「あ、名前ちゃん」

「あらこんばんは変態髭面セクハラオヤジデラックスさん」

「長いよ!!しかもデラックスってなんなのもー!!」

「チッ…。変なのに遭遇しちまったぜ。ペッ」

「ちょっ!!名前ちゃんなんか怖いよ…」

「そんなことないですよーだ」


帰り道、ばったり変態オヤジ…元い、フランシスさんと遭遇してしまった。
私のテンションはいっきに急行下なわけだ。


「もしかして仕事帰り?」

「そうです。今から買い物をすませて帰るところですよ」

「今からお兄さんとどっか遊びに出かけない?あんなプー太郎はほっといてさぁ〜」

「えぇー!?嫌ですよ。またセクハラされちゃあたまりませんからね」

「ん〜。俺も名前ちゃんに色々悪戯したいところなんだけどトニーとアーサーにフルボッコにされっちゃったからさぁ」

「うわ…。ご愁傷様です」

「はははー…」


どこか儚げに遠くを見るフランシスさん。
あの二人に何されたんだ…。
想像しただけで恐ろしいので考えないでおこう。


「あ。そういえば私変態髭オヤジさんに聞きたい事があったんですよ」

「…うん、もうこのさい気にしない。聞きたい事って?」

「私が貴方に追いかけられた時に助けてくれた方がいたじゃないですか。あの方は知り合いの人ですよね?」

「そうだけど…」

「今更ですが、ずっとお礼がしたいと思ってたので連絡先とか教えていただけません?」

「えぇえー!?それはちょっとなー…」


腕を組んで「んんー…」と悩みはじめるフランシスさん。
何かまずい事でもあるんだろうか。


「あいつはなぁ…。やめておいた方がいいような…うーん」

「どうしてです?」

「一言で言えば何されるか分かんない相手だし」

「はぁ?」

「俺にもイマイチ理解できない奴でさ〜。イヴァンって言うんだけど、歳も職業も分からないし何処に住んでるかも教えない奴なんだよ。あとやけに怖い」


そんな人には見えなかったけどなぁ…。
見た感じ、優しくて純粋そうな


「いい人っぽく見えましたけどねぇ」

「え?俺をおもいっきり殴ったのに?しかも水道管で」

「えぇえええやっぱりあれ水道管だったんですか!?怖っ!!」

「だろだろー?だからあんなのはやめておいてお兄さんと一緒に飲みに行こうよ〜。なんなら明け方までお付き合いしますよーマドモアゼル?」

「あはは。アーサー呼び出しましょうか?」

「ごめんなさい」


はぁ〜。結局名前しか教えてもらえなかったなぁ
私を助けてくれた人はイヴァンさんと言うらしいが、連絡先も住んでいる場所も分からない。
どこかでバッタリ会わない限りお礼を言うなんて無理じゃないか


「はぁ〜。仕方ない。さっさと買い物して帰ろう」



―――


「ほぁ〜名前ちゃんやー!!」

「こんばんはートニーさん」

「もートニーさんやなくてトニーでええって言ってんのに〜。親分いじけてまうでー!」

「親分って何。まぁ一応年上だし敬称は外せないよ」

「なんやったらケリドとかアモルーとか呼んでくれてもええんやで」

「それってスペイン語?」

「愛しい人ー!とかそういう意味やな」

「流石情熱の国!いちいち熱いなぁ〜」


そやろー、と嬉しそうに笑うトニーさんは私に癒しを与えてくれた。
うん、ほんとに癒される。


「トニーさんもうバイト終わり?良かったら晩ご飯一緒にどう?この間看病してくれたお礼しなくちゃいけないし」

「うひゃぁああ!!めっちゃ行きたい!!でもこれからピザ屋でバイトやねん…。あかん、めっちゃ辛いわ〜」

「そっかー残念。いつでもいいから遊びに来てね。ギルも喜ぶし!」

「あー、あれはどうでもええわ。名前ちゃんに会いにいつでも参上するでー!」

「うん!それじゃあバイト頑張ってねー!」

「うおぉお!!よっしゃー気合入った!!親分頑張ってくるー!!」

「だから親分って何?」


メラメラと闘志を燃やしたトニーさんは「時間あったら遊びに行くなー!」と両手をぶんぶんと振った。
可愛いなぁチクショー


「さぁ。晩御飯の買い物しなきゃね」


今日は簡単にパスタでいいかー
トマトピューレきらしてたよね。
買っておかないと


「って、うおーい…なんだよ、これ」


天井近くまで高く積み上げられているトマトピューレの缶詰。
ちょっ、なにこのピラミッド、一番上から取らないと崩れるじゃありませんか。


「あーもうめんどくさいなぁ!!」


ここはアメリカのスーパーマーケットですか!!!実際に見たの初めてだよこんなの!!
一生懸命手を伸ばしてみるも、手が届くはずもなかった。
どうしたものか…

ん?


