「あれ…ギル居ないの?」

「はい。また本田さんのお手伝いとかで」

「へー…あのプーがねぇ…」


ワインのボトルとエコバックを持ってやってきたフランシスさん。
「美味しい白ワインがあるからクリームシチュー作ってあげるよ」とそっと耳元で囁かれたのは昨日の事で、フランシスさんの料理に弱い私はつい親指を立てて「明日でよければ」なんて答えてしまったわけなのですが…


「そんじゃあお兄さん特製クリームシチュー作っちゃおうかな〜」

「あ、何か手伝う事とかあります?」

「ノン。名前ちゃんはソファーにでも座って寛いでてくれればいいよ。できれば官能的なポーズで本とか読んでてくれればお兄さんとっても嬉しいなぁハァハァ」

「普通に座って本読んでおきます」


「ちぇー」と唇を尖らせて持参したエプロンを広げ、ふわふわキラキラと揺れる髪を結ぶ。

楽しみだなぁ、フランシスさんのシチュー。


「あ…そういえば今日トニーさんが時間があれば遊びに来るって言ってたような…」

「それじゃあシチュー大めに作っておかないとなぁ。あいつ結構食べ物に関しては執念深いから」

「マジですか。よく知ってますねーフランシスさん」

「まぁなんだかんだであいつとも付き合い長いからなぁ。ずっと仲良いし」

「アーサーが一番付き合い長いんじゃないですか?」

「あー、あれはダメ。全然可愛くないもーん。名前ちゃんは気づいてないかもしれないけどあいつ俺見たらすっげぇ極悪な顔で睨んでくるんだよ〜?」

「アーサー…]

「まぁ俺にしてみればあいつも可愛い子リスちゃんみたいなものだから」

「そのわりにはよく殴られたりしてますよね」

「…だってあいつ容赦ねーんだよ…昔荒れてた時なんか毎日のように…あぁ、古傷が痛い…」


脇腹を押さえて涙ぐむフランシスさん。
話には聞いてたけど相当荒れてたんだなぁ、アーサーのやつ。


「あの頃はトニーも荒んでたから大変だったよなぁ…。狂犬とか呼ばれててアントーニョって名前を聞くだけで皆逃げていったもんだよ」

「トニーさんどんだけすごいの!?確か音速の右足とかなんとか…」

「うん…あいつの蹴り食らったら本気で骨折れるよ…。動きが早いから避けられないし」

「うわぁ…そんなトニーさんと喧嘩してたっていうアーサーもすごいけど…」

「根っからの犬猿の仲だからなぁ。喧嘩も恋もね」

「…恋ですとな…?」

「なんでもなーいなんでもなーい。はい、あーんして」

「むぐっ!?」

「どう?ほっぺが落ちそうだろ〜?」

「んー!!甘い…!!カスタードクリーム…?」

「デザート用にね。お兄さん特製のミルフィーユも一緒にいかが?」

「やったー!!フランシスさんの料理って本当に大好き!!」

「うーん、ついでに俺も愛してくれると嬉しいけどなぁ!」

「何か言いました?何かふざけた言葉が聞えたような…」

「…どうやったらデレてくれんのこの毒舌少女…。敵わないなぁまったく!」


フランシスさんにわしゃわしゃと髪を撫でられて髪が乱れてしまった。
その後手ぐしで綺麗に戻してくれたフランシスさんは「うん、可愛くなった」と無邪気に笑った。
フランシスさんのこんな表情見るの初めてかも…

しばらく時間がたつとキッチンからいい匂いが漂ってきた。
そろそろ出来上がるのかなぁ…。


―ピンポーン


「お、トニーさんかな」

「よっし!いいタイミングでこっちも出来上がったよ〜」

「やったぁー!!」


早足に玄関へ向かって扉を開くと頬を赤くして息を乱しているトニーさんの姿があった。


「ど、どうしたのトニーさん!?」

「うん、今な、バイト終わってんけど…。早く名前ちゃんに会いたぁなって走ってきてん」

「走ってきたの!?うわああ、髪の毛ぐちゃぐちゃになってるよトニーさん」

「ほんまに?なおしたってー」

「ほいさー」


ふわふわのトニーさんの髪に手を伸ばしポンポンと撫でれば乱れた髪が元に戻る。
それにしてもわざわざ走ってこなくても良かったのになぁ…。
ほんとに元気だよねートニーさんは。


「うわー、なんやめっちゃええ匂い…って、なんでフランシスがおんねん」

「ボンジュートニー。いやぁ、今日は名前ちゃんと二人っきりで甘ーいランチでも食べようかと思ってねぇ…」

「ハハハ。ふざけんなやーいっぺん死ねや髭ー」

「ちょっ、酷い!!容赦ないよお前!!」

「フランシスさん、こっちのテーブルにこれ運んでもいい?」

「シチュー美味しそうやなぁ!!あ、名前ちゃん、俺がそっち持って行くわー。やけどしたらあかんからなぁ」

「ありがとうトニーさん」

「はい、それじゃあ名前ちゃんはグラスと食器お願いね」

「はーい」


テーブルにシチューとサラダとフランスパンを並べて三人一緒に席につく。
「いただきます」と声を合わせて熱々のシチューを口に入れると、まろやかでこくのあるクリーミーな味が口いっぱいに広がった。
なにこれ、すっごく美味しい…!!


「相変わらずフランシスさんの料理はプロ並だよなぁ…シェフだよ、シェフ…」

「うまっ!ほんまうまいわーフランシス!!」

「沢山あるからおかわり自由だよー」

「やったー!ギルの分も残しておいてあげよっと」

「そういやアーサーって今日仕事?」

「うん。なんかまた出張で数日留守にするってさ。忙しい人だよねー」

「へーお偉いさんは違うよなぁ。あの小さかったアーティーも立派に次期社長って事か…」

「でも本人は乗り気じゃないんでしょ?」

「え、マジで…?」

「マジです。前にイギリスに帰って小さい雑貨屋でもやりたいとか言ってたような…一緒に行かないかって誘われた気がする、確か」

「え、ちょっ…それって…」

「ぶふっ!!カークランドが雑貨屋さんて似合わんなぁ!!」

「ああ見えて趣味刺繍だからね。ぶふっ」

「へーかわええやーん。ぶふっ!」

「アーサー…あいつ…」

「あれ、どうしたんですかフランシスさん。涙ぐんで」

「いや…シチューが…ちょっと熱すぎただけだよ…」

「ふーふーして食べなあかんでー」

「…うん」


フランシスさん手作りのシチューを堪能しデザートの絶品ミルフィーユも美味しくペロリといただいた。
本当にフランシスさの料理って美味しいなぁ…
一家に一人にフランシスさんが欲しいぐらいだよ。
いや、やっぱ無し。セクハラされちゃたまったもんじゃないや。
あれで変態じゃなかったらもっとモテるんだろうけどなぁ、フランシスさんは…。

夕方お腹をすかせて戻ってきたギルに暖めなおしたシチューを食べさせてあげると、「うんんめめぇええー!!」とガツガツとこぼしながら食べていた。
行儀悪いなぁ、この子は…


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