「えー、名前ちゃんおらへんのん?」

「女性だけでパジャマパーティーですか…。あぁ、その場に居れたらどれだけ幸せな事か!」

「だよなぁ…。一緒にご飯作ったりお風呂に入ったり。その後はむふふふ」

「きもいんだよ髭。如何わしい妄想してんじゃねーよオッサン」

「っていうか何でカークランドがおんねん。自分家帰れやー」

「お前が帰れ。トマト星に帰れよ」

「まぁぁま二人とも。喧嘩しないで仲良くしようよ〜」

「「黙れオッサン」」

「お兄さんね!!」


朝からわいわいと集まってきたむさ苦しい連中。
っていうか寝てるとこ無理矢理起こされたからすっげぇ眠いし…。
こいつら放っておいて名前のベッドで寝てやろうかな…


「そう言えば皆さん、アンダンテのコスプレパーティーのお話は聞きましたか?」

「え、コスプレパーティーなん?」

「いや、仮装パーティーだからね。大差ないように見えて大きな違いがあるよこれ。もちろんエリザちゃんから連絡もらって二つ返事で承諾したさ。お前らもお兄さんのかっこいい仮装が見たいだろ?」

「別に見たくないわ〜。もちろん名前ちゃんも行くんやろ?どんな仮装して行くんやろなぁ…」

「エリザベータが選ぶとか言ってたぜ」

「おぉ、エリザちゃんがねぇ…。お兄さんとしてはエリザちゃんにセクシーでギリギリな姿が見たいなぁ」

「ほんま変態やなぁお前」

「貧乳ロリコン好きのお前に言われたくなかったよ」


ったく俺ん家で変な会話しやがって…
それにしても名前のやつ帰り遅いよな。
いつ帰ってくんだ?
携帯を見ても着信は無い。
遅くなるなら電話かメールのひとつぐらいしろっていつも言ってんのに、あの野郎。


「名前さんのご心配ですか?」

「んなんじゃねーよ」

「それにしては先ほどから携帯を開いたり閉じたりの動作が多い気がしますが…」

「うるせ」


ったく本田め…分かってるくせにわざと聞きやがって。
フランシスが持って来たフィナンシェに手を伸ばして口いっぱいに頬張ると「相変わらず食べ方汚いなぁ」とため息をつかれた。


「おい眉毛、紅茶よこせよ」

「ん…。?お前紅茶よりコーヒー派じゃなかったか?」

「たまは飲んでやろーと思ってな!」

「いちいち偉そうなんだよお前は」


太い眉毛をピクピクと動かして眉間に皺を寄せたアーサーはため息をつきながらもカップに紅茶を注いだ。
渡されたカップの中に砂糖とミルクをたっぷり入れる。


「なんやお前、そんなに甘くして紅茶飲むん?」

「いや、なんとなく…」

「名前さんがよくそうやって甘いミルクティーを作って飲んでおられますよね」

「なんやねんお前、名前ちゃんの真似っ子か」


余計な事言いやがって本田…。


「なんだなんだ、元気がないと思ったらプー太郎はご主人様が居なくて寂しかったのかな?」

「うるせーぞフランシス」


別に寂しいとかそんなんじゃねえ。
ただ、毎日一緒に居るやつが居ないからなんとなく違和感を感じるだけだ。
毎朝俺を起こす小さい手が今日はゴツゴツとした男の手で、いつも食べているあいつの手抜きの朝食じゃなくてフランシスの作った美味い料理で。
なんとなく、違和感を感じているだけ。


「そういえば今度ロヴィーノの学校で学園祭やるらしくてなぁ」

「あぁ、俺もマシューから是非来てくれって連絡もらったよ」

「私もアルフレッドさんの方からご連絡を」

「エロ紳士は愛しのアルフレッドからお誘いもらってないのかな〜?」

「う、うるせーよバカァ!!お、俺は別にアルフレッドに誘われなくても名前と一緒に行く約束してるからいいんだよ」

「なんやてぇえええ!?許さんでそんなの!!俺やて名前ちゃんと一緒に行きたかったのに!!」

「それじゃあお兄さんも一緒に同行させてもらっちゃおうかなぁ〜。あわよくば学園祭で出会った美女とイイ関係になりたいよハァハァ!」

「私も是非ご一緒させてください。学園祭と言えばどんちゃん騒ぎで素敵なハプニングが起こるというのがお決まりのパターン!!しっかりとこのカメラにおさめてみせますよ!!」

「うわ、菊どこからカメラ取り出してん〜」

「着物の袖の下です」

「菊ってそこから何でも取り出すよなぁ…中どうなってんの?」

「四次元です」

「お前は二次元までじゃ飽き足らず四次元まで操るって言うのか!?…菊、恐ろしい子…!!」


もやもやとした気分のまま、アホな会話を聞きつつ紅茶を飲み干す。
甘すぎんだよこれ…。
大きくため息をつくと、頭の上に乗っていたピヨちゃんが飛び立って玄関の方へと向かった。
ピヨちゃんが玄関へ飛んでいくのは合図みたいなもので、その数十秒後には玄関の鍵が開けられる音がリビングに響く。


「ただいま〜…つ、疲れたー…」

「ったく帰りが遅いんだよお前!!」

「遅いって…まだ夕方にもなっていないのですが…」


着替えの入ったボストンバッグを床に落とした名前が「ギルー」と唸り声をあげて俺の肩に額を乗せた。


「なっ…」

「会いたかったぜギル…軽く女の子恐怖症になりそうだったよ…」

「な、に言ってんだよアホが…」

「色々あったんだよちくしょう。だけど楽しかったー」

「ふーん」


肩に乗せられた頭をポンポンと撫でてやるとへらりと締りのない顔に、さっきまで胸の奥にあったもやもやとしたものが何処かへ消えてしまうような気がした。


「あ、名前ちゃーん!お帰り〜!」

「トニーさん!いらっしゃい。皆も来てたんだね」

「ボンジュー名前ちゃん!お兄さんむさ苦しい男ばかりでとっても寂しかったよ!!」

「お帰りなさい名前さん」

「エリザベータの家は楽しかったか?」

「うん。だけど色々と疲れちゃってさぁ…。いい玩具にされちゃったよ…ハッハッハ」

「なんで遠い目しちゃってんだこの子…。まぁお兄さんのフィナンシェでも食べて元気出しな?」

「やったー!フランシスさんのお菓子久しぶり!」

「今紅茶も淹れてやるからな。ミルクと砂糖はどうする?」

「たっぷりでよろしく頼むよ、アーサー」

「ん」


ソファーにどすんと腰掛けた名前は「あー、やっぱり家が一番落ち着くわ〜」とオッサンのような声を出した。
爺臭いと笑う本田に笑いながら憎まれ口を叩く名前の頬をぶにぶにと突くと「なんだよー、お姉さんに構ってほしいの〜?ギルちゃんは」と頭を撫でられた。
背中にトニーと眉毛の視線が刺さった気がしたが気にするまでもねぇぜ。
しばらくはあいつらをからかうように名前に甘えて見せてやるか!
たまにはこいつらの前で見せ付けてやるのも良い気分ってもんじゃねぇ?


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