「んー…まだ熱あるなぁ…」


眠っているギルの体温を計れば昨晩よりはずいぶんましになったものの、まだ油断はできない高さだ。
どうしよう…私今日も仕事あるしなぁ…。
頼みの綱の本田さんには連絡つかないし…。
しょうがない。一日仕事お休みさせてもらうか。
デンさんに怒られちゃいそうだなぁ…

会社に休みの電話を入れてスーさんとティノ君にもメールを送る。


「よし。朝ごはんにでもしようかな」


そういえば昨日買い物に行ってないから冷蔵庫空っぽだなぁ…。
買い物に行かないと。


「ピヨちゃん、ちょっと買い物に行ってくるからギルの事お願いね」

「ピッ」


陽の当たる場所で丸くなっていたピヨちゃんに声をかけ、財布を持って家を出る。
ギルの体にいいものも買っておかないとね。


「…ん?」


近くのトニーさんが働いているスーパーまでの道中、ピンクのワンピースを着た女の子がオロオロと何かを探している姿を見かけた。


「あのー…何かお困りですか?」

「あ…」


私の声に反応して振り向いた女の子は髪にリボンをつけたとっても可愛い少女。


「あの…お財布を落としてしまったようで…。先ほどから探しているのですがどこにも見当たらず…」

「そっか…私も一緒に探すの手伝おうか。二人で探した方が早くみつかるかもしれないしね」

「そんな…申し訳ないです」

「気にしなくていいよ。どっちから歩いてきたの?」

「ありがとうございます。あちらから来たのですが…」

「それじゃあ来た道を戻りながら探してみようか」

「はい」


小さく微笑んだ女の子はもう一度「ありがとうございます」と頭を下げた。
歳はまだ中学生くらいかな…。
平日だけど学校とか大丈夫かのかなぁ…。
おっと、今はそんな事考えてる場合じゃないね。
お財布お財布…


「あった!これじゃない?」

「あっ…!そうです、これです…!」

「良かった〜!!やっぱり来た時に落としちゃったんだね。中身も無事?」

「はい、大丈夫のようです」

「誰にも拾われなくって良かったね」

「あ…ありがとうございます」


うんうん、見つかって良かった。


「それじゃあ私はこのへんで。今からスーパーに行かなきゃならないから…」

「あ…もしかして近くのスーパーでしょうか?私も今からあちらに向かう所でした」

「それじゃあ一緒に行こうか」

「はい。ご一緒させていただきます」


うん、可愛いなぁ。
小さくてふわふわしてて妹って感じがするよ…!
いや、私は断じて本田さんのようなロリコン妹萌えではないぞ。


「あ、私は名前って言います。いつも平日は仕事なんだけど今日はちょっと用があってお休みしてるんだ」

「私はリヒテンと申します…。あの、名前様…」

「名前でいいよ」

「では名前さん…。以前に一度私とお会いした事はないでしょうか…?」

「え…?どうだろう…。ごめんね、覚えてないみたい」

「そうですか…。どこかでお会いした気がしたのですが…」

「リヒテンちゃんはこの近くに住んでるの?」

「はい」

「私もなんだー。もしかしたらどこかで会ってたのかもしれないね」

「えぇ、そうですね」


リヒテンちゃん…もとい、リヒちゃんと一緒に楽しくお喋りをしながらスーパーまでやってきた。
朝という事もあってかお客さんも少ない。
二人で世間話をしながら買い物を済ませ、来る途中リヒちゃんと出会ったあたりでお別れをする。
可愛いくていい子だったなぁ…。

さて、帰って朝ごはん朝ごはん!!



「あれ、ギル起きてたの!?」

「やっぱお前仕事休んだのかよ…。つか出て行くなら書置きぐらいしろよな」

「ごめんごめん。ギルが起きる前に帰ってこようと思ってたんだけどね。っていうか起きててないでちゃんとベッドに居なきゃだめでしょーが!」

「もう大丈夫だっつーの」

「嘘言え。今朝計ったらまだ熱高かったよ。朝ごはん作ってあげるからベッド戻りなさい」

「和食が食いてえ」

「はいはい分かったから」


和食が食べたいって…。風邪ひいてるんだから体にいいもの食べた方がいいのになぁ。
まぁわりと元気になってるみたいだし食べたいものがあるって事は食欲もあるって事だよね。
お味噌汁と焼き魚でも作ってやるか。



