「名前さーん、携帯鳴ってますよー?」

「んー?ほんとだ。ありがとーティノ君」

「いえいえ」


机の上に置きっぱなしにされていた携帯を開き画面を確認してみるとそこには”アーサー”の文字が。
まだ出張中のはずだよね…。何かあったのかな。


「もしもし?」

『名前か?悪いな、仕事中に』

「ううん、大丈夫だよ。それよりどうしたの?今出張中でしょ?確か北海道だよね」

『いや、今はアメリカ』

「…どーやったら北海道がアメリカに変更になるの…」

『北海道行ってからアメリカに渡ったんだよ。ちょっと父に呼び出されてな…』

「父って…あぁ、アルフレッド君達のお父さんか」

『あぁ。それで今日お前ん家に出張先から送った荷物が届くと思うんだ』

「うんうん」

『ナマモノだから早く食べておいてくれ。あとそれから赤い箱があると思うからそれ早めにアルフレッドとマシューに届けてくれないか?』

「食べ物なの?アーサー居ないのに食べちゃっていいわけ?」

『あぁ、俺はこっちで食べたしな。北海道のカニとかホタテとかウニとか…とりあえず適当に買っておいたから食えよ』

「マジですか!!やったー!!ありがとうアーサー!!すっごく嬉しい!」

『そ、そうか…。べ、別にお前の為じゃないんだからな!!俺の為なんだからな!!』

「はいツンデレツンデレ。それじゃあ遠慮なく食べさせてもらうねー。アルフレッド君の方も早く渡しておくよ」

『あぁ、頼むな』

「お仕事頑張ってね。いつ帰ってこれるの?」

『そうだな…。週末には戻れると思う。あ、あと前に言ってたディナーなんだけどな…来週の日曜に予約入れておいたぞ』

「と、言うと15日だよね。了解でーす」

『あぁ。それじゃあな。お前も仕事頑張れよ』

「アーサーは頑張りすぎて倒れちゃわないようにね」

『この俺がこれしきで倒れるかよ』

「どうだかー」


受話器の向こうで「バーカ」と嬉しそうに笑うアーサーにつられて顔が綻んだ。

携帯を閉じオフィスの時計を確認する。
えーっと…確かアメリカとの時差は14時間程度…。
って、いまあっち早朝じゃん!!
こんな時間に起きてるなんて…。
今まで仕事してたのかな。それとも早起きしただけなのか…。
アーサーって期待されると無理しちゃうところがあるからなぁー…。
向こうでぶっ倒れても直ぐに助けに行くなんてできないぞ、まったく…。


「今夜は海鮮三昧だな…」

「あれ、名前さん楽しそうですね」

「えへへー。まあね」



――――



「そんなわけで今日は皆で海鮮づくしですよ!!本田さんの家で!!」

「これはこれは…アーサーさん何もこんなに沢山送らなくても…」

「本田さんも最近ギルと二人で仕事漬けだったみたいですし今日ぐらいゆっくりしてください。料理は私がしますから。あ、台所と割烹着お借りしますねー」

「ありがとうございます」


家に届いた大量の荷物。
早速ギルに運ばせて本田さんの家で夕食にする事にした。


「うわ、生きてるよこのカニ!!」

「そ、それ調理すんのかよ!?」

「当たり前でしょ。高温で茹でればいいか」

「おおおおお前ぇえええ!!生きてんだぜ!?それ生きてんだぜ!?」

「お前が食ってるものの殆どが生きていた物だって事ちゃんと理解してる?」

「だって生きてるとこ見たらなんか…」

「はいはい。そろそろアルフレッド君も来ると思うから居間で待っててよ」

「おぉ…」


ギルが居なくなったのを確認して鍋に生きたカニを丸ごと放り込む。
うーん、新鮮だし身もぷりぷりして美味しいんだろうなぁ…。
アルフレッド君も来てくれるって言うし渡す物渡して皆で美味しいもの食べて…。


「名前さーん、このカニ一匹持って帰ってもいいっすか?」

「小笠原さん…。貴方どんだけ暇なんですか…ずっと本田さん家に居ません?」

「いやぁ、もう直ぐ締め切りなもんで様子見に来たんですよ。それより俺めちゃくちゃカニ好きなんですよ」

「そうですか」

「好きなんですよ」

「……」

「すーきーなーんーでーすーよぉおおおお!!!」

「あーもう分かった!!分かったから大人しく居間で待っててください!!!」

「ひゃっほーい!!!」


まったくなんなんだあの担当は…。

新鮮なカニは茹でて、あとは鉄板焼きにする事にした。
海鮮三昧で贅沢な晩ご飯だなぁ…!!


