「ただいまーギル!」

「さみぃ…」

「あれ、なんか顔赤いじゃん。大丈夫?」


いつものように駅まで迎えに来てくれたギルの顔を覗くと頬が赤く染まっていた。


「ちょっ、ギルちょっとおでこ出してみ」

「んー…」

「うわー…熱あるじゃん…。お風呂上りに裸でウロウロするのが悪いんだよ。風邪だよ風邪」

「ちくしょー…体だりー…」

「早く帰って寝よう。お粥作ってあげるから」


とろとろと歩くギルの腕を引っ張って歩いて帰り、リビングに入るなりギルをパジャマに着替えさせて私のベッドで寝かせた。
病気の時はふかふかのベッドで寝てた方がいいもんね。


「ほら、お粥作ったよ。食べられる?」

「頭いてー…きもちわりい」

「薬飲まなきゃ治らないんだから。ほら、口開けてー」


レンゲですくったお粥をふーふーと息をかけて冷まし、ギルの口元へ持っていく。


「あーん」

「あー…」

「美味しい?」

「味わかんねーし…」

「そういうもんだよ。食べてる間にちょっと熱測ろうか」


体温計を脇の下に入れ、口を開けて待っているギルに再びお粥を与えてやる。
相変わらず雛に餌をやっている気分になるよなぁ、これ。


「計り終わったぜ」

「どれどれ…。38.2度か…けっこう高いよね。これから熱が上がるかもしんないなぁ…」

「っていうかもういいからお前あっち行ってろよ。風邪うつるだろ」

「私はタフだから大丈夫だよ」


一人用の鍋に入っていたお粥を食べきったギルに薬を飲ませて額に冷却シートを貼る。
あとは水枕…。あんまり風邪なんてひかないからこの家には無いよなぁ。
アーサーに借りたいけどこんな日に限って帰りは遅いって言うし…


「ギル、ちょっと待っててね。本田さん家言って水枕借りてくるから」

「ん…?本田は今いねーぜ」

「え、うそ!?」

「なんか資料の為にってどこかに撮影に行くとか言ってた気がする」

「あちゃー…。じゃあ水枕は無しだね。あと風邪ひいた時って何すればいいんだっけ…」

「あんま余計な事しなくてもいいぜ。寝てりゃ治るだろ」

「そうだ、ネギネギ!」

「それだけはやめろ!!」


ネギを首に巻けば早く治るって言うのになぁ…。
ギルが苦しそうにしてるって言うのに私何もできないじゃんか…。


「とにかくもう寝た方がいいね」

「あぁ」

「おやすみーギル」


頭を撫でて部屋の明かりを消し音を立てないようにそっと部屋を出る。
さてと…私も夕食にしようかな。

冷蔵庫にあったもので適当に作った夕食を平らげ、テレビもつけられていないリビングで読みかけだった本を開く。


「うーん…」


集中、できないなぁ。

しおりを挟んで本を閉じ、腰を上げて自分の部屋へと向かう。
そっと扉を開けてギルの顔を覗き込むと苦しそうな顔で息を荒くしていた。


「うわ…!熱上がってる…」


首筋に手を当てると明らかにさっきより熱くなっている。
ど、どうしよう…。
とにかく冷やさないと…!!

冷凍庫の中から氷を出して袋に詰めてタオルで包む。
首筋と脇の下に挟んではみたものの…。


「ん…」

「ギル、目ぇさめちゃった?」

「うっ…あつい…」

「さっきより熱上がってるみたいだね…。苦しい?」

「ちょっとな…」


これ以上私がしてあげられることもなく、ベッドの淵に座ってギルの胸の上でトントンと手を叩く。


「お前…」

「ん?なに?」

「いや…やっぱりいい…人間熱あるときとかって弱くなるとか言うけど本当だな…」

「なーに。今ならどんな事でもきいてあげるよー」


少し伸びて邪魔になっている髪を掻き分けてやると、そっと力の篭っていない手で私の手首を掴むギル。


「撫でられんの、きもちいい」

「そうか。ならもっと撫でてあげるから手ぇ離して」

「嫌だ」

「なんだよそれは」

「もう、離したくねぇ」


ぺたりと私の手の平を頬につけて、まるで小さい子供が母親の愛情に浸っているように微笑んで。


「よしよし。ちゃんと居てあげるから。たっぷり寝て熱下げなさい」

「んー…」

「ほら、おやすみ、ギル」


薄っすらと明けられていた目が伏せられて、すやすやと規則正しい寝息が聞えてきた。


「今夜はずっとこのままかなぁ…」


がっちり手ぇ掴まれたままだしね。
まぁ、可愛いギルの為だ。一晩ぐらい我慢してやろう。


「早く良くなるんだよ、ギル」


治ったらギルの好きな物いっぱい食べさせてあげるからね。

細く微笑んでふわふわと髪を撫でると寝言なのか、「名前…」とギルが小さく呟いた。



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