「いや〜すっかり熱も下がったし元気になっちゃったよ」 「早っ!!お前治るの早すぎだろ!?」 「疲れが溜まってただけだしゆっくり休めば治るもんだって。あーお腹すいた。甘いもの食べたーい」 「またかよ。お前太るぞ」 「う…。ちくしょう、なんでお前は食っちゃ寝してるくせに太らないんだ…」 「体の造りが違うんだよ。俺の体は美しく保たれるようになってるからな!」 「うげー死ねよお前」 ほんと太らない人ってうらやましすぎるよなー。 隣に住んでる奴もいくら食べても太らないとか言ってたし・・・ ちくしょう、本当に羨ましい… 「ちょっとカロリー控えた方がいいかな…」 「それじゃあ逆に胸が縮むんじゃね?」 「そうかもー…って納得すると思ってんのか糞野郎」 「いだっ!!頬引っ張んな痛い!!」 「おー伸びる伸びる。まるでギルちゃんの頬っぺたはお餅みたいでちゅねー」 「てんめぇ馬鹿にしてんのか!?」 「うん」 「なっ…!!!」 「やーいやーい悔しかったらやり返してみやがれってんだー」 熱も下がって本調子の私はやたらテンションが高かった。 うぎぎぎと鳴いているギルの頬をぐいぐいと引っ張りながら「かわいいなぁ」なんて思って呆けていると、ぐるりと天と地が入れ替わった。 え? 急な事で状況が理解できない。 目の前には天井と、私を見下ろしているギルの姿があって へ? 「マヌケ顔だぜ」 「あの、ギルさん…これはいったいどんな状況で…」 「お前がやり返してみろって言ったんだぜ」 「いや、そりゃそうだけど…」 なんだ、この状況。 ギルが私の上に馬乗りになって… これじゃあまるで、 「うぎゃぁぁあああ!!犯されるーー!!!」 「だっ誰が犯すかお前みたいなペチャパイ女ぁあああ!!」 「あ、やっぱり違うんだ」 「なっ…!?」 「じゃあなんなのこのマウントポジション。このままフルボッコですか?」 ってゆーかこれ、誰かに見られたら完璧に勘違いされるよね。 そんなタイミングを見計らってかどうかは分からないが、玄関の扉が勢いよく開かれた。 「ハロー名前ー!!!遊びに来たんだぞーー!!」 「だ、だめだよアル!!いきなり入っちゃ名前さんにめいわ…くが…」 突如現れた眼鏡の双子。 状況を見た弟であるマシュー君の顔は真っ青からほんのりピンクに変わっていく 「あっわぁああ!!すみませんすみません!!!おっ大人の時間を邪魔しちゃってごめんなざいいいーー!!」 「いや、これは違うよマシュー君。これはプロレス」 「プロレスー!?」 「なんだ、俺はてっきりその男が名前を襲ってるのかと思ったぞ!!もう少しで俺の右拳が彼を殴っているところだったよ!いやー良かった良かったー!!!」 プルプルと震えている拳を反対の手で押さえつけたアルフレッド君はHAHAHA!!と大きな声で笑った。 え…?空気読めない子なんだよね? ちょ…もしかしてあえてのKYですか…? 「名前ーお腹すいたんだぞ。プロレスなんて後でいいから何か作ってくれよー」 「あ、うん分かった」 目を点にして固まっているギルを押しのけて隙間から這い出る。 マシュー君が恐る恐る「大丈夫ですか?」と首をかしげて手を差し伸べてくれた。 「大丈夫だよ。ありがとね」 「いえ…」 「名前ー俺ホットドックがいいんだぞ!」 「そんなのないよー。ホットサンドでもいい?」 「チーズはたっぷり入れてくれよ!!」 「はいはーい」 初めて来たとは思えないほどくつろいでいるアルフレッド君はギルを完全に無視してテレビをつけた。 マシュー君もオロオロとしていたが、少し悩んでからアルフレッド君の隣に座った。 哀れ、ギル。 「はいどうぞー。特製ホットサンドだよー」 「HOOOO!!!すっごくいい匂いじゃないか!!いっただきまーす!!」 アルフレッド君はものすごい勢いでホットサンドをたべた。オマケにマシュー君の分にも手を伸ばしていたので「まだあるからね」と言ってやると「そうかい。じゃあマシューは後のやつを食べるといいよ!」と言ってマシュー君の分を綺麗に平らげた。 「男の子ってよく食べるなぁ」 「あいつが食いすぎなんだよ!!てか誰だあいつら!?」 「あ、復活したんだギル。