「やあ皆ー!!呼ばれて飛び出てヒーローの登場じゃじゃじゃじゃーんなんだぞ!!」

「アルフレッド君」

「いらっしゃいませ。ちょうど今から始めるところだったのですよ」

「OH!!ナイスタイミングじゃないか!!それより名前、俺に渡したい物ってなんだい?」

「あぁ、これなんだけどね。アーサーからアルフレッド君とマシュー君にって」

「はぁ?なんだいそれ。自分で渡しに来ればいいじゃないかアーサーのやつ」

「今出張中なんだよ。知らなかった?」

「俺がアーサーの仕事のスケジュールまで把握してると思うかい?」

「ですよねー。ともかく早めに渡しておいてって言われたから今日ここに来てもらったんだよ。はい、これ」

「ふーん…なんだろう…」

「それだけアメリカから送られてきたみたいなんだけど…」

「アメリカ…?」


ガサガサと大雑把に箱の包み紙を破るアルフレッド君。
小さく開いた隙間からそっと中を覗いて「アーサーのやつ…」と少し照れくさそうに苦笑いを浮かべた。


「なになに、そんなに嬉しいものだったの?」

「アメリカで小さい時から俺たちが好きだった店のアップルパイさ。覚えてたんだなぁ、アーサー」

「へぇ…。お兄ちゃんだもんね、アーサーも」

「まぁ、ね…」


ふふふ。アルフレッド君が喜んでたって後でアーサーにメールしてやろう。
喜ぶだろうなぁ…。


「そろそろ焼けましたよ。さぁ、いただきましょうか」

「「「いっただきまーす!!」」」

「うんめぇえええ!!このカニ美味ぇえええ!!!」

「さっき生きてるの見て”これ食うのかよ”とか言ってたのどこの誰だよ」

「いや、マジで美味い。今回ばかりは眉毛に感謝するぜ…!!」

「ウニぶまいっす」

「あああああ!!私がほじくっていたウニぃいいいい!!!」

「あぁ、身を取るだけとって皿の上に放置してたんでいらないのかと思いましたよー」

「田吾作テメェエエエ!!!」

「っていうかこいつ誰なんだい?見かけない顔なんだぞ」

「あ、俺本田先生の担当の者です。編集長に、俺はなる!」

「いや、無理でしょ

「HAHAHA!!面白いやつじゃないか!!」

「名前…なんか口の周り痒い…あと手ベタベタ…」

「あーもう、カニの汁飛び散ってるじゃん!拭いてあげるからこっち向いて」

「名前ー!俺も拭いてほしいんだぞ!!っていうかこのカニ殻取るの面倒くさいから中身だけ出してくれないかい?」

「私がやってさしあげますよアルフレッドさん」

「ホタテって貝柱の横についてるハラワタみたいの嫌いなんすよね。本田先生にあげます」

「あなたと言う人は…!!一番いいところだけ美味しいとこ取りですか!!キエエエ今日という今日は許しませんよこのクソガキァアア!!!」

「本田さん落ち着いてくださいよ。私のウニあげますから」

「名前さん…。ありがとうございます、名前さんにいただいたウニ…一生大事にしますよ」

「いや、今すぐ食ってくださいナマモノなんで」


5人でかかれば沢山あった魚介類たちもあっという間に食べきってしまった。
っていうかこの人達食べすぎじゃないんだろうか…。
お腹壊してもしらないぞ。
あと少し渡り蟹なんかも残ってるし明日お味噌汁にでも入れようかな。

家に帰って寝支度を済ませ、アーサーにお礼とアルフレッド君が喜んでいたよとメールを送ると数分もたたないうちに返信が返ってきた。
メールからも向こうでアーサーが嬉しそうに笑って「べ、別に嬉しくなんか(以下略)」と言ってるのが目に浮かぶなぁ…。


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