俺とした事が…うかつだった。


「それじゃあお粥コンロの上に置いておくからね。あんまり時間が空くと水気がなくなっちゃうと思うからなるべく早めに食べるんだよ」

「あぁ…朝から悪いな」

「何水臭いこと言ってんの!声ガラガラだし熱も高いんだからちゃんと寝てるんだよ?パソコン開いて仕事なんてしないように!分かった?」

「あぁ、分かった」

「それじゃあ行ってくるねー。たまにギルに様子見にこさせるから。私もなるべく早く帰ってくるよ」


ポンポンと名前の柔らかい手が俺の頭を甘く叩いた。
風邪を引いて昨晩から名前に色々世話になっているわけなんだが…

な、なんだか満更でも無いよな…むしろ名前に何かと世話してもらえるし昨晩もなかなかいい思いをさせてもらった。
念願の名前の「あーん」…

あぁ、俺もうずっと風邪のままでもいいかもしれない


「まっゆーげくーん、あっそびましょー」

「ジュース切れたんだけどなんかねーのかよお前ん家。あ、勿論お前の手絞り以外な」

「なぁなぁこんなの放っておいて公園に遊びに行こやー。俺いま久しぶりにブランコ乗りたいねんブランコ」

「帰れ変態三馬鹿トリオ」


チャイムも鳴らさずにずかずかと入り込んできやがった馬鹿三人に俺の幸せを崩された気分になった。
っていうか鍵かかってんのになんで入ってこれるんだよ!?


「名前から鍵預かったぜ。たまに様子見に行けって」

「そ、そういえばそんな事言ってたな…」

「なんだアーサー、風邪ひいたのか〜?珍しいじゃんお前が風邪なんて」

「うるせーよ髭…朝飯食うんだからさっさと帰れよ!!」

「んー?朝飯ってこれかいな。お粥…?」

「触るなんじゃねーよ。お前らは公園で缶蹴りでもしてろ」

「言われんでもそうするわ。こんなやつ放っておいて行こかー二人とも」

「そんじゃあなアーサー」

「ちゃんと寝てろよ。じゃねーと俺があいつに怒られんだからな風邪引き眉毛」

「テメェも病み上がりだろうが!!二度と来んなスットコバカ!!」


ったく朝からくだらねーことしやがってあの三人!
騒いだから余計に熱が上がった気がする…
朝食とって寝るとするか



「うーん…」


寝付けない…
なんていうか、体がすごく熱い。
水枕、朝名前が変えてくれたっきりだったよな…
喉も渇いたし何か飲み物…


「うわっ!?」


ふらふらとした足取りで水枕に新しい水を入れていると体のバランスを崩して地面に尻餅をつく。
やべ…水浸しじゃねーか
名前が居ないと何もできないなんて情けないよな、俺…


「とにかく、着替えねーと余計に悪くなる…」


だんだんと朦朧とする意識で寝室に戻る。

…ダメだ、眩暈がして…。

最後にガチャンと扉の開く音が聞こえ、意識が途切れた。







「ん…」

「あ、気がついた?」

「名前…」

「気分はどう?」

「あぁ…ちょっとだるいな…」

「そっか。急に熱が上がっちゃったんだね。ギルが床で倒れてるアーサー見つけて私に電話してきてさぁ。すっごい慌てた様子だったからビックリしたよ」


俺倒れたのか…。
ほんとに情けねーな…くそっ…


「名前ちゃん、アーサー起きた?」

「うん。まだちょっと熱高いみたいですけど」

「しょうがいなぁアーティー坊やは…。何か食べたい物とかあるか?」

「食欲ねーよ…っていうかなんでまたお前がいるんだよ」

「お前をベッドに運んだの誰だと思ってんの…。ほら、お前の好きなシチュー作ってやるからもう少し寝てな。名前ちゃん、こいつの頭でも撫でてやってねー」

「アイアイサーシェフ」

「ばばば、馬鹿言ってんじゃねーよ髭!!」

「こら、騒ぐとまた熱上がるよ」


ベッドの淵に腰掛けて俺の肩を押し体を横にさせた名前は小さくため息をついた。


「わ、悪いな…。お前昨日もあいつの看病してて疲れてるよな」

「んー?そうでもないよ。アーサーが倒れたって聞いてすっごくビックリしたからさぁ。今はもう大丈夫そうだしホッとしただけ」

「そうか…」

「アーサーが無事で良かったよ。私っていつもピンチの時にアーサーに助けてもらってるもんねー。こんな時ぐらいいっぱい甘えてくれていいから。何かしてほしいこととかある?」

「してほしいこと…」


その言葉に思わず息を呑んだ。
いや、べつに疚しい事を考えてたとかそんなんじゃないからな。


「あの…」

「なに?」

「…手、握っててもいいか?」

「いいよ。ほい」


何の疑いも無く俺の指に細くて小さな指を絡めた名前は「手ぇあついなぁアーサー」とのん気に笑った。
人の気も知らないで…。

まぁ、こんな時ぐらいたまには素直になって甘えてみる物いいかもしれないな。


「あー!!カークランド!!お前何名前ちゃんの手ぇ握ってんねん!!」

「お前も居たのかよ!!帰れトマト男!!」

「嫌ですぅ〜!今からフランシスのシチュー食べるんですぅ〜。名前ちゃん、そないなやつ放っておいてこっち来てやー!」

「ダメだよトニーさん。アーサーは病人なんだから労わってあげないと。ほら、アーサーも騒いでないで寝なさい」

「あぁ…。ね、眠れるまで手ぇ繋いでてもいいか…?」

「いいよ。よしよし」

「おひゃぁあああああ!!!ちょっ、なんっ、羨ましすぎるっちゅーねん眉毛ぇええええ!!名前ちゃんの撫で撫で…!!」

「何騒いでんだよアントーニョ…。って、あ…」

「ギルも騒ぐんじゃないよ。っていうか二人ともあっち行ってフランシスさんの手伝いでもしてなさい」

「あー…ええなぁ…いっそ俺も風邪ひきたいわ。あ、でも俺風邪なんか引いたことないんやった」

「どんだけタフなんだよ。…ちくしょう…俺だって昨日はアレだったんだぜ、アレ」

「アレってなんやねん」

「まぁ、色々だよ色々」


悔しそうな顔で立ち去った馬鹿二人の背中にニヤリと勝ち誇った笑みを送り、握られている左手をぎゅっと握り返す。

あぁ…たまには風邪ひくのも、悪くないよな…


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