「わりぃ、今日のパーティーちょっと遅れて行くわ」

「え、なんで!?」

「後で本田と行くから」

「またお手伝いかー…。しょうがない…先に行ってるからちゃんと衣装着て後で来るんだよ?」

「おう」


そう言って朝から出かけて行ったギル。
私はというと、昨日のワインのせいで気持ち悪くて朝からダウン。
まぁ今日のハロウィーンパーティーは夕方からだしそれまで寝てても大丈夫だよね。

随分と長く睡眠をとり、シャワーを浴びると頭がすっきりした。
さて、そろそろ衣装着て準備しないといけないんだけど…。


「本当にこれを着るのか…」


ひらひらと揺れる黒くて短いスカートととんがり帽子…。


「ええい、覚悟はもうできている!!どうにでもなれ!」


長い手袋に腕を通し、胸元に赤いリボンのついたポンチョを羽織る。
ついでにピヨちゃんにもお揃いのとんがり帽子を被せれば準備は整った。


「アーサーくーん。準備できたからそろそろ出かけようかー」

「あぁ、俺も今ちょうど誘いに行こうとしてたとこ…」


海賊の衣装に身を包んだアーサー。
私を見るなりピタリと動きを止めて目を見開いた。


「うん、何も言わないで」

「あ、あぁ…いや、似合ってるぞ…」

「そりゃどうも。それじゃあ行こうか」


コートを羽織ってなるべく目立たないよう衣装を隠した。
アーサーの車に乗り込んでアンダンテへと向かう。
カボチャのランタンで入り口を飾りつけされたアンダンテは早くも多くの人で賑っているようだった。


「い、今更だけどお前少しスカートの丈短いんじゃないか?しゃがんだりしたら見えるんじゃないのか!?ちょっと試しにしゃがんでみ「店の前で何やろうとしてんの海賊紳士」


過保護だなぁアーサーは…
少し躊躇いつつも勇気を振り絞って店内に入ってみると、モンスターや魔女の衣装に身を包んだ人たちで溢れかえっていた。


「名前ーーっ!!」

「げふぁっ!!」

「やだもう可愛い可愛いすっごく可愛いわ名前!!やっぱり私が見立てた事はあるわね、本当に可愛い魔女っ子よ!!」

「く、くるし…胸、胸で潰され…!!」

「うーん、どっちも羨ましい光景だなぁ…」

「ちょっ、エリザちゃんどいて!!どいてぇな名前ちゃん見えへんくて俺泣きそうやぁああ!!」

「なんだお前らもう来てたのかよ…っていうかカリエド…お前その衣装どうした…」

「かわええやろ?知り合いに貸してもらってん、トマトの着ぐるみ」

「…昔は狂犬と恐れられていたお前が…」

「それを言うなよアーサー…」


エリザに思いっきり抱きしめられた私はなんとかその大きすぎる胸から解放された。


「あばっ…名前ちゃっ…めっちゃかわええ…」

「トニーさんはどうしたのその格好!?」

「トマトの着ぐるみかわええやろ?トマトちゃん言うらしいでー」

「可愛いけど!!可愛いけど!!ああもうトニーさんが一番可愛いよバカァアア!!」

「ちょっと落ち着こうか名前ちゃん!」

「あ、居たんですかフランシスさん。ドラキュラの衣装似合ってますね」

「ほんと?美女の血を吸うわるーいドラキュラ兄さんだよ〜。名前ちゃん吸われてみない?」

「アーサー、にんにく買ってきてにんにく。摩り下ろして鼻に詰め込んでやる」

「ひどっ!!そして一生トラウマになりそうな虐めはやめようね名前ちゃぁあああん!!」

「魔女っ子めっちゃかあえええええええええ!!!かーーーあーーーえーーーええええああああ!!!」

「落ち着けってお前…」


はぁはぁと息が荒いトニーさんがじりじりと私に近づいて来るのでアーサーが腰に挿していたレプリカの剣でトマトの着ぐるみを刺した。
ギャーギャーと喧嘩をしている犬猿の二人を無視してエリザと楽しい会話に花を咲かせる。