あの二人はアーサーの弟だよ」 「はぁ!?弟絶対嘘だろそれ!!」 「なにを根拠に」 「だって眉毛が!!」 「あーなるほど」 「あんな眉毛野郎と一緒にしないでくれよ。それに義理の弟なんだからな!」 「義理…?」 「まぁ後で説明してあげる」 焼き終わったホットサンドをギルの口に突っ込むと「あっふぃいいい!!!」と涙目になっていたが、めんどくさいので無視した。 「で、名前」 「んー?」 「その男は誰なんだい?」 「アル、そんな野暮な事きいちゃいけないじゃないか」 「いやマシュー君、ただの居候だからね。何もないから。ただ住まわせてるだけでそれ以上でも以下でもないから」 なんか最近こういう事多くて慣れてきたよなー… 「えーずるいよ。だったら俺もここに住まわせてくれてもいいじゃいか!ここからなら大学も近いし!」 「いいけど隣人はアーサーだよ?」 「うげー…出てってくれればいいのになぁあいつ」 「きっと毎日押しかけられるからやめておいた方がいいと思うよ」 「チェッ」 ブーブー文句を言いながらアルフレッド君は通算8個目のホットサンドに手を伸ばした。 「あ、そういえば今日何しに来たの?」 「暇だったから遊びに来たんだぞ!!卒業してから暇で暇で毎日時間を持て余してるのさ」 「そっか、でももうすぐ入学式なんだよね?何か入学祝あげないとな〜」 「ビデオカメラがいいんだぞ!!」 「んー、それはアーサーにねだってとみるといいよ。お兄ちゃんって呼べば猛ダッシュで買いに行くはずだから」 「HAHAHA本当に気持ち悪いなぁアーサーは!!!」 「あれでも結構弟の事心配してるんだから会いに行ってあげなよ?もしかしたら既に入学祝とか用意して待ってるかもよ」 「どーせ万年筆とか古臭いものに決まってるさ」 うん、反論はしない。 「おいテメェ。俺のソファー陣取ってんじゃねーよ!」 「WHAT?」 「ワットじゃねーよ!!そこは俺の場所だっつーの!!」 「でもここは名前の家だろう?」 「こいつの物は俺の物だぜ!」 「何そのジャイアニズム。ギルは大人しく七並べてもやってな、一人で」 「一人で七ならべって何だよ!?できねーよ!!」 「じゃあ一人オセロ」 「テメェええ!!普段大人しくしてりゃぁ調子に乗りやがって!!いっぺん焼き入れないと分かんねぇみたいだな!!」 げしっ 低い音を立てて私の背をギルが軽く蹴り飛ばした。 「…二人とも、ちょっと私の部屋行っててくれるかな?」 「どうしてだい?」 「私の部屋に漫画が置いてあるから暫くの間読んでて」 「漫画かい!?俺大好きなんだよー!!よーし行くぞマシュー!」 「うん!」 さぁ、最近甘やかしすぎて調子に乗っちゃったプー太郎に躾をしなきゃいけないね 二人が私の部屋に入ったのを確認して、ゆっくりとギルの方へ振り向いた 「ギルベルト」 「な、なんだよ…」 「舌噛むなよ」 振り上げた右足がギルのみぞおちへ綺麗に入る 「うげっ…げほっ…お、おまっ!」 「調子に乗るとどうなるか教えてあげなくちゃね、ギルベルト君」 「ヒッ…!!」 短く悲鳴をあげたギルの胸倉を掴んで引き寄せる。 それからの事は詳しく言わなくてもだいたい予想はつくだろう。 「二人ともー。ジュース入れたからこっちおいで〜」 「イエーイ!!ちょうど喉が渇いてるとこだったんだぞ!」 「はいどうぞ」 「サンキュー!あれ?あのギルとか言う男あんな所で何をしてるんだい?ベランダで布団みたいにぶら下がってるぞ」 「ああ。趣味だから。Mだからああやって自分を窮地に追い込んでるの。気にしなくていいからね!」 「そうか!Mなりの一人プレイなんだな!!初めて見たよ!!」 「うん」 「え…?あれってプレイなの?」 「あれ、マシュー何時から居たんだい?」 「最初から居たよ!!!」 それから三人でDVDを見て、夕方になると二人は満足そうに「また来るからな!」と笑って帰っていった。 ベランダに干してあるギルを引っ張ってソファーの上に座らせると、ひねり出すような声で「ご…ごめんなさっ…」と涙をぼろぼろ流していた。 んー、ちょっとやりすぎたかな…。 ま、たまにはいいよね! ・ ←|→ |