まぁ使えないことはない、よね…。
かなり不恰好だけど。
こんなものアーサーにあげたら迷惑かなぁ…。
昨日アルフレッド君が言ってたこともまだちゃんと聞けてないし…。


「おい名前ー。風呂上がったぜー!」

「はーい。まぁアーサーが帰ってきたらどんな反応するか見せてみようかな」

「何ブツブツ言ってんだよ」

「べつにー。ちゃんと髪乾かしなよー」

「へえへえ」


さて、アーサーが帰ってくるまでお風呂でも入って…


―ピンポーン


あれ…いいタイミングで帰ってきたのかな、アーサー。
上裸でアイスを食べているギルに「服着ろ」と指示をしながら玄関へ向かう。


「はいはーい」

「よ、よぉ…」

「お帰りアーサー。晩ご飯は食べてきたんだよね?」

「あぁ…。ちょっとお前の好きなケーキ屋の前を通ったからな…これ買ってきてやったぞ」


頬を赤くして視線をそらしたアーサーが差し出すケーキの箱。
おお…!!これは私の大好きなお店の…!!
アーサーのやつ気が利くじゃないか!


「まぁ上がりなさいな。ついでに紅茶淹れてください」

「そっちが目的かよ!?」

「だってアーサーの紅茶が一番美味しいんだもん。ケーキも早く食べないと味が落ちるし」

「ったく…仕方ねーなぁ」


キッチンに立つアーサーに「お願いね」と声をかけ、作りたてのマフラーを取りに自室に戻る。
さて…どんな反応を見せてくれるかなぁ。
折角作ったんだし気に入ってくれるといいけど…。


「ねぇねぇアーサー。これどう思う?」

「これって…お前が手に持ってるそれか?」

「うん、これこれ」

「んー…なんていうか…それ何なんだ?ラグマット、じゃないよな」

「…え…」

「雑巾じゃねーの?本田がよくそういうやつで廊下掃除してるぜ」

「あぁ。よく汚れが落ちるとかいうアレか!そう言われてみればそんな風に見えてくるよな」


雑巾って…

…雑巾って…。


「うん。ごめんね。これマフラーなんだーハッハッハ」

「マジかよ!?見えねーって!!」

「そんな不恰好なもんどこで買ったんだよお前!?今すぐ返品した方がいいぞ!」

「アッハッハ!!そうだね!!返品した方がいいよね〜!!」

「な、なんかお前おかしくねえ…?」

「返品できないんだよねーこれ!!だって私が編んだマフラーだから!?」

「「………え…」」

「雑巾で悪かったね雑巾で。アーサーが外で寒そうにしてるからちょっと頑張って作ってみたのに雑巾じゃ仕方ないよね」

「…お、俺の為に、か…?」


驚いたようで泣き出しそうな表情をしているアーサー。
ちくしょう。こんなもの作るんじゃなかった。
せっかくローデリヒさんにも手伝ってもらって作ったのになぁ…。
ああもう、なんだか泣きそうだよちくしょう。


「ごめん、ちょっと外行ってくる」

「あ、あの、俺…」

「名前…ケーキ…」

「ついてくんな。ついてきたらこの雑巾で首絞めるから」

「「…はい」」


上着も羽織らないまま外へ出れば、冷たい風が頬を刺した。
ちょうどいい。怒りだとか悲しみだとか、よくわからない感情がおさまっていく気がするし。


「はぁー…。気分転換にその辺歩いてくるか…」


戻ってきたら何もなかったように三人で一緒にケーキを食べよう。
ついでにこのマフラー…らしきものを処分してしまおう。

住宅の明かりと街灯が灯る道はさほど怖くはない。
本田さん家あたりまで行ってユーターンしようかな…。


「あれ…?名前ちゃん!?」

「え…と、トニーさん!?」

「ど、どないしたんこんな時間に一人で夜道歩いて!!」


薄暗い街灯の下で声が聞こえて体がビクりと動いたけど、その正体がトニーさんだと分かって直ぐに安堵の溜息が漏れた。


「トニーさん…」

「えええ、ビックリしたわー!!やっぱ名前ちゃんかいな!!こんな夜道一人で歩いたら危ないで?なんや寒そうな格好してるし…。上着着てくるん忘れてもたん〜?名前ちゃんおっちょこちょいなとこあるもんなぁ」