「ほーい、お待たせ」

「腹減ったぜ!!」

「なんだ…すっごい元気じゃん」

「だから大丈夫だっつってんだろ!」

「なら良かった。それじゃあこれここに置いておくから食べてね」

「え…」

「えっ、てなんだよ」


すっとんきょな声を出したギルは慌てた様子て「あーなんか急にめまいが!」だの「体重くて動かせねーぜぇー…」だのと唸り始めた。
なんなんだこいつ。


「なら朝ごはんやめておく?」

「いや、食べる。食べるけど体だりい」

「しょうがないな…ほら、あーんしろ、あーん」

「ケセセ!しょうがねーからあーんさせてやるぜ!」

「病人じゃなかったら何発か殴ってやりたいところだよ」

「うめー」

「それは良かった」


ギルの口に餌を放り込みながら私も一緒に朝食をすませる。
さて。何しようかなぁ…。
ギルも元気になったみたいだし今から仕事に行く事もできるんだけど…


「ねえギル、今から私仕事行ったらどうする?」

「は?休んだんじゃねーのかよ」

「休んだけど…ギルも元気になったみたいだし今から行っても午後の仕事には余裕で間に合うし」

「…お前がそうしてーならべつにいいけど」


さっき飲んだ薬が上手く飲み込めなかったのか、胸をとんとんと叩いたギルは少し不機嫌そうな顔でそっぽを向いた。
なんだ、やっぱり寂しいんじゃん。
せっかく休みとったんだし今日は一日ギルの傍にいてやるとするか…


「やっぱり今の無し。今日は休みだ!」

「何だよそれ!いい加減だなお前!」

「いい加減でけっこうですー。ほら、薬飲んだら寝る!」

「昨日から寝てばっかりなのに寝れるかよ!つかテレビ見てぇ」

「ったくもう…。見てもいいけどちゃんとソファーで横になってるんだよ?」

「おー」


パジャマのリビングのソファーに寝転がるギルの体に毛布をかけ、自分はソファーの足を背にして地面へ座りテレビを眺める。
この時間って主婦向けの番組多いよね。
あ、ワイドショーやってる。


「この芸能人離婚したんだ」

「知らなかったのかよ?」

「うん。なんていうか芸能人同士の結婚って長続きしないイメージあるよねー。やっぱり生活のリズムが違ったり仕事での擦れ違いとか多いのかな」

「そうなんじゃねえ?あんま興味ねーけど」

「だよねー」


なんだか平日のこんな時間にまったりするのって変な感じ。

ふと後から感じる違和感に気が付く。
ソファーで横になったギルが私のすぐ後で私の髪をいじって遊んでいた。


「何やってんでい絡まるだろーが」

「なんかむしょうにお前をおさげの女にしてやりたくなったぜ」

「何だよそれ」


まったくわけわかんないよーこの小学生みたいな子。
その後も何かと構ってくるギルの相手をしながらも本を読んだり何時もは見れないような番組を見てゆっくりと一日を過ごした。

夜になると、ギルの熱もすっかり下がってホッと一息。


「さあー!今日はギルの復活祝いだ!!沢山作ったから沢山食いやがれ!!」

「おぉー!!芋!!ビールよこせ!」

「お酒はまだだめ。病み上がりなんだから」

「ちくしょぉおおおお!!」

「アーサーまだ帰ってこないのかなぁ…。今日は遅くなるって連絡はいってないからいつも通りに帰ってくると思うんだけど…」


―ピンポーン


「お、帰ってきたんじゃね?」

「みたいだね。はいはーい今開けるよー」


早足で玄関に向かい扉の鍵を開ける。
さぁ、今日は三人で楽しく夕食を食べようじゃないか!!


「……ゲホッ」

「……アーサー君…?」

「か、風邪ひいた…。昼ぐらいから熱があって…体だるい…」

「テメェもかぁああああ!!」

「なっ!?なんで怒るんだよ!?お、俺が風邪ひいちゃダメなのかよバカァ!!」


どいつもこいつも…!!
嫌がるアーサーを無理矢理着替えさせアーサー宅のベッドへ沈める。
ギルの時と同じように作ったお粥を食べさせてやると顔を真っ赤にさせながら「う、美味いな…やっぱりお前の料理が一番美味いな、うん」とデレだ。
いや、お粥は誰が作っても同じだと思うんだけどね。

それにしても同居人と隣人が風邪ひいてるって言うのに私は全くもって平気だなんて…。
どんだけ体が丈夫にできてるって言うんだ、私は。

まさか二日続けて病人の看病をする事になろうとは…。
しょうがない、大事なアーサーの為に今夜はつきっきりで看病してやるとするか。



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