「マフラーどこにしまったっけ…」

「朝から何ごそごそしてんだよ」

「寒いからマフラー巻いていこうと思ったんだけど見当たらなくてさぁ」

「あぁ?しょうがねーな、俺様が探しておいてやるから今日だけ我慢しろよ。早く行かないと遅刻するぜ?」

「うわっ、やばいもうこんな時間!!それじゃあ頼むねギルーッ!!行ってきます!!」


急ぎ足で玄関を出ると私が来るのを待っていてくれたらしいアーサーが「遅いんだよ馬鹿!」と怒鳴った。
別に待っててくれなくても先に行ってくれればいいのになぁ…。



「おはよー!」

「おはようございます名前さん。ぎりぎりセーフでしたね〜」

「茶でも飲め」

「ありがとうスーさん!ぷはー、間に合ってよかった…。また遅刻でもしたらあの横暴な上司に何言われるか…」

「誰が横暴だべ〜?こんなに贔屓してやってんのにそんな言い方はながっぺー」

「いひゃっ!頬ひっひゃらないでくらさいよデンさん!」

「おー伸びる。餅みてぇだべ!」

「その手離せ…」

「なんでぇベール、またやんのげ?」

「朝からドンパチしないでくださいよ…」


睨み合う二人の間に入り今にも始まりそうな喧嘩をおさめてため息をつく。
朝から疲れた…。


「あ、そういえばデンさん。アイス君の風邪どうですか?」

「あ?何の話だべ」

「え…昨日アイス君に会ったら風邪だって言ってましたけど…」

「あんこ…」

「マジけ…知らねがった…」

「まぁご家族がいらっしゃるなら大丈夫ですよね」

「……あいつんとこの両親今海外だっぺ…三日前からアイスランドに…」

「え……」


と、言う事は…アイス君は今家で一人っきりで、しかも風邪をひいているわけで…


「あ、アイスゥウウウウウ!!!」

「どどどどど、どうしよぉおおお!!と、とにかく電話!!電話してみましょうアイス君に!!」

「今してみたけど出ね…」

「ノルさんやる事早っ!!!えええ、出ないってまさか…そんな…!!」

「おお、落ち着きましょうよ皆さん!!アイス君はきっと無事ですよぉおお!!」

「元気になっで学校行ってるかもしんね」

「今電話したけども連絡入ってねぇって」

「ノルさんやる事早いよ!!」

「と、ともかく今ずぐ帰って…」

「デンさん朝一で会議でしょう!?」

「んなもん知るか!!」

「俺が行ぐ」

「ノルさんもデンさんと一緒に会議でしょう!?私が、私が行ってきますから!!昨日アイス君に会った時ちゃんと話聞いてあげられてればこんな事には…」

「頼む名前!!これあいつん家の鍵」

「はい。それじゃあ行ってきますね!!あとの事頼みます」

「気づけてな…」

「仕事は僕たちに任せてください!」

「ありがとう!!行ってきます!」


デンさんから鍵を受け取って走りにくい靴を履いてきた事を後悔しながら小走りでアイス君の家に向かう。

昨日アイス君が何か言いかけてた事って…両親が居ないことを言ったら私が心配すると思って言えなかったのかな…


―ピンポーン


「アイス君ー!?」


玄関のベルを鳴らして何度か声をかけてみても中から物音一つ聞えない。
も、もしかして熱で倒れてるとか…!!!


「アイスくぅううううん!!!!」


玄関の鍵を開けてアイス君を探す。
今は人様の家だから躊躇するとかそんな事考えてる場合じゃないよ!!