「そういえば他の皆はまだ来てないの?」

「ローデさんはあっちでピアノを弾いてるわよ。ふふふ、子供達に囲まれてるみたい」

「子供…?」

「子連れのお客さんもいらっしゃるからね。ピアノでこれ弾いてあれ弾いてって囲まれちゃってるみたい」

「そ、そういえばさっきから流れてる曲がアニメの曲だったりするよね…」

「ローデリヒさんったら…子供にも優しくてとっても素敵よね…。将来子供が産まれたらすごくいいお父さんになってくれると思わない?あらやだ、私ったらまたイケナイ妄想を…!!」

「乙女モード全開だね、エリザ…」


頬を赤くして「もぉお!!」と私の背中をバシバシと叩くエリザ。
うん。痛いです。凄く。


「あ、そういえば今日菊さんは一緒じゃないの?」

「うん、後で遅れて来るって。っていうかエリザ、ギルの事は聞かないんだね…」

「あら、あいつ居なかったの?気付かなかったわ」

「…ギル…」


報われないなぁ…。
エリザに軽めのシャンパンを貰ってしばらくアーサーとトニーさんのガンの飛ばし合いを見つめていた。
いやぁ、本当にチンピラ顔負けだよねあの二人。


「名前さーん!こんばんはー!」

「あ、ティノ君!!それにスーさんも!!」

「えへへ。お言葉に甘えて来ちゃいました!うわぁー名前さんすっごく可愛い!!」

「二人ともすっごくかっこいいよー!!ふふふ、スーさんのタキシードかっこいいなぁ」

「名前…」

「え、ちょっ、何すんのスーさん…?」

「スカート…短すぎんじゃねが…」


しゃがみ込んで私のスカートの裾をぎゅっぎゅっと引っ張り長さを調節しようとするスーさん。
いや、引っ張っても長くはならないと思うけど…。


「あら、その方たちが名前の同僚の…?」

「うん!こっちの可愛い子がティノ君で、こっちの大きい人がスーさんだよ」

「もう名前さん!その紹介の仕方やめてくださいよもう!」

「ティノはめんげぇ」

「ああもうスーさんまでぇえええ!!」

「まぁ…素敵なお友達ね!写真写真…」

「エリザ、どこからカメラを…?」


カメラを取り出し私達の姿を撮るエリザ。
ふふふ、スーさんとティノ君もここに来てくれるなんて嬉しいなぁ。


「そういえばさっきフェリちゃん達が来てたわよ?」

「ほんとに?どこに居るんだろ…」

「あぁ、あそこで女の子ナンパしてるのそうじゃない?」

「あー、うん。間違いな「ハッピーハロウィィイイイイン!!!!」もげふっ!!」


背中に圧し掛かる重みに耐えられず床に前のめりになって倒れこむ私。
この体当たりはだいたい予想がつくよ…こんな事するのアルフレッド君しか居ないもんね…


「やあ名前!!ヒーローの俺が来たからもう安心なんだぞ!!」

「いや、何が安心なのかも分からないしむしろ貴方に困らされてるんですけど」

「う、うわああああ!!うわっうわっうわぁああ!!なんだよ名前ーー!!この衣装すっごく可愛いじゃないか!!」


私の手を引っ張って立ち上がらせた某Sマークのヒーローの衣装を着たアルフレッド君は目をキラキラと輝かせて私の頭から足の先まで見つめた。


「うん、アルフレッドくんはかっこいいよー。スッパマン?」

「スーパーマンね。いやぁ俺のヒロインは相変わらず何着ても似合うな!!」

「それはどうも。マシュー君は一緒じゃないの?」

「あの…名前さん、僕さっきからここに居ます…」

「うわっ、マシュー君!?うあああ!!何それ、すっごく可愛いぃいいい!!!」

「あ、今日はクマ二郎さんとお揃いなんです」

「クマ二郎さんって…マシュー君が持ってるクマのぬいぐるみ?」

「はい、この子です」


クマの着ぐるみに身を包んだマシュー君の腕に抱かれた真っ白いクマさん。
うわぁ、可愛いなぁ…


「キヤスクショウカイシテンジャネーヨ」

「…へ?」

「うわぁああああ!!これは、その、腹話術!!僕このクマ二郎さん使って腹話術の練習してるんです!!」

「ナニアワテテンダヨ。メイプルバッカクッテルカラソンザイカンナインダヨオマエ」

「め、めいぷるっ!!!」


あれ…なんかあのクマが喋ってるように見えたけど…。
うん、まさかね。気のせい気のせい…。





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