「こんばんはー。本田さん居ますかー?」

「あら名前さん、こんばんは。ギルベルトさんですか?」

「はい。ちょっと様子見に来ただけなんですけど…」

「すみません、お手伝いさせてしまって」

「いえいえ。でもあいつ役に立てるんですか?」

「あー…まぁ、はい…まぁ上がってください」


夜も遅くなった時間に本田さんの家を尋ねに行く。
普段ならこんな時間に尋ねるのはあれなんだけど…またギルの帰りが遅いから様子見に来たんだよね。


「ギルー。頑張ってる?」

「ほぁああ!?お前なにしに来てんだよ!?」

「ちゃんとお手伝いしてるかなぁと思いまして…」

「来るなよアホ!!やってるっつーの」


本田さんの仕事部屋の机に座っているギル。
なーんだ、ちゃんと手伝ってるじゃん…


「送ってやるからさっさと帰れ」

「何それ。っていうかお前も帰り遅すぎるんだよ。待ってるこっちの身にもなってよねー」

「待たなくていいっつーの。帰れ帰れ」

「まぁまぁギルベルトさん。名前さん、もうすぐ終わると思いますので居間で待っていていただけますか?」

「分かりました」


本田さんのご好意に甘えて居間で待たせてもらう事にした。
居間に入ると畳の上に寝転がっている男の姿が…って…


「漫画家の担当ってそんな事してていいんですか」

「あ、名前さん。こんばんはっす」

「こんばんはっすじゃないでしょ!?何ゴロゴロしちゃってんの!?」

「だって暇なんだもん!」

「もんって何!漫画家があれだけ頑張ってるっていうのにこの担当は…こういうものなのかなぁこの業界って…」

「まぁまぁお茶でも飲んで落ち着いてくださいよ。俺の飲みかけだけど」

「いりません」


やたらと「名前さん面白いっすね」と絡んでくる本田さんの担当者小笠原君とどこか成立しない会話をしながらギルの帰りを待つ。

なんか押しかけちゃって悪かったかな…。
やっぱり一人で帰ろう。本田さんも大変なんだろうしギルが居れば少しは役に立つよね。

小笠原さんに「ギルに先に自分の家に帰るって伝えておいて」と伝言を頼みそっと本田さんの家を出る。

今夜も遅くなりそうだったら先に寝よう。
なんだか寂しいなぁ…。

マンションに戻り寝自宅を整えてベッドに入る。
目を閉じれば直ぐに睡魔が襲ってきて意識が遠のいていくのが分かった。


―バンッ


眠りにつく寸前、部屋のドアが勢いよく開かれる音が響いて冷たい空気が頬をかすめた。
え…何…?


「おまっ、なんっ…ちょっ…あー…」

「え…なに、ギル…?帰ってきたの?」

「帰ってきたのじゃねーよ!!おまえ、帰るって…!!」

「遅くなりそうだから先に帰ってきたんだよ。邪魔するの悪いと思って小笠原さんに伝言頼んでおいたんだけど」

「だってあいつ”名前さん実家に帰るとか言ってたっすー”って!!」

「……」


言葉の取り違いは仕方ないよ、うん…。
でも場の空気で察しろよ小笠原。
実家に帰るとか何?それでギルびっくりして慌てて戻ってきたの?


「いや、勘違いだからね!!小笠原さんの勘違い!」

「んだよそれ!?あーもう、マジでビビった…」

「私もびっくりしたからね、うん」

「本田ん家に携帯とか上着とか色々置いてきたまま帰ってきちまったぜ…」

「どんだけ慌ててんだこの子は。手ぇ冷たいし。忘れ物は明日でもいいんだからお風呂に入ってさっさと寝なさーい。明日もお手伝いするんでしょ?何やってんのか知らないけど本田さんのお手伝いなんだったら最後まできちんと手伝うんだよ」

「おぉ…」

「うん、いい子いい子」


ベッドに寝転んだままの状態でギルの頭を撫でてやるとベッドの淵に顎を置いてきゅっと目を閉じた。

ま、頑張ってるギル見るのなんて珍しいししばらくは応援してやるとするか。


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