夜遅くに学園祭の打ち上げのテンションのままに私の家に上がりこんできたアルフレッド君は「ダーイブ!!」と眠っている私のベッドに飛び込んだ。

その衝撃に強制的に目を覚まさせられた私は小一時間程度打ち上げでのアルフレッド君の武勇伝を聞かされた挙句最後に「お腹空いたから何か作ってくれよ〜」の上目遣い+おねだりで半眠りの世界へと舟を漕ぎながら夕食の残り物をレンジでチンした。


そんなわけで、朝目が覚めると時計の短い針が8を指している事に悲鳴をあげた私は大遅刻をかまし、上司に叱られている真っ最中なのである。


「本当に申し訳ございませんでした…」

「おめぇなぁ…気ぃたるんでっぺ?」

「ごもっともです…」

「罰として今日一日でこの仕事片付けんべ」

「は…って、ちょっと待ってくださいよこれデンさんの仕事じゃ…」

「はい上司命令!気張ってけ〜」


どざっと低い音をたてて机に置かれた書類の山。
ちょっと待って…これを片付けろと…?
一日で終わる量じゃないだろうこれは…!!
今日はローデリヒさんの誕生日だから帰りにプレゼント買ってアンダンテに行く予定だったのに…!!
ええい、こうなったら持てる力を使い切って時間内に終わらせるしかないな…!!


「だ、大丈夫ですか名前さん…」

「ティノくーん!いや、まぁ遅刻した私が悪いんだけどね…」

「名前が遅刻なんて珍し…」

「うん。実は昨日アルフレッド君の大学の学園祭でね?はしゃいじゃった挙句夜中に色々ありまして…」

「うわぁ…大変でしたね名前さん…。僕もこっち終わったら手伝うから一緒に頑張りましょう!」

「ん。三人でやりゃ早くおわんべ」

「ティノ君スーさん…本当にいつもありがとう…!!愛してるよ!!」

「こんな事ぐらいで愛を叫ばないでくださいよ〜!!」


スーさんとティノ君に半分手伝ってもらって、残りの半分を自分で片付けにかかる。
それでもかなりの量があるからなぁ…。
今夜は残業になりそうだ。

ローデリヒさんの誕生日プレゼント、何にしよう…。
大人の男性なんだし良いワインでもプレゼントしようかな。
後でデンさんにワインの良いお店がないか聞いてみよう。
あの人詳しいもんねーお酒については。

昼食もとらずにひたすら机とコピー機の間を行ったり来たりを繰り返し、私の仕事が終わるまで待っていると言ってくれたスーさんとティノ君に「大丈夫だから!」と断りを入れつつ、渡された書類の整理が終わる頃には窓の外は真っ暗になっていた。


「終わったー…」


うわー…私以外は誰も残ってないし…。
終わった書類をデンさんのデスクの上に置き、ホッと安堵のため息をつくと後ろからポンポンと誰かに頭を撫でられた。


「デンさん?」

「おぉー終わってんな。マジでこれだけの量一日でやったんけ、おめ」

「デンさんがやれって言ったんでしょうが…。まぁ半分はティノ君達に手伝ってもらっちゃいましたけどね」

「あいつらもお人よしだっぺ〜。そんじゃけーるか!!家まで車で送ってやっから着いてこ!」

「ええー!?いいですよ、帰り道反対方向なのに。それに帰りに寄らなきゃいけない場所が何箇所かあるので…」

「んなもん付き合ってやっぺ〜!どこさ行くんけ?」

「良いワインが手に入るお店と…あと行きつけのカフェにちょっと。どこかいいワインのお店知りませんか、デンさん」

「よっしゃ!んじゃデン様が連れてってやるっぺ」

「あ、ありがとうございます…」


結局デンさんの車で送ってもらう羽目になっちゃったのか…。
まぁいいか。ギルには駅までお迎え来なくても大丈夫ってメールしておこう。

デンさんお勧めの高そうなレストランへ行き、ワイン蔵からいかにも高そうなワインを選んでもらった。
オーナーがデンさんの知り合いだったらしくかなり安くしてもらえたんだけど…
デンさんに借りを作っちゃったなぁ…。

再びデンさんの車に乗り、アンダンテへ行くとローデリヒさんはピアノを弾いている真っ最中だった。


「あ、エリザ。この人が私の上司のデンさん」

「あら!いつもお話は聞いています。私はエリザベータと言います」

「おぉー美人な姉ちゃんだべ!」

「ちょっ、デンさんエリザに手ぇ出すのやめてくださいよ!?私の親友なんですから…指一本でも触れたら顔面グーパンチですからね」

「おっかねーなぁ!そういやプレゼント渡す男ってあいつけ?」

「はい。今日がお誕生日だからどうしても当日に渡しておきたくって」

「ふーん…」


出されたコーヒーを飲みながら店内の中心にあるピアノを眺めるデンさん。
それからここのブレンドコーヒーが気に入ったらしく、豆を持ち帰り用に注文していた。
皆好きだよね、ここのコーヒー。


「あら名前。昨日はどうも」

「ローデさん!こんばんは〜。誕生日おめでとうございます!」

「これは…?」

「お誕生日プレゼントのワインです。好きじゃない種類じゃなければいいんですけど…」

「まったくあなたと言う人は…いつもより遅い時間に来たかと思えばわざわざ私にプレゼントを渡す為に来たのですか!女性が遅くまで家に帰らず寄り道なんてしてはいけませんよこのお馬鹿!」

「えええ!?こんな日にお説教ですか!?」

「まったくもう…ですがこのワインはありがたく受け取らせていただきます。わざわざありがとうございます」


コホンと咳払いをしたローデリヒさんは少し頬を赤く染めていた。
なんだ、照れ隠しだったのかな。
素直に喜んでくれればいいものを…。
あれか、ツンデレなのかな。
頬を緩ませながら「ローデさんもけっこうツンデレなんですかね?」と聞くと脳天に貴族チョップを食らわされた。
全く痛くないけどね。

家に帰る頃には随分と遅くなってしまい、昨夜から不機嫌続きのギルと今日一日ここに居たらしいアルフレッド君が玄関先まで迎えに来てくれた。

遅めの夕食をすまし、肩が凝ったと呟けば「俺が叩いてやるんだぞ!!」とアルフレッド君の拳が私の肩めがけて振り下ろされた。
間一髪の所でギルが私の体を引っ張ってくれたから助かったけど…アルフレッド君の拳がそのまま地面に当たって軽い地響きがしたよ。
私の肩破壊する気だったのか、この子…。


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