「ど、どうしよう…」


斜め後ろにビクブルと小刻みに震えている少年が居た。
どうやら彼もこの缶詰取りたいらしく、天高く聳える缶詰の山を見上げて涙目になっていた。


「君もこの缶詰ほしいの?」

「えっ!!あの、そっ…そうです」

「私もなんだー。店員さんにとってもらおうか。今呼んでくるから心配しなくてもいいよ」


ふわふわと髪を揺らした少年はぎこちなく笑った。
可愛いなぁー。


「どうしたの?ライヴィス」

「あっ!!あの…!!すみませんイヴァンさっ…!高くて手が届かなくて…」

「そうだったんだ。はいどうぞ」

「ごめんなさいごめんなさい!」

「ふふふ。君もどうぞ」


少年の目の前に壁ができた。と、思ったら違った。
って、あれ?さっきイヴァンさんって言った?

差し出された缶詰を受け取って恐る恐る首を上に向けると、そこにはにっこり笑って私を見ている…あの時の青年が居た。


「あっ、あの時の!!」

「キミ、フランシス君に追いかけられてた女の子だよね?こんばんは〜」

「あぁ、こんばんは。って、そうじゃないない」


ん…?なんだかフランシスさんの言ってたような人じゃないんじゃない?
ふわふわ笑ってとっても優しそうだし…
そんな事よりお礼、言わなきゃ!!


「あの、その節は助けていただいてありがとうございました!」

「いいよーそんな頭なんて下げなくても。たまたま通りかかった所に変態が居たからやっつけただけだからね」

「いえいえ!!そのおかげで私は助かりました!本当にありがとうございます!」


ちょっ、めっちゃいい人じゃないですかぁあフランシスさん!!
何が”イマイチ理解できない怖い奴”だよ
、すっごくいい人じゃん!!


「キミ、名前はなんて言うの?」

「名前です。貴方はイヴァンさん、ですよね?あの変態髭ヅラオヤジから教えてもらいました」

「そうだよ。あの変態髭面オヤジスペシャルとはちょっとした顔見知りなんだー。ふふふ」


あぁっ!!何この人!!すっごい癒し系じゃないですかぁあ!!
トニーさんとは違った癒しだよぉおお!!


「あの、助けていただいたお礼がしたいのですが…」

「お礼?」

「はい!変態から守っていただいた恩は大きいですよ!私に出来る事ならなんなりと!」


イヴァンさんの隣で小さく震えていた少年の肩がビクッと震えた。
ん?どうしたんだろ


「じゃあ晩ご飯ご馳走してほしいなぁ」

「いいですよ!イヴァンさん、何食べます?」

「君の手料理がいいな、僕。あと敬語はいらないよ。それにイヴァンって呼んで欲しいな、名前」


にっこり

あ、やばい。キュンときた。
私きっとこの人の笑顔に弱い


「うん!」

「よろしくね、名前。こっちのビクビクしてる子はライヴィスだよー」

「よ、よろしくお願いします…」

「よろしくね、ライヴィス君」

「今日は今から用があるから…。明日、君の手料理が食べたいなぁ〜」

「分かった。腕を振るって美味しいもの作るね!ライヴィス君も暇だったら一緒に来てね」

「ふぇ…」

「うん!楽しみだね〜ライヴィス」

「はっ…はい…」

「それじゃあ明日の夕方に君のマンションに行くね」

「うん。それじゃあ楽しみにお待ちしておりますねー」

「ふふふ。それじゃあ」


ちゅっ

すれ違い際に軽く私の頬にキスをしたイヴァンは「またね」と、呟いて去っていった

って、恥ずかしっ…!!!
向こうの人はナチュラルにやってのけちゃうけどこっちじゃありえないんですよいヴァンさーん!

熱が集まっていく頬を掌で押さえて、小さくため息をつく。

イヴァン、なんだか不思議な人だなぁ。
明日また会えるのが楽しみだ。


あれ。そういえば彼マンション行くねって言ってたけど、私いつマンションに住んでるだなんて言ったっけ?
ま、テンション上がってて口走ったんだろう。

さーて、明日は豪勢な料理作らなきゃなぁ〜!!
頑張るぞー!






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