「ギルー、ほらギル起きて。学園祭二日目も見に行くんでしょ?」

「眠い…だるいから行きたくない…」

「何言ってんの!!アルフレッド君に見に行くって約束したんだからさぁ。ほら、起きて顔洗いなさい」

「めんどくせー…」


クローゼットから引っ張り出した服を投げつければのろのろと着替えを始めるギル。

今朝早くからやって来た本田さんとアーサーはキッチンのカウンターを使って優雅にモーニングティーを飲んでいた。


「この朝の風景…いいですねぇ。名前さんに起こしていただけるギルベルトさんが心から羨ましいと思いますよ」

「だな…。ん、菊もう一杯紅茶どうだ?」

「はい、いただきます。あぁ…アーサーさんの紅茶はとっても美味しいですね。他のどの紅茶を飲んでもアーサーさんの淹れてくださったものには勝てませんよ」

「そ、そうか…?い、いつでも淹れてやるよ…」

「ありがとうございます」


本田さん…。この間「萌えキュンメイド喫茶の眼鏡担当愛羅たんの淹れてくれる紅茶に勝るものはありませんんんん!」とか熱弁してなかった…?

歯を磨きながら眠り頭をコクコクと頭を揺らすギルの頭をスリッパで叩き準備を急がせる。
今日は向こうで皆と会う予定なんだけどなぁ…。
そういえばトニーさんはバイトがあるから遅れてくるとか言ってったっけ。

急ぎ足で大学へ向かうと、昨日より遥かに多い人ごみができていた。
うわぁ…皆探せるかなぁ…。


「とりあえずアルフレッド君のサークルの部屋に行ってみようか」

「だな。それにしても凄い人の量だな…」

「迷わないようにしなきゃねぇ…」

「あの、名前さん…」

「なんですか本田さん」

「大変申し上げにくいのですが…。早速ギルベルトさんのお姿が見えなくなってしまいまして…」

「はぁああああ!?」


勢いよく振り返ってみると、ついさっきまでそこにあったギルの姿がどこにも見当たらない。


「あんの馬鹿何やってんのぉお!?」

「どうせその辺でうろうろしてんだろ。ほっとけあんな奴」

「えー…もう…。とりあえずアルフレッド君のとこ行こうか。それからギルの携帯に電話してみるよ」

「そうですね。ここじゃ私達も逸れてしまうかもしれませんし…」


まったくギルは世話のやけるやつだなぁ…。
三人でアルフレッド君のサークル室へ向かうと、中では忙しそうにサークルメンバーの人たちが走り回っていた。


「あ、マシュー君!」

「え…?あっ、名前さん!」

「ごめんねー忙しい時に。アルフレッド君居るかな?」

「あ、うん。ちょっと待っててね…。アルぅー!!名前さんだよ〜!」

「なんだって!?」

「ちょっ、うぁあああ!!」


何か荷物を運んでいたアルフレッド君はこちらを見るなり持っていた機材らしき物を近くに居た男の子に押し付けてこちらに走ってきた。
…大丈夫かな、押し付けられちゃった子…。


「やぁ名前!遅かったじゃないか〜!それじゃあ二人で一緒にラブラブ学園祭デートにレッツゴー!」

「何がラブラブデートだよ!俺らが居るのが見えねーのかお前は!!」

「あれ、居たのかいアーサー。あー…そうだな、君達はその辺で遊んでくるといいよ。はい、これあげるから」

「ん?なんだよこれ…」

「友達がやってる模擬店の割引券さ!それじゃあ名前、行くぞぉおおお!!」

「ちょっ、そんなに引っ張らないで腕抜けるぅううううう!!」

「あっ、待てお前ら!!」

「行ってしまわれましたね…」

「ちくしょう…なんでいつも俺ばっかこんな目に…」

「貴方充分美味しいとこ取りしてると思いますけどねぇ」


アルフレッド君に手を引かれたままやって来た野外。
ああもう、ギル探さなきゃいけないのに…


「さーて、まず何を食べようか?お腹ペコペコなんだぞ!」

「あのさーアルフレッド君。実は来る時ギルと逸れちゃってね…。今携帯に電話してみてるんだけど全然出てくれないわけよ。だから探さなきゃいけないわけでして…」

「それじゃあギルベルトを探しながら食べ歩きすればいいんじゃないか!これぞ一石二鳥さっ!」

「それもそうか。あ、あそこのクレープ昨日も食べたけどすっごく美味しかったよ〜!」

「よーしそれじゃあまずあそこからだ!」


楽しそうだなぁアルフレッド君。
クレープ屋さんの列に並び「超特大サイズで!」と無茶な注文をしたアルフレッド君は色々と凄いよね、うん。
クレープを作っている女の子はやれやれとアルフレッド君の事をよく知っているような様子でクレープを何枚かに重ねて普通より大き目のクレープを作っていた。


