「名前さん、コーヒーどうぞ」

「ありがとうティノ君」

「あ、一緒にこれどうです?サルミアッキ」

「うん、まだ死にたくないから私」

「もー、美味しいのに!!ねっスーさん」

「………んだな」

「な、なんですか今の間は〜!!」


今日も実に平和だなぁ。
いや、一部を除いて…の話しだけど。


「…」

「デーンさん。ちゃんと仕事してくださいよ」

「やかまし。今日は虫の居所が悪いっぺ…」

「ったく…。どうでもいいですけどこの書類にだけは目ぇ通しておいてくださいね」

「おー」


聞いてんのかおい。
窓の外をぼんやりと眺めたデンさんは「おもしれー事ねがっぺー?」と呟いた。
知るか、そんなの。


「うっしゃ!!景気づけに今日は飲みに行ぐべ!!」

「はぁ?私はパスですよ。ギルが待ってますし」

「おめぇ付き合い悪いっぺ〜?たまには俺に付き合え!!はいこれ上司命令!!」

「職権乱用ですよ」

「権力最高!!」

「いっぺん三輪車に引かれて入院してくれないかなこの人」


駄々をこねるデンさんをノルさんが回し蹴りを入れて黙らせた。
何気に喧嘩強いですよね、ノルさんって…。
この人には逆らわないでおこう。


「そういえば今度行きつけのカフェでハロウィーンパーティーする事になったんだー」

「わぁ、いいですね!僕も小さい頃に何度かお菓子貰いに行ってたなぁ…」

「ん。懐かしいなぃ…」

「良かったら二人も一緒に来る?」

「え、いいんですか?」

「うん!いつもの煩い連中も居るけどねー」

「わぁ!行きたいです!!皆さんにもお会いしたいですし…!」

「ん、行ってみてぇ…」

「それじゃあお店の人に言っておくねー。あと仮装パーティーみたいだからちゃんと衣装用意しておいてね!」

「衣装ですか?うわぁ、何を着ようかな…。名前さんはもう何を着るか決まってるんですか?」

「まだなんだよねー。友達が選んでくれるって言ってたけど…。ギルの分も用意してあげなくちゃ!何がいいかなぁ…」

「名前さんは魔法使いとか似合いそうですよね!」

「私…?そういえばエリザもそんな事言ってたような…」

「あんま露出したのはダメだかんない」

「はーい」


スーさんなんだかお父さんみたいだなぁ。
敬礼のポーズで笑うとスーさんの大きな手で頭を撫でられた。
スーさんはいいお父さんになると思うよ。



―――



「あ、アーサーじゃん。今帰り?」

「あぁ。今日は早く仕事が終わったんだ」

「それじゃあ一緒に帰ろうか」

「だな。そうだ、ちょっと本屋に寄ってもいいか?」

「いいよー」


帰り道に偶然出会ったアーサー。
いったいどんな本買うつもりなんだろう…。
エロ本か。


「そういえば…ほら、約束してただろ?ディナーに連れてってやるって…」

「あ、うん。パーティーのお礼にだよね」

「予約とか入れなきゃなんないからお前の予定があいてる日教えろよ。まぁ俺はいつでも大丈夫だからさ…」

「うーん…今月は何かと忙しそうだからなぁ…。今週末はエリザの家にお泊りで…来週はアルフレッド君の文化祭でしょ?その次の週はアンダンテでハロウィーンパーティーだし…」

「それじゃあ来月あたりにするか」

「そうだね。来月は特に予定も入ってないし」

「それじゃあこっちで適当に入れておくからな」

「了解であります隊長ー」


楽しみだなぁディナー!!
高級ホテルの料理なんて滅多に食べられないもんね。
お金持ちのアーサー君に甘えて沢山ご馳走になろうじゃないか。

本屋につくと真っ先にお料理コーナーへ向かったアーサー。
仕事帰りのOLや奥様の間に挟まれて必死に料理本を選んでいるアーサーの姿は実に面白かった。
写メを撮ってこっそりアルフレッド君に送りつけた事は内緒だ。


「そんなもの買ってもまともに読まないくせに」

「なっ、ちゃんと読むに決まってんだろバカ!!」


私は知っている。アーサーの部屋の本棚には幾つもの料理本が並んでいるがそれの殆どがまだ新品同様だという事を。
アーサーが本を選んでいる間暇だったので漫画コーナーをぶらぶらと歩いていると、本田さんの描いた漫画がふと目に入った。
うわー…これって私がモデルのキャラだよね…。
なんか複雑…。

適当に面白そうな少女漫画を手にとって会計を済ませた。
たまには漫画もいいよね。

駅まで迎えにきたギルが本屋の袋を持っている私を見て「何の本買ったんだよ?つか俺の漫画も買ってこいよな!!」と怒ったので買ったばかりの少女漫画を差し出すと「誰がこんな乙女漫画見るか!!」とつき返された。
だけど家に帰って、私が夕飯の準備をしている間にこっそりと少女漫画を読んだギルは涙を浮かべて「…切ねぇ…なんだこれ、胸がいてーぜ…」と鼻をすすっていた。
しっかりのめり込んでんじゃねーか…!





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