いつもと変わらない笑顔で笑ったトニーさんが自分の着ていた上着を私の肩に掛けてくれた。
うわ…なんかちょっと泣きそう…。


「マンションまで送るから一緒に帰ろか〜」

「ごめん、ありがとうトニーさん」

「ええねんええねん。俺も幸せやし」

「何それー」

「ん?それ、手に持ってるの何?」

「え…こ、これは…その…」


捨てるの忘れてたぁああ!!
こ、こんなもの他の人に見られるの恥ずかしいなぁ…。


「へぇ〜。暖かそうなマフラーやなぁ」

「え…」

「え?」

「と、トニーさん…これがマフラーに見えるの…!?」

「え、マフラーとちゃうん!?だったら…うーん…継ぎ目のある腹巻…」

「ううん!あってる!!これ私が編んだマフラーなの」

「えええ!?名前ちゃんが編んだん?女の子らしいなぁ〜!!なんやいまキュンってしたわー!」

「と、トニーさぁあああああん!!!」

「え、なに!?俺なんか悪い事言った!?」

「す、好きだぁあああああ!!!」

「おぶぁあああああああああ!!!ちょばっ、ぶっ、ばぶっ、ええええええええええ!?」

「トニーさん…良かったらこれ貰ってやってください…もうトニーさんの役に立つのなら雑巾にでもラグマットにでもしてくれていいから…」

「ちょっ、まっ…何これ…夢なん?もしかして俺死ぬん…?天からお迎え来るんちゃう…?パトラッシュ?」

「来ないよ!!」

「あかん…ほんまに嬉しいわー…なんや嬉しいとか幸せとかそういう言葉では言い現せられへん…」


震える手でマフラーを受け取ってくれたトニーさん。
あぁ、今トニーさんが神様のように見えるよ…。
こんものを貰ってくれるなんて…本当に優しいよね、トニーさんは…。


「ほんまにありがとう名前ちゃん!!でもこれもらってもよかったん?」

「うん。アーサーとギルには雑巾って言われたし。捨てようと思ってたんだ、それ」

「な、なんやてぇええええ!?名前ちゃんの作ったマフラーを…あいつら今度二人揃ってフルボッコにしたらなあかんな…」

「いいよ。トニーさんが貰ってくれて私本当に嬉しいし」

「俺も。めっちゃ幸せです」


あげたばかりのマフラーを巻いたトニーさんが本当に嬉しそうに笑ってくれるものだから、ついさっきまで捨てようとまで思っていたマフラーだったけど作って良かったなぁなんて思った。

トニーさんにマンションの前まで送ってもらい、上着を返して「ありがとう」とお礼を言えば「俺もほんまにありがとうな」とマフラーを指差した。

部屋の前でそわそわと待っていた二人に「ケーキ。それから紅茶!!」と言い放てば「畏まりましたァアアッ!!」と素早い動きで部屋に戻り準備を始めた。



「名前…。そ、その…まずは謝る。本当に悪かったよ…。お、俺の為に作ってくれたんだよな」

「まぁね。アーサーが気に入らなかったらギルにでもあげようかと思ってたけどギルもダメだったみたいだし」

「マジかよ!?」

「マジですが何か」

「いえ…何も…」

「その苺よこせよギル」

「…恐喝「ああん?」どうぞ召し上がってください」


ギルのショートケーキから奪った苺を半分にして少しだけピヨちゃんにも分けてあげると美味しそうに食べてくれた。
うん、和むなぁ。


「それで…あのマフラー…」

「あぁ、トニーさんにあげた」

「はぁああああああ!?」

「なんでトニーなんだよ!?」

「たまたま外で会ったんだよ。トニーさんはすぐにマフラーだって気づいてくれてね。それでこんなものでも良ければって差し上げました」

「待てよ!?あれ元々は俺にくれるつもりだったんだよな!?」

「うん。だけど雑巾とか言われてあげる気起こる人なんていないよね」

「う…」

「まぁ確かにあれは不恰好だったし出来も悪かったのは事実だけどさ…」

「って自分で認めてんじゃねーか!!」

「黙れヒモ。外に放り出すよ?」

「お、俺ちょっとピヨちゃんとあっちでゲームしてくるぜ…」

「いや、本当に、悪かったと思う…。お前がわざわざ手間掛けて編んでくれたんだよな…俺に…」

「一応編む時はアーサー気に入ってくれるかなぁとか、これがあれば寒くなくてすむかなぁーとか考えて編んでたんだけどね。まぁ結果的にトニーさんの役に立ってくれるのなら編んだ甲斐があるってもんだよ」


ずずずと紅茶をすすれば俯いていたアーサーが今度は膝を抱えた。


「俺…最低だよな…今なら切腹できる…」

「そうでもないよ。ケーキ買って来てくれるし」

「それだけかよ…」

「私の好きなケーキ屋さん覚えててくれてるし」

「た、たまたまなんだかなら!!」

「それからさぁ…ちょっと気になることがあるんだけど」

「…なんだよ」

「昨日アルフレッド君に聞いたんだけどね。アルフレッド君のお父さんがアーサーにいい人紹介するって言ってたって」

「な、なんだよそれ!?」

「知らなかったの?」

「知るかよそんな事!!何勝手にきめてんだよ親父…!!」


あれま…。まだ言ってなかったのかなぁ…。


「っていうか何でそんな事が気になるんだよ…」

「……なんでだろう」

「はぁ?」

「なんだかよく分かんないけど気になっちゃってね。だけどアーサーに聞いたらスッキリした」

「なんだよそれ…」

「まぁいい人紹介してもらっても相手がアーサーについていけるかどうかねぇ…アーサーの酒癖の悪さは一般人はどん引きだよ。後最近は男も料理ができて当たり前じゃん?まぁ次期社長って肩書き持ってんだしいくらでも寄ってくる人は居るか…」

「べつにそんなもんいらねーよ馬鹿…」


最後の一口のケーキを口の中に放り込みいい香りのする紅茶を口に運ぶ。
うん、美味しい。


「名前」

「なーに」

「あの、さ…」

「うん」

「その、お前の編んでくれたマフラーはもう無いわけだし…今度マフラー買いに行くから…お前が選んでくれないか?」

「……」


なんだかなぁ。



「よし、雑巾っぽくないやつ選んであげるね」

「……やっぱり根に持ってるよな」

「べっつにー」






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