「良かったね、大きいの作ってもらえて」

「あぁ!名前のも美味しそうだなぁ…一口もらってもいいかい?」

「えー…アルフレッド君の一口大きいからなぁ…。全部食べちゃわないでよ?」

「あぁ!いただきまーす!」

「ぎゃぁああああ!!!」

「んー!おいひい」

「わた、私のクレープ…!!」


アルフレッド君の前に差し出したクレープは見るも無残に半分以上を奪い取られ、おまけにクレープを持っていた指まで齧られてしまった。
どんだけ食いしん坊なのこの子…!?


「テメェ…私のクレープ…こんなに小さくなって…」

「NOOOO!!怖いよ名前!!Sorry謝るから許してお願いーっ!!」

「甘い物の恨みは恐ろしいよアルフレッド君…さぁ、覚悟してもらおうか…」

「あー、あれ!!お好み焼き!!あれ奢るから許してくれよお願いだから!!」

「…よし、許そう」

「はぁ…君が単純で本当に良かった」

「アルフレッド君に単純って言われた…なんか死にたい…」

「HAHAHA。どういう意味だいそれ」


乾いた笑いでぎゅーっと頬をつままれる。
仕返しにお腹の肉を摘んでやると「酷いよ名前!」と涙目になっているアルフレッド君がなんだか面白くって笑いが止まらなくなってしまった。


「アハハ。ほら、お好み焼き食べよう」

「むきーっ!ったく名前には敵わないなぁもう…。よーし、お腹いっぱい食べるんだぞ!!」

「すみません、お好み焼き2枚くださーい」

「2枚なんかじゃ足りないぞ!10枚で頼むよ」

「そんなに食べるのぉおお!?今クレープ食べたよね!?」

「はいお好み焼き10枚入りましたー!」

「よっしゃー!おおきになぁー!」


本当に10枚も食べられるのかなアルフレッド君…。
ん…?っていうかさっきの「おおきになぁー」って声どこかで聞いたことのあるような…。


「って、トニーさんんんんん!?」

「あぁ、名前ちゃんやん!」

「えええ!?なんで中でお好み焼き焼いてんのトニーさん!?」

「いやぁ、たまたまバイト早く終わってこっち来たんやけどここの前通ってちょっと覗いたら全然コテ使いがなってなくてなぁ〜。今親分が本場の技っちゅーもんを見たりよったところやねん!鉄板の前に立つと関西の血が騒ぐわぁ…」

「いや、トニーさんスペイン人だからね!?」

「アントーニョさんのアドバイスのお蔭で売れ行きもすっごく良くって…!あ、良かったらこれ持って行ってください」

「え…いい、のかな…」


大量のお好み焼きを渡されて輝かしい笑顔まで向けられてしまった。
な、なんか輝いてるなぁ皆…。
トニーさんの商売魂に感化されちゃったのか…。


「よっしゃーじゃんじゃん焼くでー!お客さんは神様や!元気に挨拶、笑顔で商売!」

「「はい、アントーニョさん!」」


…トニーさん…。なんだかよく分かんないけどかっこいいよトニーさん…!!
頭にタオルを巻いた輝くトニーさんに手を振ってお好み焼き屋の前から立ち去った。
うん、トニーさんのかっこいい姿が見れて満足だ。


「どこかで座って食べようか!」

「そうだね。それにしてもギル見つからないなぁ…」

「あー、そういえばどこかにフェリシアーノの兄弟がやってる店みたいなのがあったな。もしかするとそこに居るんじゃないかい?」

「へぇー、フェリ君達何かやってるんだ。見に行きたいなぁ」

「すぐ近くだから見に行ってみようか!」

「そうだね」





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