「おい名前!!お前今週末の日曜、仕事休みだろ!?」

「んー?もちろん休みですよー」

「出かけるぞ。予定とか入れんじゃねーぞ!」

「はぁ?どこに行くの」

「それはその日のお楽しみだぜ」


にやりと笑って朝食の味噌汁をずずずと音をたてて飲みこむギル。

何か、企んでいる。
もしかして最近急に本田さん入り浸るようになった理由は日曜にあるのだろうか。

いつものように会社で仕事をして帰路についた。
ギルは本田さんのお手伝いを抜け出してまでちゃんと私を駅まで迎えに来るあたりしっかり責任感を感じているだろうなぁなんて思う。

私を家まで送り届けてそのまま本田さんの家まで戻っていくギル。
今夜も一人で夕食かー…。


「あ…」


しまった。夕飯の買い物して帰るの忘れてた…!!
しょうがない、今から買いに行くのも面倒だしあるものですませるか。

冷蔵庫の中を確認すると、ポツンと置かれたゆでダコ。
なんでタコ…?
シンクの上に乗せられた小麦粉にタコにキャベツに天かす…。そうきたらもう作るのはアレしかないでしょう。


「一人たこ焼き…楽しすぎるぜー…ふふふ」


一人の夕食ってやっぱり寂しいよなぁ…。
なんだか暗くなるっていうか落ち込むっていうか…。


―ピンポーン


ん…?誰だろう…。
アーサー出張中だしこの時間に尋ねてくる人に心当たりはない。
ギルが前に「夜俺の居ない時は易々と玄関の鍵開けるんじゃねーぞ」とか言ってたよなぁ…。
ま、いいか。


「はいはいどなたー…」

「あ…名前」

「ルート君!」

「すまないな、こんな時間に…」

「大丈夫だよー。どうしたの?」

「いや…昨日のパーティーの時兄さんが手酷くやられていたようだったからな。少し心配で様子を見に来ただけなんだ」


そう言って「手土産だ」とどこかのケーキ屋の箱を差し出したルート君。


「ごめんねー。今ギル居ないんだ」

「は…。お前を置いてどこに行ったんだ兄さんは」

「本田さんの家!原稿手伝うってここ数日ずっと篭ってるみたいだよー」

「まったく兄さんは…」

「そうだルート君!!夕食まだでしょ!?一緒に食べよう!!」

「いや、俺はこのまま家に帰って…」

「いいじゃんかよぉー姉さんが一人寂しく食べてんだよ!?一人たこ焼きなんだよ!?」

「何故たこ焼きなんだ!?」

「買い物行くの忘れてて何もなかったんだよ。まぁ何もないけど食べてってー」

「家でローデリヒが夕食を作っているんだが…」

「ひ、酷いルート君…私が一人寂しく食べてもいいって言うんだね…一人で寂しくたこ焼き引っくり返して楽しめって言うんだね、ルート君は…」

「あーもう…仕方ないな」

「やったー!!ルート君大好きぃいいい!!」

「す、好きとかそういった事を簡単に口にするな!!!」

「いやいや、だってほんとにルート君大好きだし私」

「うわぁあああ!!」


顔をゆでダコみたいにしたルート君は「頼むからやめてくれ…」と壁に寄りかかった。
そんなに嫌なのか!失礼なやつめ!だけどルート君だから許しちゃう!


「ルート君引っくり返すの得意?」

「いや…実はたこ焼きと言う物を作ったことがなくてな…」

「そうなんだー。まぁあんまりやる機会もないよね。トニーさんは関西では一家皆で楽しみながら食べるでーとか言ってたけど」

「なるほどな…。よし、試しにやってみるか」


たこ焼きを引っくり返す為の千枚通しの代用した丈串を手に取ったルート君はポコポコと穴の空いている鉄板に並んでいるたこ焼きに手を伸ばす。


「ん…ん?」

「あちゃー。失敗しちゃったね」

「なかなか難しいな…」

「私も最初は苦労したよ。コツはこうやって淵をくるっと回すようにして…」

「む…こうか?」

「んー、そうじゃなくて…こうかな」


ルート君の手に自分の手を重ねてたこ焼きを引っくり返してみせる。
「どうよ?」とルート君の顔を覗き込むと顔を真っ赤にして「あ、あぁ…」と体を強張らせていた。
ルート君ってアレだよね。よく赤くなる子だよね。


「うん、美味しい!」

「あぁ。たまには悪くないな」

「あ、ルート君ビール飲む?いっぱいあるから沢山飲んでも大丈夫だよー」

「お言葉に甘えよう」

「兄弟揃って好きだよねぇビール」


その後は二人で楽しくビールを飲み、ほろ酔い気分で会話に花を咲かせた。
今日は早く帰ってきたギルが酔っ払ったルート君を見て「お前俺の弟酔わせて何をしようと…!?」と私を疑うような目で見ていた気がするけど私も酒が入っていたので記憶が曖昧だ。

ただ覚えているのはルート君と二人で作り溜めしておいたたこ焼きをギルに投げつけて楽しんだ事ぐらいだろうか。

明日の掃除大変そうだよなぁなんて酔いが回った頭の隅で考えていたんだけど…まぁ明日は祝日で休みだし別にいいか。


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