「アイス君!!」


ドアを勢いよく開いて中を確認すると、ベッドの上に大きな山ができていた。
そっと近づいてシーツを捲ってみると、頬を赤くして眠っているアイス君の姿があった。


「アイス君…!!良かったー…」


とりあえずは大丈夫みたいだね…。
デンさんに連絡しておこう。


「ん…」

「あ…アイス君。大丈夫…?」

「………名前?」

「そうだよー。ごめんね、勝手に家に上がっちゃって。アイス君の両親が居ないって聞いてデンさんに鍵借りて様子見に、って…うおおおお!?」


薄っすら目を開いたアイス君。
腕を掴まれ何事かと思えば、そのまま腕を引っ張られてバランスを崩し上半身がベッドの上に倒れ込む。


「アイス君ー!?」

「名前…」


ぎゅーっと首根っこに抱きつかれたかと思えばスースーと規則正しい寝息が耳元で聞え始める。
え、何これ。私どうすればいいの…?
とにかくデンさんに連絡しなきゃな…。


「あ、もしもしデンさんですか?」

『おう!!アイスは無事け!?』

「はい、大丈夫みたいです。ベッドで丸くなって寝てました」

『そーけ…安心したっぺ〜』

「起きてからまた寝ちゃったんでもう少し様子見てから会社に戻りますね」

『おう、こっちは任せとけ』

「はい、お願いします」


これでよし…。


「アイス君アイス君、起きて」

「ん…あれ…」

「何か食べたい物とかある?その前に熱計らないとなぁ…」

「え…なんで名前が…夢じゃなかったの…?」

「デンさんの代わりに様子見に来たんだよ。ごめんね、昨日家族の方が居ないって気付いてれば一人にしなかったのに…」

「ううん、大丈夫だから…。仕事行かなくていいの?」


眠そうに髪に寝癖を作ったアイス君はもぞもぞとベッドのシーツに包まった。
年頃の男の子だし寝てるとこ見られるのは恥ずかしいのかなぁ…


「皆に任せてるから大丈夫だよ。はい、体温計」

「…うん」

「何か食べたい物とかある?」

「お粥とかなら食べたい…」

「よし!それじゃあキッチン借りるねー。熱計れたら呼んで?」

「うん」


アイス君の家広いなぁー。キッチンも広いし…。
食材勝手に使っちゃって良いのだろうか…。
ま、後でデンさんに一言言っておこう。


「名前、計れた」

「どれどれー。んー、三十七度七分か…やっぱり高いなぁ…」

「平熱低いから…けっこうだるい」

「そっかー。お粥食べて病院で貰った薬飲んでおこうね。それにしても両親がいないならどうしてデンさんに頼らなかったの?」

「…あいつに頼るなら一人でどうにかした方が早く治ると思って…」

「それも一理あるけどさ。でも一人じゃもし何かあった時誰も助けてくれないでしょ?ちゃんと言わなきゃだめだよ?デンさんが嫌なら私に言ってくれてもいいのに…」

「うん、ごめん…。今度からは頼ってもいい?」

「もちろん!何時でも頼っていいからね!」

「ありがと、名前…。あとさっきいきなり抱きついてごめん…」

「ふふふ、可愛いなぁアイス君」

「可愛くないよ…!」


その後しばらくアイス君の家で看病をし、薬を飲んで眠るアイス君を確認して会社に戻った。
何かあったらすぐに電話してって枕元にアイス君の携帯を置いておいたし…大丈夫だよね。
あとはデンさんとノルさんに任せよう。




―――




「ただいまーギルぅううう!!」

「うお!?なんだよ、疲れてそうだなお前」

「うん…実はアイス君風邪引いてるっていうのに家族の人誰も居なかったらしくてさ…その事に今朝気付いて様子見に行ってたんだよー」

「マジかよ!?っていうかなんでお前が!?デンが行きゃいいだろ」

「デンさんもノルさんも会議でね。だけどアイス君が無事で本当に良かったよ。今頃デンさんとノルさんが必死に看病してるんじゃないかな。あの二人過保護だし」

「ふーん…」

「明日には元気になってくれるといいんだけど…。また様子見に行ってみようかなぁ…」

「大丈夫だろ。それより腹減ったから早く帰ろうぜ!!」

「そうだね。トニーさんとこで買い物して帰ろうか」


帰宅後、鞄の中に入っていた携帯画面を開くとアイス君からの着信が入っていた。
慌ててかけ直すとワンコールもしないうちにアイス君の声が聞こえてきて、「あの二人もうやだ…助けて…」と消え入りそうな声が聞こえてきた。
何事かと思えば受話器の向こうで「アイスこれも食え!!沢山食えばすぐ元気になんべ!!」「あんこは黙っとれ。アイスには栄養のある料理作ってやっだ」というデンさんとノルさんの声が聞こえてきた。
うん…なんとなく状況は把握したよ…。
アイス君に「眠いから寝るって言いなさい」と助言をすると「名前にずっと看病してもらいたかった…」と返ってきたので思わず受話器を強く握ってしまい、携帯が壊れてしまうかと思った。
可愛い…可愛すぎるよアイス君…!!!

声にならない叫びをあげて地面をドンドン叩いていると、ギルに白い目で見られた事は言うまでもない。



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